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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:10月 ロイヴァル×平良達郎「コントロール力と勝負に対する気持ち」

【写真】5Rのタフファイトだったからこそ、平良達郎の強さが見えた(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年10月の一番──10月12日に行われたUFN244のブランドン・ロイヴァル×平良達郎、MMA史に残る大激闘となった一戦を語ろう。


――水垣さんの10月の一番はブランドン・ロイヴァル×平良達郎を選んでいただきました。

「もうこれしかないだろうっていう感じですよね。この試合は解説しながら見ていたんですけど、 試合が終わったと同時に『今月の1番はこれだな』と決めていました。日本人としては悔しい気持ちもありましたが、本当に素晴らしい5Rマッチの試合だったと思います」

――水垣さんはこの試合のどこが一番印象的でしたか。

「前回平良選手が対戦したアレックス・ペレスもトップ選手だったのですが、ああいう形でフィニッシュして勝って(スタンドでのオタツロックでぺレスが膝を負傷)。立派な勝ちではあったんですけど、もっと長いラウンドを見たかったなというのも正直あったんですね。それを今回の試合で見ることが出来て、競った試合での平良選手を見ることが出来たなと思います。競った試合で5Rフルでやったからこそ、今まで見えてこなかった部分が、いいところも悪いところも出たと思います。もちろん勝ってくれれば1番良かったんですけど、タイトルコンテンターでトップレベルのロイヴァルに通用する、5Rでも引けを取らない試合が出来るところが分かってよかったです」

――そのなかでも特に水垣さんの目を引いた部分はどこですか。

「技術的に言うと、やっぱりグラウンドのコントロール力ですね。これは新たに見られた部分ではないかもしれませんが、平良選手のコントロール力がどのくらいレベルかというところで、トップ選手の中でもスクランブルが強くてポジションを取られても動いて取り返すことが得意なロイヴァルに対して、あれだけバックコントロールできたのは本当にすごいことだと思いますし、最高の武器だと思います。

 技術論の次の話をすると、勝負に対するメンタル的な強さですね。平良選手は3Rにかなり打撃で追い込まれて、その直後の4Rにもう一度自分から行って、バックを取って自分のラウンドにしたんですよね。あの勝負に対する気持ちは、何と言うんですかね、人に教えられて身につく
ものではないと思うんですよ。あれは平良選手が生まれ持ったものであり、そういった素晴らしいものを持っているところを見れたのが、すごく良かったですね。間違いなくこれからチャンピオンになるんだろうなと思わせてくれる、そういう4Rだったように思います」

――5Rマッチの3R~4Rは体力的にも精神的にもキツイ時間帯だと思いますが、そこで一度劣勢に追い込まれて心が折れてもおかしくない状況だったと思います。

「そうなんです。しかも自分からテイクダウンに行ってバックコントロールするというのは疲れる戦い方だと思うんですよ。それを続けているなかで、一度相手に追い込まれると、そのままガタガタ…と崩れていくのが普通の選手だと思います。でもあそこからもう一度テイクダウン・バックを取りに行くというのは本当に素晴らしいですよね。試合を見ていてあの気持ちの強さにはびっくりしました」

――平良選手はフィニッシュして勝つことも多く、タフな試合で競り勝つというイメージがなかったんですね。スマートに戦って強いというか。でもロイヴァル戦ではキツイことをやって勝ちに行く姿を見せていて、あれは今までにあまり見せていなかった部分かなと思います。

「さっきも言った通り、こういう気持ちの強さは頭では理解できていても、実際に試合で出すことって難しいと思うんですよ。あの気持ちの強さは平良選手の才能の一つだと思います」

――それと同時に同じことをロイヴァルにも思っていて、ロイヴァルはロイヴァルで2Rはほぼバックコントロールされた状態から3Rに盛り返して、再び4Rにバックコントロールされても最終5Rは挽回したわけじゃないですか。ロイヴァルもキツい展開だったと思いますが、それで勝つところまで持っていた底力がすごいなと思いました。

「確かにそうですね。試合中に何度か平良選手ペースになりそうな場面があって、それでも必ず取り返していくるというのは平良選手にとっても良い相手だったと思います。5Rは解説なのに完全に試合に見入って喋れなくなっちゃって。そのくらい素晴らしい試合でした」

――そのなかで平良選手があと一歩足りなかった部分はどこだったのでしょうか。

「パンチの被弾の多さですかね。特にストレート系のパンチへの反応や処理が少し足りなかったのかなと思います。ロイヴァルのパンチをポンポンポンともらって、顎が上がってしまうところが幾つかあって、あれは少しもったいなかったなという部分でした。ただし本人もチームもそこに気づいたと思いますし、技術的なことは改善できる部分なので、 しっかり次の試合までにそこを潰してくるんじゃないかなと思います。本当に平良選手も悔しかったと思うし、初めて黒星がついたわけですが、この試合は決して無駄な負けにはならないと思いました。平良選手がUFCチャンピオンになるための必要なステップだったのかなと思います」

――あとは試合内容とは別の部分で5Rマッチの難しさを感じました。ジャッジペーパーを確認すると2R=平良、3R=ロイヴァル、4R=平良、5R=ロイヴァルで、1Rが割れてスプリット判定でした。2~5Rは明確にポイントがつく展開だった一方、1Rはほぼ試合が動かずにどちらが優勢とも言えないラウンドでした。あとで振り返ると動きが少ない・微妙なラウンドのポイントで勝敗が決まるとなると、動きが少ないラウンドでどうポイントにつながる印象をつけるかが非常に大事になってくるなと思いました。

「僕は5Rマッチはこのパターンが結構あると思っていて。このレベルになると1Rは多少様子を見ていて、2Rからどんどん動きを上げていくことが多いじゃないですか。でもスコアで振り返ると様子見のラウンドをどちらが取っていたかで勝負が決まっていて、すごく難しい話なんですけど、様子を見ながらも必ずラウンドを取るというのが5Rでは大事な部分になってきますよね」

――水垣さんは現役中に試合をしながらスコアのことは意識していましたか。

「僕は常に頭の中で考えてましたね。3Rマッチだったら1・2Rを取っているか取っていないかで、3Rの戦い方を変えますし、逆にラウンドの中でもここまでは自分が取っているなとか、今はまだ微妙だから残りの時間で取りに行こうとか、常に試合中も考えながら戦っていました」

――かなり細かく経験して戦っていたんですね。

「そうですね。少し前だったらテイクダウンの評価が高かったので、ラウンド終盤にはテイクダウンを決めて上から攻めるところを見せておくとか、五分五分の展開のなかでそういう場面を作ることで、自分にポイントがつくことがあったと思います。ただ最近はジャッジの傾向として、テイクダウンそのものでポイントを取ることが薄くなっていると思うし、テイクダウンを取ったら上で殴る、パスしてマウントもしくはバックを取る…そこまでいかないと評価されにくくなっている。その辺りは僕が現役でやってた頃とは少し変わってきていると感じます。

ただその変化にも選手たちは対応しなきゃいけないですし、常にそこは意識しておかないといけない。自分の試合でそれを意識するのはもちろんですが、自分以外の試合や大会をある程度見ておいて、ジャッジの傾向を感覚的に掴んでおくことはすごく大事です。仮にジャッジやルールをこうしていきます、こう変わりますと公式発表があっても、それが実際にどういう場面で変わるのかは実際の試合で見ないと分からないし、理屈だけではなく肌感で理解することが必要です。

 特にギリギリの展開において、そこの判断が出来る・出来ないで勝敗に変わるわけですからね。ジョン・ジョーンズくらい圧倒的に強ければ、そんなことは考えないでいいんでしょうけど(笑)、僕みたいに自分より強い相手とギリギリの勝負をして、ギリギリの価値を拾うような戦い方をする選手は今話したようなことを絶対に必要だと思います」

――ここで話を戻すと黒星はついてしまいましたが、確実に平良選手は強くなって戻ってきてくれると思いますし、次戦が楽しみですね。

「ランキング的にはカイ・カラフランスがスティーブ・アーセグに勝って、次の相手はその辺りの選手になってくるのかなと。平良選手がタイトルマッチ付近にいることは間違いないので、ここから勝ちを重ねてタイトル挑戦につなげてほしいなと思います。あともう一つ思ったことがあって、アレッシャンドリ・パントージャと朝倉海選手のタイトルマッチの発表がロイヴァルと平良選手の直前だったんですよ。僕は大会前か大会後になるとは聞いていたのですが、結果的には大会前の発表されていて。

 色々な事情もあったと思いますが、ロイヴァルと平良選手にとっては酷なタイミングではあったかなと思います。結果的に素晴らしい試合にはなりましたけど、あのタイミングの発表は選手のパフォーマンスに多少なりとも影響しかねないのかなと。UFCは選手ファーストの団体で、僕も契約期間中はそれをすごく感じていたのですが、選手が気持ちよく試合ができる状況を作った方がいい試合になる可能性が上がると思うので、発表ごとのタイミングにも気を遣ってもらえるといいなと思いました」

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