この星の格闘技を追いかける

【2017~2018】久米鷹介─02─「僕は……本当に幸せ者なんです。皆と一緒、それが原動力です」

Takasuke Kume【写真】この筋肉は感謝の気持ちで創られ、主な成分は幸福で構成されている (C) MMAPLANET

9人のファイター達が語る2017年と2018年、久米鷹介の足跡と一里塚─第2弾。

2018年、日本のMMA界のベストバウトといっても過言でない徳留戦を勝利で終えた久米だが、今後の展望が開けたわけではない。

それでも、久米は自分を幸せ者だと涙を流し、徳留戦への日々は感謝の気持ちで満ちていたと振り返る。

感謝の気持ちが勝因となる──そんな久米と日沖、重久正トレーナーとのひとひらの物語に目を通してほしい。

<久米鷹介インタビューPart.01はコチラから>


──効くようなパンチは被弾していないですよね。

「あの展開になると相打ちとかはあるかと思いますが、徳留選手の方がダメージがあったと思うので……」

──ALIVE所属でありながら、stArtのマウスピースを思い切りテレビカメラにアピールしていました(笑)。

「あの時は社長(鈴木陽一ALIVE代表)が、アピールしろって言ってきて。社長もかなり舞い上がっていたのだと思います(笑)」

──ALIVEとstArtの連合軍の勝利ですよね。

「ここまで気合を入れてやってこられたのは徳留選手のお陰です。徳留選手が強いことは分かっていたので、もうやるだけだって本当に思えました。あとで映像を見て驚いたのですが、あんなに入場の時に笑っている試合はこれまでなかったと思います。凄く落ち着いていられました。

大きなケガもなく、自分がやるべきことは準備できた。なので、覚悟を決めて自分の全てをだすだけだって覚悟ができたんです」

──ロードFCに出場していた頃と比較して、普段の体がそれほど大きくないように感じます。

「それはあるかと思います。今は試合後だから太っていますが、自分のやるべきことが分かって来て……僕は動かないといけないから、練習でそこを高めていくには普段から絞っていないとできないですからね。

もう、今はMMA自体がそうなっているのではないでしょうか。僕自身、数値的にはフェザー級でも戦えます。ライト級では大きな方でもないですし、ただし僕のスタイルを生かすにはライト級の方が適しています」

──すっかりパワーファイターから、スピードスターに様変わりしましたね。ところで、この試合前や今も久米選手はどこを目指してMMAと付き合ってきたのでしょうか。

「それはどういうことですか?」

──徳留選手とのヒリヒリするような最高の試合が終わりましたが、この試合で例え負けても久米選手が引退することはないと思っていました。と同時に勝った先に何があるのか。そういう状況であのテンションで試合に向かい、戦うことができる要因が知りたいです。

「本当にのめり込んでいるというのか、普段の生活も充実していました。それが楽しかったです。こういう日々を送ることができるも、色々な人にサポートしてもらえているからで。この日々を送ることができたのは、本当に皆の協力のお陰で感謝しかないです。

試合までも僕は常に幸せ者だと思っていました。この試合で勝ったから、僕の人生が一気に切り開かれるモノではないと思います。UFCからオファーが来るとは思わないですし、RIZINで戦いたいという気持ちもない。

でも周りの人にエネルギーを貰って生きていけるって、本当に幸せだって……。そうやって練習していると、今も動きは良くなっているので、それがまた楽しさを増してくれるんです。

お金がないと生きていけないので、そういう部分で甘いかもしれないですが、僕の勝利であれだけサポートしてくれた人が喜んでくれるのは、僕にとっても本当に喜びでしかないです。

僕は本当に恵まれています。今回の試合前も発さんは、徳留選手対策のために体まで大きくしてくれて、ずっとマンツーマンで僕に付き合ってくれました」

──それは凄いですね。

「どんどん体を大きくしてくれて……。日に日に大きくなっているのが、僕も分かるんです。自分の適性体重でないのに、仕上げていく僕とマンツーでガツガツとスパーリングの相手をしてくれて……。発さんは僕以上に体がきつかったと思います。

自分を犠牲にして、徳留選手ならどう考えるのか、どう反応するのかまで考えて、スパーをし続けてくれました。そんな発さんと練習をしてきたのだから、僕も覚悟が決まったんです。発さんには……、あれだけやってもらって甘いことなんて僕が思ったり、逃げたりは……絶対にできないです」

──今も目に光るモノが見えますが……。そんな久米選手との日々は、日沖選手の人生も豊かにしていると思いますよ、絶対に。

「そう思って貰えると、僕は一番嬉しいです」

──勝っても負けても、人間関係が変わらない。素晴らしいです。上手く行かない時は自分でなく、原因を外に求めたくなるのが人間の常だと自分は思っています。

「負けて、それがサポートしてくれる人のせいだとか……そんな風な考え自体、今の話を聞くまで僕の頭にはなかったことです。そんなことはあり得ないです。そんな風に思うより、失敗の責任は自分にあると思う方がずっと楽です(笑)。

重久さんも普段は僕をいじりまくって、SNSでも色々なことを書いているのですが、ずっとパーソナルでフィジカルを見てくれていて。それだけでなく、練習に専念している僕のパーソナル指導も代行してくれていました。

僕はパーソナルをやると歩合だから、お金が入ります。でも、重久さんはそうじゃない。負担を増やしていて、その分や僕を見てくれている分の支払いに関しても『お前が勝ってくれれば、俺はそれで良い』って、何も受け取ってくれないです。

重久さんの仕事だけ増やしているのに……『お前が勝ってくれれば、それが一番だ』って……、僕は……本当に幸せ者なんです」

──感謝の涙がそれだけ出てくるのは、本当に幸せ者の証だと思います。

「重久さんも発さんも、あれだけやってくれて何の見返りも求めないんです」

──それはそれで本当に素晴らしいのですが、これからのために見返り、対価を求めて欲しいですね。それに久米選手のような幸せが、MMAをやっていると当然のようにあるんだと若い選手に思って欲しくはないです。

「……」

──久米選手と日沖選手、重久コーチが特別なだけで。そのような人間関係がMMAを続けるうえでの幸福として、当然のように求められることはない。他に全くないわけでなく、実社会よりずっと多いとは思いますが、あくまでもレアケースです。

「そうなのかもしれないです……ね。僕は本当に恵まれています。だから、今はそういう皆と一緒にやっている。それが原動力です。徳留選手との試合前は、感謝の気持ちでいっぱいでした。

僕の友人でトレーナー的なことをしている人から、『メンタルの部分で感謝の気持ちが一番ポジティブなので、そういう精神状態で試合に臨めたことは、一番の勝因といっても良い』と言ってもらえました。

今後に関してはUFCを目指すということは間違いないです。でも、どうすれば契約できるのかという規定もない。そういう状況だということを理解しているなかで、応援してくれる人と一つ、一つの試合を勝っていくだけです。

それに……徳留選手との試合に集中していたので、今はもう今後のことについてもあんまり何も考えてない状態が続いています」

──今後に関してはノープランですか。

「とにかく強い相手、徳留選手のように全てを掛けて準備ができる相手と戦っていきたい。そう思っています。そうなると、誰と戦いたいのかと個人名を挙げられるかといえば、そうでないのが現状です。でも、強い選手はいっぱいいると思っています」

──徳留選手のような強さを持つライト級の日本人選手は……青木選手は別として安藤晃司選手、下石康太選手、そしてケージに戻って来るならストラッサー起一選手がライト級に落とす方向でいるという話が伝わってきますが。

「そういう状況だと、国内で戦う可能性がある選手としてはどうなっていくのか……。本当に今は何も考えられないですが、今ということではなくて、海外には自分が戦わないといけないと思っている相手は一人います。

その選手のことは常に頭にあります。ただし、現実問題として今、戦うことができる状況ではないので、頭の片隅に置いているということです。最終的な絶対のゴールであるUFCを目指すうえで、その選手との試合は線上にはないですから」

──もうほとんど誰のことか、ファンも分かると思いますが。

「今の選択肢のなかで口にすることはないですが、いつか必ずという気持ちは可能性云々でなくて、僕がMMAを続けてうえで失くしてはいけない部分だと思っています。

あの選手にリベンジすることが、あの時僕をあの場で戦わせてくれた関係者の方々への一番の恩返しになるので。その部分は忘れないです」

<この項、続く

PR
PR

関連記事

Movie