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【WJJC2022】ルースター級準々決勝で橋本知之はアオキ・ロックで失格に。優勝はタリソン・ソアレス

【写真】橋本は失格に納得がいかず、抗議をした(C)SATOSHI NARITA

2日(木・現地時間)から5日(日・同)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのウォルター・ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われた。
Text Isamu Horiuchi

年に一回、道着着用柔術の世界一を決めるこの大会のレビュー第1回は、世界初制覇の期待がかかった橋本知之の戦いを中心に、最軽量ルースター級の模様を報告したい。


<ルースター級1回戦/10分1R>
橋本知之(日本)
Def. 3分11秒 by襟絞め
ケヴィン・マーティンコフスキー(米国)

両者引き込みによるダブルガード状態から、マーティンコフスキーが上を選択してアドバンテージを得る。橋本はすぐに相手の左足にデラヒーバで絡みベリンボロへ。座り込んで防ぐマーティンコフスキーに対し、2回転目で背中に手を回した橋本はそのまま上になり、2点を先取した。

マーティンコフスキーが右足に絡んでくると、立ち上がった橋本。そこから前方にダイブするようにして右足を抜きながら左脇を差して上半身を制すると、完全に右足を抜いてパスに成功し5-0とした。

左腕で枕を取って胸を合わせて完全に相手を制している橋本は、やがて左手で相手の襟を掴んで引き寄せる。さらに橋本が左足で相手の頭をステップオーバーして締め上げると、すぐにマーティンコフスキーがタップ。わずか3分23秒での完勝だった。得意のボトムからの攻撃はもちろん、トップからの見事な体捌きによるパス、コントロール、そして極めと寝技の全局面で力を見せつけた橋本は、ほとんど消耗のない良い状態で初日のヤマ、カルロス・アルベルトとの準決勝に駒を進めた。

<ルースター級準々決勝/10分1R>
カルロス・アルベルト(ブラジル)
DQ 6分35秒
橋本知之(日本)

立ちでフェイントをかけ合った後、両者ともに前に飛び込んでから引き込み合う。アルベルトがすぐに上になってアドバンテージ獲得と思いきや、審判はこれをテイクダウンかスイープかは分からないが2点と判断した。

不可解な判定で先制点を許してしまった橋本は、アルベルトの襟と左足首を掴んで引き寄せ、尻餅を付けさせる。さらに左にベリンボロで回転してからシットアップして2-2の同点に。が、アルベルトも橋本の足首に絡んで浮かせると、すぐにシットアップで上を取り返して4-2と再リードした。

立ち上がったアルベルトに対し、橋本は左足を下から掴む。前に飛び込んできたアルベルトの左足に強烈なストレートフットロック。さらに回転した橋本は、アルベルトの左足を掴みながら勢いよく起き上がって4-4と追いついた。

上になった橋本は一旦立ち上がる。が、下から橋本の両足のズボンを掴んだアルベルトがシットアップ。上を取り返して6-4と再びリードした。

ならばと橋本は右にラッソーで絡むと、やがて片襟片袖に移行してアルベルトを引きつける。ここでアルベルトが尻餅をつくとすかさず立ち上がって上を取り返して6-6に追いついた。ここまでで試合時間の半分が経過。

橋本の左腕にラッソーで絡んだアルベルトは、橋本が腰を上げると右足にデラヒーバを作る。対する橋本は腰を引いて下がり、アルベルトの絡んでくる足を解除。さらに下がって距離を作った橋本は、すかさずそこに頭を潜り込ませるようにして上からのバック取りを仕掛ける。アルベルトも反応するが、一歩先んじた橋本はズボンを掴んで尻を出させることに成功。それでも距離を取ったアルベルトに対し、橋本は右足を取ってストレートフットロックへ。

すると、ここでレフェリーが試合をストップ。ストレートフットロックで締め上げている際、動いて防ごうとしたアルベルトのかかとが抜けかけた状態になったことで、内ヒールのような膝の靭帯への攻撃とみなされたようだ。いわゆるアオキ・ロックにレフェリーが橋本の反則を指摘すると、勝利を確信したアルベルトは思わず微笑みながらガッツポーズを作った。

橋本はレフェリーに抗議をするも認められず、6分35秒で反則負けを宣せられた。こうして橋本の世界初制覇の夢は、きわめて不運な形で潰えてしまったのだった。

終了時のスコアは6-6の五分だったが、前半お互い下になった時に攻撃を仕掛ける展開が続いた後、橋本がトップからも攻勢に転じて試合の流れを引き寄せはじめた矢先だっただけに、なおさらやりきれない結末だ。

試合後、橋本はSNSで「あの足関節技はここ数年流行っているもの。今回も他の選手たちが同じ技を使っていたのに、なぜ自分だけ失格にされるのか」、「あの技が反則になり得るということ自体が初耳。たとえ今回からルール改正が行われていたにしても、そのことは告知されていない」、「レフェリーに抗議したところ、最初から(アルベルトの)踵が出ていたからと説明を受けた。しかし動画で見直しても、最初は踵が入っていて後から抜けている。レフェリーは最初から見ていたわけではなく、相手のセコンドの指摘を受けてから状況を確認し、言いなりになった」等と不満の気持ちを綴った。

あの形から締め上げると、それが足首だけでなくヒザの靭帯を圧迫しかねない(=反則)のは事実だ。とはいえストレートフットロックからカカトが抜けた場合にレフェリーが流すということが過去になかったわけでもない。

IBJJFの足関節の定義として、ヒザが外側に捻られる攻撃はストレートフットロックでも反則となる。トーホールドでもヒザがもう片方のヒザの側に圧が掛かる場合は認められるが、逆側は反則だ。

今回、橋本が仕掛けたアオキ・ロックはヒザを外側に捻るモノで明確に反則といえる。と同時にIBJJFの審判団のなかでも「明確な反則だが、見極めが難しい」という意見がある。それは下を向け仕掛けているときなど、その状態に入っているかどうかの見極めが難しいということを意味している。

アオキ・ロックは反則か合法かの見極めが難しいということではない。と同時にカカトが抜けた状態で、捻りを加えれば反則というが、動きの中で攻撃者の意図しない危険が生まれてしまうのは、他の技にも見られる。よって、今回のケースはレフェリーも一瞬で反則負けとはしていない点にも注視しないといけない。

とはいえ橋本は、この状態が反則という認識がなく、他の試合でも見られたと指摘している。どれだけの選手にその認識がなかったのか。また、他のどれほどの試合でこの攻撃をレフェリーが見逃していたのか。

ここはIBJJFは競技会運営団体ではなく、競技管理団体として、ルール変更の徹底的な告知と審判の理解を深める活動が不足していると指摘されても致し方ない。見極めが難しい攻撃であるなら、詳細なルール上の規定・指導があって然るべきだ。

ましてや抗議に対して、レフェリーの不明瞭な説明でコトが収まることはあってはならない。これまで積み上げてきた努力が、曖昧さの犠牲になるようでは、アスリートはたまったものではない。

それでも橋本自身は、今大会の戦いには大きな手応えがあった模様だ。取り組みを改善したことで上達を実感できた、これからさらに強くなるし、そんな自分が楽しみだと前向きな姿勢を見せている。

なお、反則勝ちで橋本戦をクリアしたアルベルトは、翌日の準決勝でホドネイ・バルボーザと対戦。得意のハーフガードに引き込んだバルボーザに対し、両腕を伸ばして襟を掴んで立ち上がる形でその攻撃を無効化し、最初の8分間でお互い3回警告をもらってスタンドから再開。ここでバルボーザの引き込みに合わせて飛び込んで2点獲得。ほとんど攻防をせずに頭脳戦で勝利した。

決勝はそのアルベルトと、もう一つの山を順当に勝ち上がった第一シードのタリソン・ソアレスによる4月のパン大会決勝の再戦に。まず上を選択したアルベルトだが、ソアレスはラッソーから横に崩す見事なスイープで2点を取ると、そのまま上をキープして勝利。ソアレスは不運な裁定に泣いたパン大会の雪辱を果たすとともに、青帯から黒帯まで全ての帯で世界大会優勝という偉業を果たした。

試合後ソアレスは、今回は試合前にAOJでキャンプを張り、ギィ・メンデス師範の指導を受けた成果が出たと喜びの弁。特に今まではスイープ合戦をしがちだったが、今回は上からパスを狙ってプレッシャーをかけ続けた、これまではいろんな選択肢で迷うことも多かったが、ギィ師範のおかげで自分を信じることができたと語った。

若き新世界王者ソアレスをはじめ、トップ選手たちが日々進化を続けるルースター級。

今回は予測不能な形での敗退となりながらも、新たな自信とモチベーションを得た橋本が、今後彼らといかに対峙してゆくか、大いなる期待とともに見届けたい。

【ルースター級リザルト】
優勝 タリソン・ソアレス(ブラジル)
準優勝 カルロス・アルベルト(ブラジル)
3位 クレベル・ソウザ(ブラジル)、ホドネイ・バルボーザ(ブラジル)

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