【EJJC2017】ルースター級制覇、芝本幸司<01> 「考えてから動いていたのでは遅い」
【写真】ヨーロピアン優勝をじっくりと振り返ってくれた芝本。彼のみぞ知る、心理面は耳を傾けているだけでもヒリヒリした情景が浮かんでくる (C)TSUBASA ITO
1月22日、ポルトガルのリスボンにあるパヴィラォン・ムルチウソス・ジ・オジヴェラスで開催されていたIBJJF(国際柔術連盟)主催のヨーロピアンオープン柔術選手権──最終日。黒帯ルースター級を制した芝本幸司に話を訊いた。
Text by Tsubasa Ito
――ヨーロピアン選手権優勝、おめでとうございます。2012年以来、2度目の制覇となりました。
「ありがとうございます。今回は今までにないくらい、納得のいく試合ができました。私としては優勝したことよりも、3試合しっかり勝ち切ったことに価値があると思っています」
――初戦はガードから、準決勝はトップから、決勝はリードされた展開と、それぞれ違う試合展開になりました。それぞれの局面に対応し切れたことも大きいですか。
「そうですね。こればかりは相手にもよりますし、試合が始まってみないとどういう展開になるかはわからないので狙っていたわけではないんですけど、結果的に3試合とも違うタイプの試合ができて、自分の実力を確認できたという意味ですごくよかったですね」
――昨年のヨーロピアン決勝戦で、僅差の激闘を繰り広げたカイオ・テハ選手はマスターにエントリーしたため、今回アダルトには出場しませんでした。世界選手権前に戦っておきたかったという気持ちは。
「特にないですね。誰が出てくるかは私がコントロールできることではないので、たとえ誰が出ていようと、いまいと、1回戦で誰と当たろうと、そのトーナメントを最後まで勝ち切ることが重要だと思っています。
その中で今回は、カイオやブルーノ(・マルファシーニ)やジョアオ(・ミヤオ)といった世界のトップ選手が出ていなかったので、そういった意味ではきっちり結果を出したいという気持ちはもちろんありました」
――負けられない気持ちが大きかったと。
「優勝よりも、とにかく勝ち切ることが私にとっての結果だったんです。中でもやはり決勝戦ですね。ポイントをリードされて追う展開になったんですけど、相手は違ってもやはり、勝ち切れなかった去年のカイオ戦が脳裏をよぎりました。
去年はラスト17秒、勝つか負けるかのところで自分は負ける側になってしまったんですよね。同じヨーロッパ、同じ決勝の舞台で、去年の自分を超えなければいけない。そのためには、リードされたところからでも勝たなければいけなかったんです。
去年の自分を超えるという意味で、鼓舞した部分、意識した部分はすごくありました」
――決勝で戦ったホドネイ・バルボーザ選手とは前回大会の準決勝でも対戦していました。
「現在のブラジル王者だけあって、すごく地力がありました。去年は私が先に2ポイントを取って、そのあとに2ポイントを取られてしまったんですよね。最後はレフェリー判定までもつれるギリギリの勝負でした。
一戦交えた時点で今後、確実に力をつけてくる選手という印象があったので、今回も気が抜けないというか、必ず勝ちたい相手ではありました」
――決勝戦は試合開始2分過ぎ、バルボーザ選手のアキレス腱固め狙いに対抗した芝本選手のベリンボロが場外逃避と判断されたのか、先に2ポイントを奪われてしまいました。
「ポイントを取られた時は、しまったなとは思いましたね。自分の中でもどうジャッジされるかは、曖昧な部分だったんです。効力はなかったですけど、形の上ではフットロックを取られた状態でベリンボロを打ちました。
ただ、通常のベリンボロをかける正しい方向が、あの時はたまたま場外の方向だったんです。単純にブレイクになるのか、もしかしたらサブミッションの場外逃避の2ポイントを取られるのか。私としてもあいまいな部分だったんですけど、結果的に取られてしまったと。
世界柔術前にあのシチュエーションでベリンボロを打って場外に出たらポイントを取られると確認できたので、そういった意味ではよかったです。
残り時間が十分あったので焦りはなかったですけど、同じことをやったら時間がもったいないので、展開を変えた試合を組んでいかなければいけないなと思いました。それがダブルガードから上を取るということだったんですけど」
――試合は残り3分を切ったところから、バックを取って逆転の4ポイントを獲得しました。近年、テーマに掲げていたメンタルの強化が試されるような展開でしたね。
「そこなんですよ。それが今回の一番の収穫でした。過去の試合ではポイントをリードされるとそのまま逃げ切られてしまうパターンが多かったんですけど、それは何としてもどこかで打破しなければいけない。
必ず自分が逆転するんだという気持ちを持ち続けることを今回はすごく意識しましたし、去年のカイオ戦のようにならないように、最後まで勝ち切るために集中しようと思いました」
――その後はスイープで2ポイントを追加し、6-2で勝利を収めました。ただ課題を克服できただけではなく、それがヨーロピアンという大舞台だったことも大きいですよね。
「3試合とも10分戦ったんです。逆に言えば一本勝ちもなかったですし、初戦も2点差、準決勝もアドバンテージ差。とくに大量得点の差をつけたわけではないんですけど、今まで戦ってきたどの試合よりも自信になりました。完全に試合をコントロールできたので」
――昨年のヨーロピアン決勝のカイオ戦で、試合中に予期せぬ動き、つまりイレギュラーを起こすことの必要性を感じたと話していましたが、今回それが出た場面はありましたか。
「決勝戦のラスト3分から追い上げる場面は、相手が2点を守ろうというガードの形になっていたので、通常のように相手に動きを合わせてパスするのが難しい状況でした。だから何とかして、それまでの流れとはまったく関係のない状況に持ち込みたかったんです。
そのためには考えてから動いていたのでは遅いんですよ。まさにイレギュラーが必要な状況ですよね。リバースハーフガードのトップを取って、私がキムラでロックしたところまでは自分のイメージ通りですね。
そこから先の展開に関しては、その時、起きたことに対応していった結果、最後にチャンスが巡ってくるシチュエーションをつくれました。そこをクリアできたことが、今回のメンタル面での収穫につながるところですね」
<この項、続く>