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【UFN34】UFC出陣、川尻達也(01)「強くなり続けるには……」

Ttsuya Kawajiri

【写真】この日はひかりTVのUFC中継で初めて解説を行った川尻。言動の一つひとつに力が籠った揺るぎない決意が感じられた (C)MMAPLANET

来年――2014年1月4日(土・現地時間)、シンガポールのマリナベイ・サンズで開催されるUFC Fight Night34「Ellenberger vs Saffiedine」で待望のUFCデビューを果たす川尻達也。

国内フェザー級、いや国内MMAの残された最後の砦がついにオクタゴン参戦を決め、ハクラン・ディアズとの対戦が決った。35歳になった川尻に、UFC参戦を決めた背景、ハクラン・ディアズ戦、そしてUFCでの戦いについてインタビューを行った。まずは川尻がUFC出場に踏み切った今夏の心情を語ってもらった。

――いきなりバックステージ・トークのようになってしまいますが、実は8月に水垣選手と日沖選手が出場したUFCに取材をしたときに、とあるズッファ関係者が『なぜ、カワジリはUFCで戦いたがらない。出来る限りの条件は出させてもらったんだ。これで2度も断られた』と、怒りとも嘆きともつかない感じで話してきたんです。あれから2カ月、自分としては急転直下のUFCとの契約という感じがしたのですが。

「マジですか? 8月の終わりごろですよね。実は8月の頭に日本で……言っちゃっていいのかな? VTJからオファーを貰っていたんです。これ、書いちゃいますか?」

――自分はもう業界も変わらないといけないと思っていますし、書きます。VTJが川尻選手を欲していたということは、彼らの志の高さだと思いますし。

「ハイ。でも、最終的にまとまらなくて……。今年の2月にちょっとケガをして、そこを治すためと練習に集中したくて半年間は試合がなくても良いって思っていたんです。練習に没頭しようと思って、ちょうど半年後の8月になってすぐにオファーを頂いて。でも、それがまとまらなかった時に完全に集中力が切れてしまったんです。

今までは試合がなくても、ハードに練習できていたんですが、どうにもならなかった。で、その頃に児山(佳宏)の修斗のタイトルマッチが決ったんです。いつも一緒に練習している児山が、JB SPORTSで山田(武士)さんとミット打ちとか追い込んだ練習をしているのを見て、『眩しい』って思ったんです。これまで、そんなこと児山に感じたことなかったのに――で、『俺、何やっているんだろう』って。

児山もなかなか試合が決らない状況が続いていて、やっと掴んだチャンスを生かすために精一杯やっている。その姿を見て、自分はどうしてしまったんだと思ったんです。実際に練習しても、それも以前にはなかったんですけど、かなり児山にやられてしまって。アイツは必死になっていて、僕は集中力を欠いてしまっている。強くなってさえいれば、そこまで深く考えることは無かったと思うんですけど……。弱くなっている自分が、本当に耐えられなくて。

常に強くなっていないと意味がない世界に自分はいると思っています。そして、このままだと大晦日に例えDREAMがあったとしても負けてしまうって気持ちになったんです。そして、あとは下っていくだけだって思っちゃったんですよ。そんな状況で、自分のなかで自分がベストでいるためには、どうすれば良いのかって考えた時、やっぱり最後にUFCに挑戦するしかない、挑戦したいっていう気持ちが大きくなりました。そこからですね……」

――そしてズッファにコンタクトを取り始めたと。

「これまではDREAMのスタッフにおんぶに抱っこだったので、いつまでもそれじゃいけないってこともありました。人の一歩を期待するよりも、自分で一歩踏み出さないと、自分を取り巻く状況は何も変わらない。だからこそ、やってやろうっていう気持ちになりました」

――去年の大晦日戦後も、まだDREAMと一緒にやっていくという気持ちを持っていましたか。

「ハイ」

――それが8月頃には気持ちに変化が生じたと?

「例え大晦日があったとしても、その先は大会が開催されるか分からなない。ここ2、3年の状況と変わらない。同じことの繰り返しでしかないことも分かっていました。この状況が続くと、練習にも身が入らない。強くなり続けることは、難しいって思うようになりました」

――その大晦日、とあるプロレス団体と接触を取り、そのイベントのなかでMMAを組むという話が進み、結局、決裂したようです。そこでもう、完全に頭がシフトされたことはないですか。

「そういう噂もありましたよね。その話を聞いた時に、僕のせいじゃないかって思ったんです」

――……。

「なんとか川尻に試合をさせようと苦労している彼らの重荷になっている。逆に僕がいない方が、彼らもスッキリしてリセットできるんじゃないかって。僕は本当に彼らにお世話になりすぎていた。自分でも分かっていて、甘えていたんです。僕がいない方が、大晦日どうこうもなく、日本のMMA、DREAMのスタッフも一からやり直せるんじゃないかって思ったんです」

――リアルエンターテイメントの加藤(浩之)さんは、UFC出場を快く認めてくれましたか。

「それは快く送り出してくれましたよ。やっぱり、加藤さんだって負い目はあるだろうし。僕が悪いなって思うように、加藤さんも思っていてくれたはずだし。本当に『行って来い』と言ってくれました」

――今年の元旦の記者会見で、DREAMフェザー級王者、OFCフェザー級王者、Bellatorのフェザー級王者と戦って三冠王になりたいという発言は、しっかりとDREAMを運営してくださいよと川尻選手がプレッシャーを掛けているように感じていたんです。

「ハハハハ。その通りですね。だからっていうのか、UFCへ行くことに関して、引き留められたことはないんです。去年の6月の時点でDREAMの開催の目途が立たず、加藤さんと会った時も『UFCも選択肢として考えて良い。お前が行きたいところを選んで良いぞ。OFCでもBellatorでも、UFCでも』って言ってもらっています。その時点で一度、UFCで戦おうとUFCに働きかけていたこともあったんです。

でも、その時もケガをしてしまって、交渉を一旦中断してもらっていたんです。そうこうしている間に、大晦日の大会開催が決まりました。これはGLORYとDREAMの会見のときにも言ったんですが、もう『日本の格闘技界との縁だ』って思ったんです。UFCに出ようと思ったときに怪我をして、休んでいる間に大晦日が決るという、これは僕と日本との縁。

今の格闘技界の若い子、今から格闘技を始める子って、あの時の僕のような選択をする人間はいないと思います。本当に強くなりたい奴は、最初からUFCを目指すでしょう。でも、僕は違う。修斗、PRIDE武士道、DREAMでやってきた。だから、俺みたいなヤツがいたって良いんじゃないかって。日本でやってきたから、日本で終るって覚悟であの時はいました。大晦日で戦う、日本で戦い続けようって決めたんです」

――なるほど、だからUFC関係者も『2度目だ』って言っていたのですね。

<この項、続く>

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