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【Just Curious 2025~2026】ROMANが提唱するバーリトゥードの復権。古くて新しい技術が見られるのか

【写真】このシーンで、目を背けたくなった人たちの共通点は――あの試合を覚えていることだろう(C)MMAPLANET

2025年を終え2026年を迎えたタイミングで、MMAPLANET執筆陣が昨年の格闘技シーンにおいて、妙に気になった出来事が今年にどうつながっていくのか――を想い巡らせコラム調で気軽にお伝えしたいと思います。題して「Just Curious 2025~2026」、第一弾は高島学が12月13日にROMANが開催したVT:R ZEROで感じたバーリトゥードについて書き綴ります。
Text by Manabu Takashima

Vele Tudo――バーリトゥードという言葉を聞いても、ピンとこない格闘技ファンが増えたに違いない。ポルトガル語で「何でも有り」。グレイシー柔術の担い手が、柔術の優秀性を証明するために他の競技のファイターと戦う。その際、公平を期すために最大限ルールを撤廃した戦いが、MMAのルーツであるVele Tudoだ。

と同時にブラジルの北部では、柔術の優秀性を証明するという大義はなく、興行としてバーリトゥードが行われてきたという。その存在が世界に広まったのは、いわずもがな1993年11月に産声を挙げたUltimate Fighting Championshipだ。


バーリトゥードが、MMAとして世界に伝播し一大ファイティング・エンターテイメントに昇華した過程を説明しようものなら、とんでもない時間を要してしまう。そこは割愛させてもらうが、おおざっぱにいうと階級、ラウンド制が加わり、急所への攻撃、髪の毛をひっぱる行為、頭突き、グラウンド状態の相手に対する足での攻撃が廃されたのがMMAだ。

それでも2000年前後までは、ヒザ蹴りやサッカーボールキックを新たに加えるのではなく、かつての習慣に従うという流れで頭突き、グラウンド状態にある相手への足での攻撃が許されたMMA大会が行われてきた。

それにしても25年、四半世紀も前の話になる。RIZINやONE、日本国内のいくつかのプロモーション以外、ほぼ北米ユニファイドルールに統一されているなかで、2024年にROMANがバーリトゥードの復権を謳い、2試合を実施した。

2025年はROMANの名の下、道着MMAの普及が進む一方で、スピンオフ大会として上記のVT:R ZEROで4試合のバーリトゥードが行われた。素手、急所蹴り、頭突き、バーリトゥードならではという要素が見られた中で、特に印象に残っているのが、第2試合のワンシーンだ。

柴田宏太が杉本寛樹に腕十字を仕掛け、グリップがなかなか切れないという場面。その瞬間、目を背けたい衝動にかられた。柴田が杉本の顔面にカカトを容赦なく落とす――そんな怖すぎる場面を目にすることになると思ったからだ。

そう1999年12月にVTJ’99でジョン・ホーキが、池田久雄に仕掛けた攻撃だ。しかし、今思い出してもゾッとするほど凄惨な仕掛けを柴田が再現することはなかった。

他の試合でも下になった選手のガードワークは、2000年7月にブラジルのニテロイで行われた頭突き有りルールの試合(HEROES)で、柔術家やルタリーブルのファイターが駆使していたガードポジションとも違っていた。自分が最後に見た頭突き有りのMMAでは、出場選手は片方の腕でワキを差し、もう一方の腕で相手の頭を抱え自らの頭の横に引き寄せていた。上の選手のパンチ、ヒジを防ぐだけでなく頭突きを貰わないガードワークだ。

ある意味、バーリトゥートとMMAの時間軸は一つの文明が消滅し、新たなる文明が起こったことに似ているように思う。新たな文明が起こった際に、継承されなかった文化や習慣が絶対にある。

今や世界中に広まったMMAのジムや柔術アカデミーで、実際にバーリトゥードを戦った指導者がどれだけ残っているのか。それこそムリーロ・ブスタマンチ、ファビオ・グージェウ、アマウリ・ビテッチら、ごくごく限られたレジェンド&マスターぐらいだろう。

マルコス・パフンピーニャやデデ・ペデネイラスも、その術を受け継いでいるに違いない。とはいえ彼らがMMAやIBJJF柔術を戦う教え子たちに、ルールで許されない技術を教える機会などどれだけあるのか

蒸気機関車を操作できる運転手、修理できる技術者が減り続けていることに通じる。電車やディーゼル気動車の運転方法と、蒸気機関車の運転方法はまるで違う。蒸気機関車が一部の観光列車以外は廃止された現在にあって、蒸気機関車の運転手を育成する必要はないのと同じだ。

いわばMMAと柔術で伝承されなかったバーリトゥード、古の技術がルールを適用したからといって即・再現されることない。バーリトゥードとは、少なくともブラジル以外の国では「概念のみ」が残っている戦いなのだ。

だからこそ、ROMANの試みが愉快でならない。それが格闘技、MMAの良さだろう。2026年になって、野球人が「ラウンダーズ」の復興に本気になり、興行を打つことがあるのか。ブラッディさを売りとしないベアナックル・ファイトの意興行主が存在しているだろうか。

2026年。Roots of Martial Arts Networkが提唱するバーリトゥードの復権により、「古くて、新しい技術」が見られることが楽しみでならない。

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