【UFC320】グティエレス戦へ、バシャラット兄弟・弟ファリド「MMAグローブの危険性は、認識すべき」
【写真】話しぶりも佇まいも本当に冷静で、落ち着き払っている (C)MMAPLANET
4日(土・現地時間)、ネヴァダ州ラスベガス近郊パラダイスのTモバイル・アリーナで開催されるUFC320「Ankaraev vs Pereira 2」でファリド・バシャラットが、クリス・グティエレスと戦う。
text by Manabu Takashima
2歳上の兄ジャビッドとともに、UFCで戦う兄弟ファイターは戦火の母国を離れ、難民キャンプを経て英国に移り住んだ。そこで出会った格闘技を真剣に向き合うことで、「今」を掴んだ。
日本に住んでいては想像できない生い立ちこそ、彼らのMMAを戦う上での信条に通じている。
2歳の上のジャビッドの背中を見て、僕は成長した
──お兄さんのインタビューは何度かさせてもらったことがあり、ジャビッド目線で内戦状態のアゼルバイジャンを離れ、パキスタンでの難民キャンプを経て英国に移住というハードな人生を振り返ってもらいました。その人生があり、強い精神力を持てるようになったと。
「そこは僕も兄と同じだ。普通の子供たちが経験している普通の生活を求めることはまるでできなかった。あの経験が、今の僕の人格形成に大きく影響しているよ。自分の能力を最大限に伸ばす力をつけることができた。
英国に移ってからも当初は言葉が通じないから、家族そろって厳しい状況でもあった。父はちゃんとした仕事になかなかつけなくて、サラリーの安い仕事をいくつも兼業しないといけなかった。学校では言葉の違い、文化の違いで虐めもあった。でも、幸運なことに僕はジャビッドがいてくれた。そういう状況から抜け出すために、兄と一緒に向き合うことができたんだ。
2歳の上のジャビッドの背中を見て、僕は成長したようなものだしね。兄が間違った道を歩んでいたら、僕もそうなっていた。ジャビッドはいつも、正しい道を行くという重荷を背負っていた。そうしてくれたことで、僕らは今ここにいることができる」
――人生において師のような存在ですが、MMAファイターとしてはライバル視することはなかったですか。
「兄は僕にとっての模範だよ。間違ったことをすると正してくれる。ただジムでずっと一緒に練習してきたのだから、一番のライバルでもあるよ。悪い意味でなく、お互いを高め合うということでも。兄は僕にとって、常に一番の競争相手だからね」
――ファイトウィークにジャビッドのインタビューをした時にちょうどファリドがコンテンダーシリーズで試合がありました。ファリドの勝利を信じて疑っていなかったですが、ナーバスになっていたようにも思います。
「そこも僕と兄は同じで。自分の試合よりも、兄の試合の方が緊張する。自分が戦う時は、ケージのなかで自分をコントロールするだけだ。でもコーナーにいると、方向性をアドバイスするしかできない。それが凄く精神的に削られるんだよ」
僕らは部屋に戻ってもずっとMMAのことを一緒に考えることができる
――兄弟揃って同じ階級で戦うことは、アドバンテージになりますか。
「絶対だよ。僕らはサイズが同じで、ファイトスタイルもとても似ている。特にメンタルが同じだ。ジムだけでなく、家に戻ってもドリルを一緒にすることができる。これは凄いアドバンテージだと思っている。
誰もがジムでのトレーニング中は集中している。でも、僕らは部屋に戻ってもずっとMMAのことを一緒に考えることができる。試合をチェックして、技術を確認する。戦術的なことを話していると、シャドーが始まってしまうんだ(笑)」
――互いに対策練習をしていると、その対戦相手といつか自分が戦うことがあるかもしれないですし。
「実際、今回の相手のクリス・グティエレスは去年の8月にジャビッドと戦う予定だった。ジャビッドのケガで流れてしまったけど、それまで彼と戦うためにファイトキャンプを行った。だから、最初から僕はクリスのスタイルに明るかった。1年前にゲームプランは完成していたからね。そして1年後に再びクリスと戦うためにキャンプを行った。
ゲームプランは完璧だよ。ゲームプラン、準備が完全だから今回の試合は凄く自信を持っている。キャンプも順調に終えたし、自分が土曜日にどのようなパフォーマンスを見せることができるか凄く楽しみだ」
――では改めてクリス・グティエレスの印象を教えてください。
「堅実に経験を積み重ねてきたファイターだ。打撃に関しては極めて危険な相手だけど、穴もある。しっかりとした打撃戦になると、打ち合いでは僕に分がある。彼の弱点も把握しているからね」
――バシャラット兄弟は揃って冷静で、自身をコントロールできます。同時に今のUFCではコンテンダーシリーズに代表されるKOするか、KOされるかというエキサイティングな戦いを求められ、ディフェンスが疎かになることもあります。確かに激しい試合は歓迎ですが、そこに高度な防御が伴ってほしいとも感じています。
「その通りだ。100パーセント合意するよ。戦ううえで、最も大切なのはディフェンスだ。オフェンスよりも、ディフェンスが重要で。そこを忘れると、勝てない。ダメージがないからこそ、ダメージを与えることができる。攻撃よりも守備が大切なのは全てのスポーツに当てはまることだけど、どういうキャリアを進むのかは個人の判断だよ。
エンターテイナーになって5万ドルのボーナスを狙うのか。ただ、それを繰り返すとアゴが壊れて終了だ。小さなMMAグローブの危険性は、認識すべきだろう。僕のスタイルはより技術的で、しっかりとした戦術に則している。それでも十分に危険なスポーツだから脳にダメージを受け、靭帯を傷つけることがある。僕もすでに経験した。だからこそ、身を守ることが大切だと思っている」
――その信条を持ったうえで、週末にはどのような試合をしたいと考えていますか。
「まずはバンタム級で僕がトップにあることを証明したい。そのためにクリス・グティエレスをドミネイトし、フィニッシュする。勝ってランク入りし、トップへの梯子を登り続けるだけだよ」
――ファリドは無敗で、ジャビッドはここ2連敗です。兄の敗北はファリドにも影響を与えますか。
「そうだね。全ては学びだ。勝っても負けても試合は、良いレッスンになる。MMAはフットボールやバスケットボールと違い一つのミスで、全てが上手く行っていたのにひっくり返されることがある。しかも体に痛みを伴って。
でも、そんなスポーツが好きで僕らはMMAを選んだ。どの大会、どの試合でも――僕ら2人の戦いの全てが良い経験になっている。特にメンタル面においてね。MMAは戦いだからね」
――ところでエクストリーム・クートゥアーから、ATTに練習環境を変えた理由を教えていただけますか。
「1年前からATTで練習しているけど、ジムを変えたのは練習に変化を求めたからだよ。エクストリーム・クートゥアーは素晴らしいジムだった。ただ、ジャビッドがクリスとの試合に向けてのファイトキャンプでは、全て自分たちでトレーニングパートナーの都合を尋ね、スケジューリングをしてきた。
そういうトレーニング・スケジュールを自分たちで立てないといけないことで、トレーニング以外に頭を使う必要があった。ATTはそういうことをコーチが全てお膳立てしてくれて、僕らはトレーニングに集中できるんだ」
――なるほどです。では最後に日本のファンに一言お願いできますか。
「日本のファンの皆には、ぜひとも僕の試合をチェックしてもらいたい。何より僕はいつか日本に行って、マーシャルアーツに触れてみたい。僕の周りには日本人ファイターが多い。キョージさん、彼は今回のファイトキャンプを凄くサポートしてくれた。
僕らは常にジャパニーズ・ボーイズと練習している。ユーキ・モトヤはRIZINで勝ったばかりだ。キンタロー、ジュンタロー、リンヤも最高のトレーニングパートナーだよ」
■視聴方法(予定)
10月5日(日)
午前7時00分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時30分~U-NEXT
■UFC320対戦カード
<UFC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R>
[王者] マゴメド・アンカラエフ(ロシア)
[挑戦者]アレックス・ポアタン・ペレイラ(ブラジル)
<UFC世界バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者] マラブ・デヴァリシビリ(ジョージア)
[挑戦者] コリー・サンドハーゲン(米国)
<ライトヘビー級/5分3R>
イリー・プロハースカ(チェコ)
カリル・ラウントリー(米国)
<フェザー級/5分3R>
ジョシュ・エメット(米国)
ユーゼフ・ザラル(米国)
<ミドル級/5分3R>
ジョー・パイファー(米国)
アブス・マゴメドフ(ドイツ)
<ミドル級/5分3R>
アテバ・グーティエ(カメルーン)
トレストン・ヴァインズ(米国)
<フェザー級/5分3R>
ダニエル・サントス(ブラジル)
ユ・ジュサン(韓国)
<バンタム級/5分3R>
パッチー・ミックス(米国)
ヤクブ・ヴィクワチ(ポーランド)
<ミドル級/5分3R>
エドマン・シャバジアン(米国)
アンドレ・ムニス(ブラジル)
<ウェルター級/5分3R>
プナヘラ・ソリアーノ(米国)
ニコライ・ベレテンニコフ(カザフスタン)
<女子バンタム級/5分3R>
メイシー・シェエソン(米国)
ヤナ・サントス(ロシア)
<バンタム級/5分3R>
ファリド・バシャラット(アフガニスタン)
クリス・グティエレス(米国)
<ウェルター級/5分3R>
ラムズ・ブラヒメジ(米国)
オースティン・ヴァンダーフォード(米国)
<女子フライ級/5分3R>
ベロニカ・ハルディ(ベネズエラ)
ブローガン・ウォーカー(米国)