【A1 Combat31】1年振りの試合でガルシアとフライ級戦、川原波輝「判定で勝ってもどうにもならない」
【写真】自らで選んだ道を全うする。川原には、それだけの覚悟がある(C)MANABU TAKASHIMA
11日(土・日本時間)、米国カリフォルニア州ロングビーチのサンダー・スタジオで開催されるUrijah Faber’s A1 Combat31 「Collins vs. Evangelista」で、同ストロー級王者の川原波輝がエリアス・ガルシアとのフライ級戦に臨む。
Interview by Manabu Takashima
川原にとっては昨年10月、英国でチャーリー・ファルコを判定で下し、Cage Warrios SEストロー級王座を獲得して以来の試合となる。カリフォルニア州サクラメントのチーム・アルファメールを拠点とし、米国でのストロー級確立を目標としている川原。その確立とは、UFCにストロー級が設置されることだ。そんななか、なぜ今回はフライ級で戦うこととなったのか。川原が今もなお米国で活動する理由とともに語ってもらった。
正解は分からないです。でも厳しい道でやり切って、後悔のないほうが良い
――試合を5日後に控えた川原選手です(※取材は6日に行われた)。前回の試合は昨年10月でした。
「そうですね。もう1年が経ちます」
――試合後に一時帰国した後、いつ頃サクラメントに戻ったのですか。
「今年の2月ぐらいです。英国の試合で拳を骨折して、3カ月ほど日本でゆっくりしてからサクラメントに戻りました。そのあと4月に1週間だけ帰国したんですよ。いろいろ歯医者とか行きたかったので(笑)。それ以外はずっとサクラメントにいます」
――現在、アルファメールで練習している日本人は……。
「僕だけですね。2月からは、ずっと僕一人です。ただ2月に、僕がサクラメントに戻る2週間前ぐらいから石原射という選手が来ていました。第2回MMA甲子園の優勝者で、2カ月ほどアルファメールにいたと思います。僕が合流してからは一緒に練習していましたね。もともと彼は僕にDMを送ってきていたけど、こちらから返事をしていなくて(苦笑)。
僕が初めてアルファメールに行った頃は、基本的に選別が厳しかったんですよ。『ハンパなヤツは来るな』って考えのチームやから、簡単に来ることができるようなところじゃなくて。僕は中村優作さんに『強くなりたいから行かせてください』と頭を下げて、何回も断られ、ようやく行くことができたんです」
――そうであれば石原選手からのDMも放っておかず、「僕たちはこうやってアルファメールで練習できるようになった」と教えてあげれば良いのではないですか。
「いや、それが違うんですよ。僕が返事をしなくても彼はサクラメントに来ましたから。本当に来たいヤツ、強くなりたいヤツはツテの有る無しは関係なくて。僕も最初に来た時は英語も喋れないし、携帯もSIMカードのやり方とか何も分からない。それも乗り越えてアルファメールに来ました。それぐらい覚悟を持っているヤツのほうが、チームも受け入れるというか」
――米国で練習するとなれば最近はフロリダのATTに行く選手が多いです。ユライア・フェイバーのもとで練習している川原選手は、どう感じていますか。
「今はATTにチャンピオンが多いし、堀口恭司さんの存在も大きいですよね。でも――まぁ『アルファメールはナメられているな』っていう想いはありますよ(笑)」
――アルファメールも負けていない、と。
「それは僕次第ですよね。僕の結果次第だから仕方ないっていう気持ちもあって。次の相手は元UFCファイターだから、そいつをブチのめせば早いと思っています」
――川原選手自身は昨年10月以降の試合出場について、どのように考えていたのでしょうか。
「次はアダム・アントリン(※2016年TUF24の準決勝で扇久保博正に判定負け。2019年に来日、パンクラスで2連勝している)とA1ストロー級王座の防衛戦をやる予定でした。
英国の試合で僕が拳を怪我していて、半年経って今年の2月、3月に拳が良くなってきていたから『アダム・アントリンのほうはどう?』と尋ねたんですよ。そうしたら今度はアダムが怪我して復帰まで1年は掛かる、と……。だからまた来年の2月か3月にはアダムも復帰して、そこでストロー級王座の防衛戦という話も挙がってはいます」
――アントリン戦が延期になった時点で、ここまでの間に試合をしたいという気持ちもあったのではないですか。
「正直言うと、僕も拳の調子が万全ではなかったんですよ。だからもう少し試合間隔を空けて、もっと柔術やレスリングを底上げしたいと思いました」
――柔術やレスリングの底上げに関して、日本のジムとアルファメールでは大きく違うものでしょうか。
「別に日本でも可能だとは思いますよ。柔術やったら日本人のほうが教え方も上手いでしょうし。レスリングについても、こっちのファイターには『日本のレスリングは凄いだろう。なぜ米国に来ているんだ!?』と言われます(笑)。
ひとつ大きいのは、環境ですよね。ポポ・ジョセフ・モラレスというTUF33で優勝した選手が柔術のコーチをしているレスリングジムがあって。そこへ行けばレスリングと柔術、両方練習できる。日本やと柔術道場と大学レスリング部との移動時間があるので、僕の中ではひとつの場所でまとめて練習できるというのは大きいです。柔術とレスリングが混ざった練習もできて」
――日本では柔術とレスリングを混ぜた練習ができる場所はない?
「ピュア柔術とピュアレスリングが混ざったところは、なかなかないとは思います。しかもボポは現役のMMAファイターですし」
――とはいえ拳を負傷していて試合もない状態だと、日本にいるほうが楽ではないかと考えてしまいます。
「う~ん、どちらが正しいか正解は分からないです。でも厳しい道はコッチやと思うんで。
1年間、試合をしていなくてスポンサーもいない。お金も底をついた。そんな僕の状況を理解して、家賃や食事とかをサポートしてくれています。そんななかで僕が日本に帰ったら……。帰国して日本でMMAを続けるほうが正しいのかなって思うこともありますよ。正解は分からないです。でも厳しい道でやり切って、後悔のないほうが良いと思っています」
――自分が選んだ道が正解かどうか、その答え合わせは自身にしかできないですから。
「そうなんです。『米国に行ったから強くなれるんか』と思われる部分はあると思いますよ。結果が全ての世界やから。でも僕はアルファメールにいて、このチームに誇りを持っている。チームメイトに対してもそうだし、ここで練習していることに対しても。自分で過酷なほうの道を選んでいるので、後悔はありません」
フィニッシュしたいですね。やっぱりインパクトを残さないと――
――なるほど。そんななか試合ができる状態になったのは、いつ頃ですか。
「6月、7月ぐらいですね。『アダムとの試合は来年になるから、次はフライ級でどうだ?』という話があって」
――ストロー級王座防衛戦が延期になり、フライ級戦の打診が来る。それだけ米国にはストロー級の選手がいないということでしょうか。
「いてるんですよ。アダムのほかにもう一人いるけど、その選手は戦績が5勝5敗なんですよ。実績的にA1のタイトルマッチには出せないということでした。僕はノンタイトルでもええから試合したい、と言ったんですけど組まれなくて」
――フライ級であれば、他のプロモーションでもチャンスはあると思います。
「LFAにも出ることはできますね」
――LFAではフライ級の試合がたくさん組まれています。しかし川原選手の中ではLFAに出る気がなく、A1にこだわっているということですか。
「はい、やっぱりチーム・アルファメールなので。LFAも良いとは思いますけど、フライ級であればA1からでもUFCに行けますから。僕のためにA1でストロー級を創ってもらったことは大きいです。あとユライアがWECでスターになったように、A1でカマしたいなっていう気持ちはありますね」
――サクラメントが拠点のA-1ですが、ロングビーチで大会。移動手段は?
「ユライアにキャンピングカーを借りて、チームメイトが運転してくれます」
――やはり車移動なのですね。
「そうですね。7時間かけて、行きます。でも計量の前日入りで、計量と試合と3泊ホテルを用意してくれていますし、それはデキることですから」
――次の対戦相手、エリアス・ガルシアに対してはどのようなイメージを持っていますか。
「なんか――『強いんかなぁ?』って(苦笑)。
最後の試合が2年前で、試合間隔が空いてもバーッと覚醒する選手もいます。それが僕かもしれないし、相手かもしれない。でも映像を視るかぎりでは全然……。
相手も昔アルファメールに来ていたみたいで、フライ級のファイターは彼のことを知っていて『行けるんじゃないか?』と言ってくれています。10勝2敗という戦績だけなら凄く強く見えるけど、試合映像を視ると――でも負けない理由は何かあんねやろな、とは思います」
――確かに、映像でそう見える選手も対戦してみたら強い。そういう試合を何度も見てきました。
「そうですね」
――川原選手はフライ級まで減量する場合、ストロー級の試合と比べてどちらのほうが動きは良いですか。
「フライ級のほうが良いと思います。僕の動きだけを見ると。減量もほとんどないですし、動きもスタミナもパワーも明らかにフライ級のほうが良いので」
――しかしフライ級だと相手が大きいですよね。フライ級には70キロぐらいから落としてくる選手もいます。
「気になるのは、そこだけですね。でも『2階級上でも、やってまえ!』というのがアルファメール内の意見で。『2階級上げようと、3階級上げようと、お前のスタイルがあるから』と。スピードスタイルがあるから、それをぶつければ大丈夫とは言ってくれています」
――ではガルシア戦では、何を見せたいですか。
「フィニッシュしたいですね。やっぱりインパクトを残さないと――という部分はある。もちろん簡単なことではないので、フィニッシュすることを考えたらナーバスにはなりますよ。判定で勝ち切るという戦い方を考えると、すごく気持ちは楽になります。でも理想は、そこなんですよ」
――最近のMMAは、ガンガンぶつかり合う試合が増えてきました。特にUFCファイターになるためには、そういうファイトをしなければいけない空気になっています。川原選手の中でMMAとして勝つことと、ガンガンぶつかり合う試合をすることのバランスは取れていますか。
「う~ん……、バランスですか。どうなんやろうなぁ……、……難しいですね。
とにかく後悔のないようにハードな日々を送ってきました。それはファイトキャンプ以外の時からずっと。そんな僕を見て、格闘技の神様が答えを出してくれるのか――僕も答えが気になるというか。ただ倒しに行かないと、判定で勝ってもどうにもならないので。
年齢も年齢ですし、とにかく自分のスタイルを思いっきりぶつける。その結果、答えがどっちになるかは僕も気になるところですね。ただ、倒しに行くスタイルというのはだけはブレたくないですね。それだけはブレないです」
――では改めて試合への意気込みをお願いします。
「対戦相手には、試合を受けてくれて感謝です。僕も感謝して戦いたいと思います。相手にも、支えてくれている皆に対しても。それに尽きます」
――最後に安藤達也選手がRIZINで注目される存在になりつつありますが、どのように見ていますか。
「良かったと思います。挑戦した結果なので。Road to UFCに1階級上で挑戦した。僕もフライ級で戦うから、簡単じゃないことは分かるし。安藤がは挑戦してきたからRIZINで勝てていて、強い選手と戦いたいと思っている。僕とは今いっしょじゃないですけど、安藤が幸せなら僕はもう嬉しいだけです」
■視聴方法(予定)
10月11日(土・日本時間)
午前11時~UFC FIGHT PASS