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【Pancrase346】サロハイディノフの挑戦を受ける、伊藤盛一郎「グランドスラムのMMAで、世界へ」

【写真】会見前、スーツ姿だったのに同じ画になるとTシャツ姿に着替えてくれた伊藤。感謝です(C)MMAPLANET

7月21日(日)に立川市の立川ステージガーデン大会で開催されるPancrase346で、フライ級KOP伊藤盛一郎がムハンマド・サロハイディノフの挑戦を受ける。
Text by Manabu Takashima

Road to UFC出場は叶わなかった。実績を残し、挑める力がついたという判断があっても、伊藤に挑戦する権利は与えられなかった。その現状を踏まえ、これから伊藤はどのようなキャリアを積んでいくのか。

13日(月)に開かれた記者会見を前に、その真意を尋ねると──MMAファイターとして、以前とは違う伊藤盛一郎がそこにはいた。


――7月にムハンマド・サロハイディノフの挑戦を受ける。その会見前にインタビューをさせていただくことになりましたが、いつ頃に決定したのでしょうか。

「2週間ぐらい前ですね。Road to UFCで戦えるのか、動いてもらっていて。でも、ずっと分からない状況が続き、1カ月ぐらい前に『ダメ』だな、と。ギリギリになっても話が来るかもしれないと待っていたのですが、勝村(周一朗)先生も『ちょっと、厳しいな』という風になっていました」

──自分が得ていた情報では概ね出場選手が決まったのが3月の終わり。その時点で日本人選手は本野美樹選手、安藤達也選手、透暉鷹選手、小崎連選手、野瀬翔平選手、そして松井斗輝選手の6選手で。トーナメント戦にはその後、河名マスト選手、ワンマッチで雑賀ヤン坊達也選手が加わった形でした。

「そうだったのですね」

──その後、正式発表があった時にチャンピオンである自分自身が選ばれなくて、松井選手が出場できることになり、どのような気持ちでしたか。もちろんチャンスを得た松井選手と陣営が出場するのは当然で、そこでなくUFCの選択に関して伊藤選手はどのように感じたのでしょうか。

「そうですね、フライ級は松井選手になるというのは発表前から聞いていました。UFCが欲しがっているのは戦績を重ねてない、KO勝ちが多い選手だということも予め理解していましたし。

自分は30歳で20戦以上戦っています(※17勝4敗2分)。あと一本勝ちが多いから……しょうがないかなって」

──一本勝ちが多いのがいけないなら、MMAはやっていれないですよ。ただ安藤選手のように34歳で、そこそこのキャリアを積んでいる選手もいる。中国勢など30戦以上のレコードの持ち主もいました。

「ハイ……。まあ、選んでいる基準はよく分かんねぇなぁって感じでした」

──なるほど。UFCが最高峰、ならチャンピオン云々でなく一番強い人に挑む権利を与えて欲しいと自分など勝手ながら思ってしまいます。

「僕はそこまで気にならなかったです。まぁ『しょうがないわ』って。ならパンクラスで元UFCファイターから一本取ってやろうというモチベーションを持つように切り替えました」

──UFCで戦いたいという選手の気持ち、UFCで戦える力があるか試させたいというUFCの判断、UFCで戦うところを見たいというファンの評価は別モノで。伊藤選手はこのうち2つがあってもRoad to UFCに出場できなかった。なら、もう好き勝手に暴れて欲しいです。

「ハイ。ありがとうございます。UFCはそういうところだと言い聞かせて、気持ちを切り替える方が大切だと思いました。パンクラスで元UFCファイターや強い外国人選手と戦って勝っていこうと」

──すぐに切り替えることができたのですね。

「自分は若い頃からRIZINに出たいというのがあって……それはどこかノリ先輩が身近にいたからだと思います」

──田中路教選手がいたから、RIZIN志望になった?

「ノリ先輩がUFCをリリースされ、でももう一度UFCを目指すために努力を重ねていて、どれだけ困難なことがあってもその気持ちを持ち続けていました。試合ができない時期があっても、その目標は全く変わらなくて。でも契約できない。それでも『俺はUFCで戦う』と言うノリ先輩を見てきて、自分にはUFCで戦いたいと言う資格はないと思っていました」

──う~ん……。

「でも、パンクラスのチャンピオンになってRoad to UFCの募集要項を見た時に戦績、フィニッシュ率とかといっしょに年齢が18歳から30歳というのがあって、『年齢だけギリギリで、あとは当てはまる』って思ったんです。それでUFCを目指して良いんだと。だから……遅かったですよね」

──じゃあ田中選手のせいじゃないですか(笑)。

「いや、そんなことないです(笑)。その気持ちになるには、それだけの資格が必要で。そこに行き着くのが遅かったので自分の責任です」

──そのなかでパンクラスの防衛戦の相手がサロハイディノフに決まった。その時、松井選手のことは意識しなかったですか。

「全然、それはないです。サロハイディノフはランキングが1位で、強い外国人選手と戦いたいという部分で合致していたので。組みの強い選手と戦うことって、これまで余りなかったので。グラップラー×ストライカーという図式の試合が多くて。それが組みのタイプで、タジキスタン人でレスリングも強い。凄く楽しみです」

──これからのキャリア、強い選手と戦うことが第一で戦いたい舞台云々ではないということでしょうか。UFCが年齢で扉を閉じるなら、RIZINで少しでも強い選手と戦ってほしいです。

「そうファンの人達に思ってもらえる選手になりたいです。同時に選手として以前のように、RIZINに拘らなくなったというのはあります」

──というのは?

「僕もRIZINのTV中継がある部分とかに惹かれていたのは事実です。あの大きな舞台で戦いたいと。ただ、自分が出ていたころは話題になるようなことは必要でも、力がないと出られなかった。でも、今はSNSで喧嘩みたいなことをしていると出ることができる──そんなケースが増えてきました」

──ファンベースがそうなっている。自分はプロモーションが組むファイトは、ファンの望むモノだと思っています。専門メディアは、本物志向のファンを増やすことができかったですし。

「だから、逆に『伊藤盛一朗が見たい』と思われるようにならないといけないと思っています。RIZINのフライ級で一番強い選手と自分の試合が見たいと思ってもらえるようになること。そのためにもパンクラスで強い外国人選手と戦うことが重要で」

──UFC以外の海外というのは視野にないですか。

「あんまり海外に詳しくないので(笑)。藤田(大和)選手が戦うUAEWとか、猿飛流選手が試合をした豪州の大会(Eternal MMA)とか、色んな大会があるんだなって」

──……。

「ただ今はパンクラスでチャンピオンになったばかりなので、しっかりと防衛をして。そこから強い選手と日本で戦うのか、海外に出て行って強い選手とやるのか」

──何か変わりましたね。

「そうですね(笑)。どこまで行けるのか。勝村先生とグランドスラムで練習してきたことで、ここまで力をつけることができた。行けるところまで、行きたい。そういう風には想えるようになってきました(笑)。

グランドスラムから世界へ……という感じで。僕は出稽古もほとんどしていないし、グランドスラムだけで勝村先生とやってきました。このグランドスラムのMMAでパンクラス──国内のチャンピオンにはなれました。そこは証明したので、次は世界でどこまでいけるのか、トライしたいです。

そのためにもサロハイディノフに負けていると、そんな世界とか言うレベルじゃない。Road to UFCに出ていても、どうせ負けていたと思うし、ここで苦戦はしていられないです」

──それこそ「RIZINで見たい」、「Road to UFCで見たかった」という声が挙がるような試合を。とはいえ、世界のMMAで旋風を巻き起こす中央アジア勢です。

「強いですよね。RIZINにそういう系の選手がたくさん来ていて皆、強いです。パワーは日本人選手とはまるで違うと思うし」

──組みは、打撃よりも実力がそのまま結果に出ることが多いかと思います。ラッキーとか、余りなくて。勝つべくして勝つ、とういうか。そういう点で伊藤盛一郎がサロハイディノフを上回っているのは、どこだと自信を持って言えますか。

「極めです。一瞬で取りに行くスピード、閃き。いつも体に沁みついている技術を感覚で出せる。ここは上回っていると思います。逆にパワーやレスリング力はサロハイディノフの方が上のはずです」

──IMMAF育ちだからこそ、MMAのマジョリティな勝ち方をサロハイディノフは狙ってくる。そこに対して、伊藤選手のMMAは明らかに異文化、マイノリティです。同時に5Rの勝負で、極め重視の戦いを貫けるものなのでしょうか。

「自分は最初から、絶対に極めに行くっていう感覚では戦っていないです。時間も計算にいれて、行ける時に行くので。だから腕がパンパンに張ることもないし、攻めて疲れることもない。時間、相手の状況を頭にいれて考えるなかで、感覚でズバッと行くような感じで」

取材は会見場でなくオフィスで行われ、ロッキーがピンがこないの見切りに……

──まさにマジョリティMMAにない思考ですね。

「まぁサロハイディノフも極めへの反応は良いと思います。ただMMAだし。殴って意識を散らしていけば……まだサロハイディノフのことはそれほど研究しているわけではないのですが、行ける気がします(笑)」

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