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【UFN227】メキシコ独立記念日に、アレクサ・グラッソ✖シェフチェンコ再戦─展望。幸運ではなかった前戦

【写真】 まさに前回とは立ち位置が違う今回の再戦となる(C) Zuffa/UFC

16日(土・現地時間)、ネヴァダ州のTモバイルアリーナにて、UFC Fight Night: Grasso vs. Shevchenco 2が行われる。大会名が示すように、メインはフライ級新王者アレクサ・グラッソに、前回王者ヴァレンチーナ・シェフチェンコがリヴェンジを賭けて挑む再戦だ。
Text by Isamu Horiuchi

大会当日は213回目のメキシコ独立記念日で、Fight Nightに関わらず世界戦が組まれ、会場もTモバイル・アリーナとスペシャル感のあるイベントとなっている。出場選手も全11試合で5人がメキシコ人ファイター、まさにビバ・メヒコなファイトナイトとなった。


そんなUFN227のメインで、メキシコ人世界王者に挑戦する──キルギス出身のシェフチェンコは言わずと知れた女子フライ級の第一人者だ。2018年8月にヨアナ・イェンジェチックを倒して王座に就いて以来、実に7度連続防衛を記録。そのうち4試合をフィニッシュで決めており、この階級自他共に認める絶対女王として君臨していた。

そんな無敵の王者から3月のUFC 285にて一本勝ちを収めて世界を震撼させたのが、メキシコのアレクサ・グラッソだ。下馬評では圧倒的に不利と見られていた挑戦者は、実際2、3Rはテイクダウンを奪われリードを許していた。が、シェフチェンコが4R終盤に放ったスピニングバックキックの空振りに乗じてあっという間にバックを奪うと、そのままチョークを極めてみせた。

負けるはずのない絶対王者、不用意な攻撃が仇となっての大番狂わせ──そんな印象も強かったまさかの王座交代劇。実際シェフチェンコも試合直後に「これがMMA。私が全ラウンドを取って間違いなく勝っていたけど、馬鹿げた状況が試合の全てを変えてしまうことがあるのよ」と語っている。

が、グラッソはフィニッシュのチョークについて「この動きを毎日練習していたの。彼女はスピニング系の技を出してくると知っていたから」と話した。

さらに数日後、試合前のキャンプにてグラッソがパートナーが放つスピニングバックキックをかわしてチョークを極める練習をしている映像も投稿され、あの決着自体は偶然ではなく、グラッソが所属するメキシコのロボジムのヘッドコーチであり、叔父でもあるフランシスコ氏が王者の試合映像を繰り返し研究して生み出した作戦の一つだったことが判明した。

さらにそこに至る試合内容を見ても、(シェフチェンコの言葉とは異なり)決して王者が展開を一方的に支配していたわけではない。1Rの打撃戦で有効打を当てていたのはグラッソの方だ。やや待ちの姿勢になる王者に対し、得意の伸びるワンツー、そして返しのフックをクリーンヒットしてみせた。特にストレートはカウンターの名手である王者の左フックが当たる前に顔面を痛烈に捉えており、距離感、タイミング、スピードとどれも女子MMA界ベストボクサーという評価に相応しいものだった。

2Rと3Rは、戦い方を変えた王者にテイクダウンをされて上のポジションを取られる展開に。そこから必殺のマウンテッド・クルスフィックスの体勢に捕られられかけるも、高い危機意識で動き続けて脱出に成功したグラッソは致命傷を逃れている。

この場面でも、体格に劣る挑戦者がいかに王者の武器をよく研究し、万全の準備でこの試合に臨んだかが伺えた。そして4Rに潮目がまた変わる。グラッソはやや単調になった王者のテイクダウン狙いを2 度にわたって切り、再び試合を得意のスタンド戦に持ち込むことに成功したのだ。命運を分けたスピニングバックキックは、ジャブでプレッシャーをかけるグラッソに対し、ややケージ側に詰められかけた王者が放ったものだった。

多彩にして強力な武器を持つ卓越したキックボクサーの王者に、序盤得意のボクシングで見事に競り勝ったグラッソが、中盤作戦を変えてきたシェフチェンコの反撃を凌ぐと、後半再び攻防を自分の望む土俵に持ちこみプレスをかけた。

そう考えると、あのスピニングバックキックは王者の慢心故の不要な攻撃というより、堂々と渡り合いその牙城に肉薄したグラッソが出させたもの、偶然ではなく必然だったという見方もできる。

ならば今回の再戦のおける最大の注目は、前回の敗戦を踏まえてシェフチェンコがどのように戦いを変えてくるかだ。

「もう同じことは決して起こらない」と語る前絶対女王。得意のスピニングバックキックやバックフィストは使いにくくなったとは言え、打撃の武器の多彩さではグラッソを上回る。

「グラッソは最も爆発的で、最もパワフルで、最も危険なヴァージョンのヴァレンチーナを思い知ることとなる」と宣言しており、受けに回った結果、グラッソの踏み込みのスピードに対応できずパンチをもらってしまった前回の轍を踏むつもりはなさそうだ。

対するグラッソも「彼女がどう戦いを変えてくるか、私もすごく知りたい。今までは挑戦を受ける立場だった彼女が、今は攻めなくてはならない立場になる。そんな時にどうするのかしらね。試合が待ち切れない」と語っており、リベンジに燃え全力で攻めてくる王者を恐れている様子はまったくない。

打撃の交換においてお互い切るカードが変わるなら、当然テイクダウンの攻防も変わってくる。前戦では2、3Rにシェフチェンコがグラッソの飛び込みに見事なカウンターのテイクダウンを合わせ、逆に4Rはスタンドで圧をかけるグラッソがシェフチェンコのテイクダウンを切った。今回もしシェフチェンコが蹴りも駆使して打撃で前に出て来た場合、グラッソはそこに乗じてテイクダウンを仕掛けることはできるのか。

それともその圧に下がらされてしまうのか。また、たとえ綺麗なテイクダウンが取れなくても、前回とは違う形でバックに回るチャンスを作ることはできるのか。

そして試合がグラウンドに持ち込まれた場合、シェフチェンコは今回こそ体格差を活かし、必殺のマウンテッド・クルスフィックスでグラッソを抑え込むことができるのか。前戦の2Rでは、ガードワークに定評のあるグラッソの両足を素早く超えたシェフチェンコがすかさずクルスフィックスを狙うのに対し、グラッソが止まらず動き続け、ついにはケージを蹴って隙間を作って脱出に成功するという見応えのある攻防があった。

3R終盤にはテイクダウンからバックを取られたグラッソが、やはり休まず動いて体をずらし続け、最後には逆にギロチンの形まで作る場面も見られた。これらの攻防の「さらに先」が今回見られるとしたら、どう展開するのだろうか。

絶対女王だったシェフチェンコを倒したこと、そしてもう一人の絶対女王アマンダ・ヌネスが先日引退を発表したことで、なんと現在グラッソはUFC女子のパウンド・フォー・パウンド1位の座に就いている。

シェフチェンコはストロー級王者のジャン・ウェイリに次いで3位だ。女子MMA最高峰にいる両者の再戦が打撃、テイクダウン、グラップリングのどの局面でも、前回を上回る激闘になることに期待したい。

■視聴方法(予定)
9月17日(日・日本時間)
午前8時~UFC FIGHT PASS
午前7時30分~U-NEXT

■UFN227対戦カード

<UFC世界フライ級選手権試合/5分5R>
[王者]アレクサ・グラッソ(メキシコ)
[挑戦者]ヴァレンチーナ・シェフチェンコ(キルギス)

<ウェルター級/5分3R>
ケヴィン・ホランド(米国)
ジャック・デラ・マダレナ(豪州)

<バンタム級/5分3R>
ラウル・ロサスJr(米国)
テレンス・ミッチェル(米国)

<ライト級/5分3R>
ダニエル・セジューベル(メキシコ)
クリストス・ギアゴス(米国)

<フェザー級/5分3R>
フェルナンド・パディーリャ(メキシコ)
カイル・ネルソン(カナダ)

<女子ストロー級/5分3R>
ルピタ・ゴディネス(メキシコ)
エリス・リード(米国)

<ミドル級/5分3R>
ロマン・コピロフ(ロシア)
ジョシュ・フレムド(米国)

<フライ級/5分3R>
エドガー・チャイレス(メキシコ)
ダニエル・ラセルダ(ブラジル)

<女子フライ級/5分3R>
トレイシー・コーテズ(米国)
ジャスミン・ジュスダヴィチェス(カナダ)

<ライト級/5分3R>
チャーリー・キャンベル(米国)
アレックス・レイエス(米国)

<女子ストロー級/5分3R>
ジョセフィン・キヌットソン(スウェーデン)
マーニック・マン(米国)

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