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【Banana Oil 2025─03─】原点回帰に使命感を与えてくれたヘンリー・フーフトの”怖い”言葉を考察

【写真】左の攻防も、右の攻防もタマの取り合い。左で取られる選手は、右はない。だからこそ、左の攻防ができる日本のMMAでないといけない(C)MMAPLANET

年始のご挨拶で個人的なMMAPLANETの2025年の指針を書かせていただきました。その原点回帰に舵を切りたいというきっかけとなったのがアレッシャンドリ・パントージャ×朝倉海のUFC世界フライ級選手権試合であることも記させていただきました。その“きっかけ”以上に、ある意味使命感を帯びるような気持ちにしてもらったのが、12月中旬に行ったヘンリー・フーフトと鈴木崇矢選手の対談でした。この模様は近日中にアップいたしますが、そこで聞かれた2つのヘンリーの言葉は、大げさでなく落雷を頭から落とされたように脳天から爪先まで自分の体を貫きました。
Text by Manabu Takashima

ヘンリーはダッチ・キックボクシング界の強豪ファイターから指導者となり、MMAの転向を図っていたタイロン・スポーンの誘いを受け、大西洋を越えてブラックジリアンズの打撃コーチに就任。以来、一流の打撃の知識を北米MMAに落とし込み続けてきた名伯楽だ。それだけでなく自らのプロチームを立ち上げるとフロリダのディアフィールド・ビーチにある巨大なジムをネーミングライツという手法を取り、発展させてきた敏腕ビジネスマンでもある。

医療企業サンフォード・ヘルス、そしてエネジードリンク・メーカーのキルクリフと名称を変更しながら、ヘンリー率いるプロMMAファイター集団はこのスポーツの頂点で戦う──あるいは目指す選手が日々汗を流している。指導者、そして経営者としてヘンリーは選手のキャリアアップを支え、真剣に取り組んでいる。今も深い関係にあるサンフォード・ヘルスがサウスダコタ州スーフォールズに所有するサンフォード・ペンタゴンが使用されるLFAではマッチメイクに強い影響を与えることができ、選手のステップアップにも向き合っている。

今では佐藤天、木下憂朔、鈴木崇矢も現地に拠点をおきヘンリーの下でトレーニングを行う。ヘンリーはK-1ファイターだったこともあり、日本の格闘技への想いも強い。その上でUFCを唯一の世界最高峰と認め、世界各国の大会に選手を送り込んでいる。そのヘンリーが昨年12月に、一昨年に続きABEMAの招きで東京と大阪でセミナーを行った際、鈴木崇矢の成長度合を訪ねるために、対談という形で取材をさせてもらった。

UFCファイターになるためにフロリダに渡った鈴木は、すぐにでもLFAで戦う気持ちでいたが現地で練習を経験することで方向転換。まずはフロリダのローカル大会で経験を積んでいくことになったという。彼のキャリアアップに関して話すヘンリーの口から「日本人選手の5勝1敗は、米国では2勝1敗」。「修斗、パンクラス、DEEPのタイトルはUFCで戦える力をつけるために、意味はない」という言葉が聞かれた……。


「日本人選手のキャリア5勝1敗は、米国では2勝1敗」。

これはレスリング力の差から、出た言葉だ。北米のジムでの練習を経験した日本人選手の多くが、細かい技術力の違いの前に圧倒的なレスリング力の違いを挙げる。だからレスリングを強化する。それは当然で本気で世界を目指す選手やジムは日々、克服に励んでいる。同時にヘンリーの話を聞き、レスリング力に明確な差が存在している状況で闇雲に北米判定基準を追い、ダメージという名の打撃偏重&組み軽視で進む日本のMMAに対して不安が大きくなった。

テイクダウンをされた選手が下にいてヒジやパンチを使う。ケージに押し込まれ、腰を落とした状態で鉄槌を入れる。そんな攻撃を見せていた選手が、判定勝ちするというケースが多くなっている。それらの選手は、立ち技では優勢だったからだ。よってダメージ重視という観点から判定勝ちを手にする。判定基準が明白となっている以上、そうやって勝つことは何ら間違いでない。

それがUFCで結果を残すという目標を持っていないのであれば。

上記の判定基準は北米MMAの判定基準の変化に倣って実施されているものだ。そこにヘンリーの言葉、「日本人選手のキャリア5勝1敗は、米国では2勝1敗」を落とし込みんでみたい。米国ではレスリングベースで、そのテイクダウンの圧と打撃を掛け合わせて戦う選手が日本より多い。あるいは鉄壁のテイクダウン防御力を誇り、ジャブで突き放して組ませない戦いをやってのけるトップレスラーもいる。

加えてレスリング・ベースでないファイターのTDディフェンス、スクランブル能力も高い。攻守ともにレスリングを消化しないと、安定した数字など望むべくもないのだから自然とMMAにおけるレスリングのレベルは高くなる。

そのレスリングだが試合になれば打撃、柔術と同様に一方が防御に徹していれば、攻防は生まれない。結果、MMAではブレイクが入る。打撃で仕切り直しだ。ダメージ重視、コントロールで終わらせないぞ──というMMAが成立する。

対して、世界と比較するとレスリング力が落ちるなかで、グラップリング主体のファイターが多かった日本。最近ではキックやムエタイから転向してくるファイターも増えてきたが、彼らの防御に徹した組みでグラップリングを跳ね返され、打撃で劣勢になるピュアMMAファイターという構図も見られるようになった。

ジェネラルなファン層を対象とすると、レスリングという核がないまま打撃の攻防が増えることで試合は盛り上がる。UFCで勝つ選手を育てる必要のないプロモーションは、テイクダウン&コントロールという局面がなくなり、レスリングができなくても打撃を繰り出す試合が増えれば御の字だろう。

その結果、明確に技術レベルに違うなかで、判定基準だけを北米流とした──中身が違う──MMAが繰り広げられる。これでは北米との距離が離されるのも無理はない。同じ判定基準を採用しても、レスリングを消化・吸収した打撃とレスリングを咀嚼しない打撃の攻防は別モノだ。同時に試合とは勝つために出場するもの。ルールで認められた攻撃でも、評価されない攻撃を仕掛けることを、”UFCで通用するよう、強くなる”という理由で強要などできない。

何が世界標準なのか。エンジンと足回りを北米と統一規格としても、オクタン価の低いガソリンが使用されていれば同じ土俵に立つことはできない。そんな日本と北米の差をヘンリーの言葉で痛烈に痛感させられた。

それ以上に身が震えた「修斗、パンクラス、DEEPのタイトルはUFCで戦える力をつけるために、意味はない」という言葉は、次回の考察としたい。

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