【WJJC2017】ライトフェザー級はジョアオを倒したマイキーが優勝。史上3人目の米国人黒帯世界王者に!!
【写真】ルールを軸に徹底的に合理的な勝ち方を見せるムスメシが、ついに黒帯で世界の頂点に (C)MMAPLANET
1日(木・現地時間)から4日(日・現地時間)にかけて、米国カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われた。今年度における各階級、そして無差別級における競技柔術世界一を決定するこの大会。レビュー4回目は、パウロ・ミヤオの出場停止により群雄割拠状態となったライトフェザー級の準決勝、決勝の模様をレポートしたい。
<ライトフェザー級準決勝/10分1R>
ジョアオ・ミヤオ(ブラジル)
Def. by 8-4
ガブリエル・モラエス(ブラジル)
今年のヨーロピアンの準決勝の再戦がここで実現。その時は大ベテランのモラエスがミヤオのガードをパスして勝利し、世界をアッといわせている。
お互い下を狙ってダブルガード→膠着による減点という攻防を繰り返した両者。やがてモラエスが上を選択して上下が成立する。ミヤオは横回転からのシットアップで上を取るも、モラエスもすぐに体勢を立て直してポイントを返してみせた。
その後は低く担ぎを狙うモラエスと、両側でラッソーガードを作るミヤオによる比較的動きの少ない展開が続く。そのうちレフェリーはモラエスのみにペナルティを宣告し、ミヤオに2点が与えられた。リードされたモラエスが強引にパスに行くと、ミヤオは重心が高くなってできた隙を見逃さずベリンボロにから上を取って、リードを6-2に広げてゆく。
下になったモラエスも、ミヤオの足をとってのヒザ十字狙いから上を取り返すが、それでもまだ6-4でミヤオがリード。その後もミヤオは下になりながらも50/50を作り、圧倒的有利な状況だ。さらにそこで上になって8-4とリードしたミヤオは、終盤50/50を解除。
モラエスは懸命にディープハーフの体勢を作るが、ミヤオは巧みに上をキープ。時間が来て勝利が決定した瞬間、感情表現の乏しさで知られるミヤオは、舌を出して力強い表情を作ったのだった。
ヨーロピアンの雪辱を果たしたミヤオは、勝ち名乗りを受ける時も両腕を挙げて咆哮。今まで表に見せることのなかった感情をほとばしらせた。悲願の世界初制覇にあと一歩と迫ったミヤオ。一足先に決勝進出を決めたミヤオ。もう一つの準決勝を勝ち上がってくるのは──ノーギも合わせると4連敗を喫している天敵マイキー・ムスメシ、それとも作戦の世界王者アリ・ファリアスか。
<ライトフェザー級準決勝/10分1R>
マイキー・ムスメシ(米国)
Def. by 10-10 アドバンテージ 5-3
アリ・ファリアス(ブラジル)
ジョアオ・ミヤオと並ぶ優勝候補のムスメシは、準々決勝で難敵のアイザック・ドーダーラインと対戦。両者が下腹部を密着させ合い、お互いの胴体を足で巻き合うダブルリバースクローズドガード(?)で延々と上下が入れ替わるシュールな展開の末、アドバンテージ1差で勝利して、準決勝のアリ・ファリアス戦を迎えた。
ちなみにこのファリアスは昨年決勝でパウロ・ミヤオに僅差で敗れたものの、そのミヤオの禁止薬物使用発覚によって繰り上げ優勝を果たした前年度王者だ。今年は準々決勝でサミール・シャントレを大差で下し、勝ち上がっている。
ダブルガードからのアキレス腱固め合戦で始まったこの試合。やがて両者は50/50で足を組みシーソー状態で上下を取り合いながら足を狙い合う。ムスメシはそこで常に先に仕掛け、より有利な形で腹ばいのアキレスやエスティマロックを仕掛けて多くアドバンテージを取っていった。終盤に両者は場外へ出て、試合はスタンドで再開に。残り24秒で点数は8-8、アドバンテージは5-3でムスメシリードだ。
再開後ファリアスがたっくるテイクダウンを狙うと、ほぼ同時に座ってガードをとったムスメシ。これがテイクダウンと判断され、残り20秒でファリアスが逆転する。万事休すと思われたムスメシだが、すぐに横回転してファリアスの足を取ると、そこに自分の足を絡ませファリアスに背中を見せながら強引にステップオーバー。
尻を向けて座った形ながらも、ファリアスを仰向けにして再逆転に成功。そのまま体勢をキープして見事に勝利を奪った。ダブルガードをキープしてアドバンテージを稼ぐ上手さだけでなく、最も重要な土壇場の攻防で上を取れる強さを見せたムスメシ。世界最高峰の戦いにおいても、取るべきところで確実にポジションを取れるこの本物の地力こそが、ムスメシをしてポイントゲームの達人にたらしめているということがよく分かる戦いだった。
<ライトフェザー級決勝/10分1R>
マイキー・ムスメシ(米国)
Def. by アドバンテージ4-1
ジョアオ・ミヤオ(ブラジル)
予想通り、早々に両者座っての攻防となったこの試合。ムスメシはセコンドのカイオ・テハの如くアキレス腱固めを交えたダブルガード組手を作る。右足を捕らえられたミヤオは、ベリンボロを狙うものの回転できず、トゥホールド狙いに移行する。するとムスメシも応戦し、足関節の取り合いに。
両者当然のようにタップせず、この攻防が延々と続く。ともにアドバンテージを一つずつ獲得した後、残り2分40秒のところで、膠着によりペナルティが与えられてスタンドから再開となった。
再開後にすぐに座った両者だが、ここでムスメシの方が上を選択。アドバンテージを一つ獲得したムスメシは、すぐにミヤオの上半身を押さえつけながら、大きく開いたミヤオの両脚の間を右ヒザから抜けてサイドへ。ミヤオは柔軟性を生かして足を抉じ入れて体勢を戻すが、ムスメシがまた一つアドバンテージを追加することに。
残り2分。ラッソーを取るミヤオに対し、ムスメシはヒジを内側に入れて低く対処。ミヤオは内側に回転して股間から頭を出してバックを狙うが、ここでムスメシはミヤオの左足を両手で取るとトゥホールド狙いで倒れ込む。たとえ極まらなくても、このままミヤオに上を取らせなければ勝てるという算段だ。
残り30秒、執念でシットアップして上になったミヤオだが、ムスメシはトゥホールドを離さずスイープの成立とはみなされない。さらにミヤオは横に動いてさらに上体を起こし体重をかけてゆき、トゥホールド仕掛けているムスメシのグリップに手を伸ばしそれを引き剥がしに出る。
これでミヤオのスイープ成立、大逆転勝利かと思いきや、ムスメシはグリップを離しながら体をずらし、腹ばいになりながらミヤオの足を伸ばしてヒザ十字に。場内が大いに盛り上がるなか、目の前でそれを見たムスメシのセコンドのカイオ・テハは、両腕を高々と上げて勝利決定をアピールする。結局、ミヤオがムスメシの足狙いを座った状態でやり過ごすうちに試合終了。最後にムスメシにもう一つアドバンテージが与えられた。
最後の勝負どころで、「形だけでも上になる」というモダン柔術における必勝法的式を執念で実現させたミヤオだが、ムスメシは「極まらなくても足狙い」というカウンターでそれを無効化。結果、ムスメシはまたしてもモダン柔術のポイントゲームでミヤオを出し抜き、世界初戴冠を遂げたのだった。米国人王者の男子黒帯世界王者は、BJペン、ラファエル・ロバト・ジュニアに続いて歴代3人目となる。
留意すべき点は残り3分でスタンド再開された時に、下にこだわるミヤオに対して、ムスメシはあえて上を選択してミヤオを攻め込んでアドバンテージを奪ったという事実だ。ポイント取りの上手さの根底には、あのミヤオのオープンガードをも圧倒するおそるべき地力がある。この日のムスメシは、世界一に相応しい強さを見せた。
■リザルト
【ライトフェザー級】
優勝 マイキー・ムスメシ(米国)
準優勝 ジョアオ・ミヤオ(ブラジル)
3位 アリ・ファリアス(ブラジル)
3位 ガブリエル・モラエス(ブラジル)