【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その壱─PJ・バーチ×ヴィトー・ヒベイロ「達人と試合」
【写真】シャオリンの一本負け、そしてQuintetの面白さのロジックを青木が語る(C)TAKASHI IGA/QUINTET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一番、第一弾は5日に行われたQuintet03からPJ・バーチ×ヴィトー・シャオリン・ヒベイロの一戦を語らおう。
──10月の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。
「シャオリンのクインテットですね。アレは衝撃的でした」
──衝撃的ということはゴードン・ライアン戦ではなく、PJ・バーチ戦ですね。
「そりゃあ、バーチ戦です。チーム戦というのは2試合目の人間と1試合目の人間が戦ったりするから、2試合目の人間が負けてもそれは参考値にしかならないと思うんです。強さを測るうえで」
──ハイ。
「ただバーチとシャオリンは先鋒戦だった。そこでシャオリンが腕十字を取られたというのは……。アレが足関節なら事故かって思えるけど、腕十字をしっかりとバーチが取った。飛びつきとかでもなく」
──背中を取られそうになり、振り落したところで極められました。シャオリンはあのような形で腕十字を極められたことなかったのではないかと。
「そう、だからビックリしたんですよ。ヴィトー・ヒベイロが取られるなんてない。39歳とかいっても組み技で極められるのはショックでした」
──第一線で戦った時のように自分の練習をしているとは思えないのですが……。
「それでもショックだし、本人もそれで取られることがあるなんて思っていなかっただろうし。そうやって考えると、バーチがシャオリンを極めるというのは米国のグラップリングは如何に上がっているのかを証明した試合だと思います」
──掘ってしまいましたね。日本をベースと考えると、どう対抗するんだと。階級は違いますが、あのレベルで渡り合えるのは橋本知之選手、嶋田裕太選手、そして岩崎正寛選手、あとはホベルト・サトシ選手ぐらいではないでしょうか。
「クインテットに合う、合わないはあってもそうなるでしょうね。他に選手に関しては、あのレベルで彼らとやりあおうというのは弁えが無さ過ぎです。僕はイキってやって痛い目に合っているので。ADCCやメタモリスで。ゲイリー・トノンにも負けましたし」
──イキっているかどうかは分からないですが、トノン戦など見応えがありました。純粋グラップリングでもなかった面白さもありましたしね。
「胸を借りて頑張れたと思っているけど、米国のグラップリングの強さを感じましたね」
──リバーサルの醍醐味のないノーポイント&サブオンリーが完全に確立された感があります。
「リバーサルの攻防がない隙間を足関節がついてきていますしね。規格外のような感覚になっていますね」
──IBJJFのトップの強さは揺るぎないと思っているのですが、10thPLANET勢があれだけ強さを見せるのは、本当に驚きでした。
「ジオ・マルチネスにしても、独特の技術も持って、試合で形を創ったうえで勝てています。その辺は技術を掘り下げてこなかった日本勢との差は明白ですよ。明確に差が出るんですよね、技術がないと極められてしまうので。そんなノーギについて、俺が語るっていうことが本来はおかしいんです。
俺はノーギの第一人者じゃないし、ノーギグラップリングでないんですよ……なんの分野になるのかって話になるけど」
──青木選手はコロコロ・グラップリングではない。ポジションを取って極めに行く時代のグラップリングですよね。
「つまりベリンボロからの動きですよね」
──あとはしゃがんで立ち合いというのか……。
「しゃがんだもの勝ち。もうテスト対策過ぎて分からないですよ」
──試験官というべき、レフェリーも大変です。
「そういう今の時代に適したノーギを語ることができる人が、日本にはいない。足関節に長けている人もいない」
──クインテットは実は青木選手がエブ・ティンと試合をする日、ホテルを出る少し前に行われていたのですが、あの時思わずクレイグ・ジョーンズが極めたカイオ・テハ流のストレートフットロックが何だったのかを尋ねてしまったんですよね。
「そうそう、アレは実は驚きました。高島さん、何言ってんの? ただのカイオ・テハじゃんって(笑)」
──いやダブルガードの攻防で尻を取らせる、取らせないという攻防でないなか、カイオ・テハ流のアキレス腱なんて使う選手がいると思えず、違う技に見えたんですよ。
「アレね、荻窪で柔術道場をやっている大塚(博明)さんのセミナーの動画が流れていて、それで見たりしました。ただ、クレイグ・ジョーンズがアレを極めることができるのは怪力だからですよ。アキレスは何だかんだと言っても、力がいる技なので。
それにロジックとして、クインテットは負けても傷つかなくて、上がることを考えて戦うから大きな技が極まりやすいです。勝ち抜き戦だから、疲れている方は諦めるのも早いし。そこが盛り上がる要因になっている。それでもゴードン、クレイグ、ジオ・マルチネスとかは別領域ですね。グラップラーとして次元が違います」
──組み技はコンペティションに強いというのではなくて、フッとした時にまるで衰えを感じさせない達人のような人がいると思うんです。
「早川光由さん的な?」
──そこで青木選手から、すぐに早川さんの名前が出て来るのが驚きです。まさに私も日本人では早川さんを連想していたので。
「分かります。凄く強いって聞きますし。大昔に昼柔術で一度だけ触らしてもらったことがあるのですが、早川さんが強いというのはよく耳にするんです。ブログで『柔術で力を使わなくなったから、筋トレをする。筋力が落ちて来るから』って書いてあって。それって達人ですよね。
飯村(健一)さんの蹴りマスとかもそうなんですよ。試合とは違いますよ。でも、ムエタイの人の蹴りマスっていうのは本当に上手い。それも達人系ですよね。シャオリンも達人だと思います。ただし、フィジカルが関係してくる試合はまた別モノ。ショックでしたけど、それが分かりましたね。それでも短距離勝負でなく、時間無制限とかでしたらまた違っていたと今でも思っています」