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【UFC289】UFC世界女子バンタム級選手権試合、聖域得た王者ヌネス✖「I’m Mexican」挑戦者アルダナ

【写真】そりゃあ下馬評は圧倒的にヌネス。ただし、シェフチェンコ✖グラッソ戦でもメキシコ女子は下馬評を覆した (C)Zuffa/UFC

10日(土・現地時間)カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバーにあるロジャース・アリーナにてUFC 289「Nunes vs Aldana」が開催される。
Text by Isamu Horiuchi

元UFC世界ライト級王者のシャーウス・オリヴェイラとベニール・ダリューシュの注目の一戦をコメインとする今大会のメインは、バンタム&フェザーの女子2二階級王座を同時に保持するアマンダ・ヌネスが、ランキング5位のアイリーン・アルダナを挑戦者に迎える女子バンタム級タイトルマッチだ。


ヌネスは、誰もが認める女子MMAにおけるGOAT(Greatest of all time)。2016年にバンタム級王座を、2018年にフェザー級王座を獲得して以降、3年に渡って2階級を行き来して両王座を防衛し続ける離れ業を見せていた。一昨年12月、ジュリアナ・ペニャにまさかの2R一本負けを喫してバンタム級王座を失ったものの、昨年7月の雪辱戦では5R全てを圧倒して勝利、健在を見せつけている。

今大会は当初ヌネスとペニャの第3戦が予定されていたが、ペニャが練習中に肋骨を負傷。代わりに挑戦者として抜擢されたのが、現在2連勝中のアイリーン・アルダナだ。ヌネスと同じ88年生まれのアルダナは、ヌネスが初戴冠をした2016年にUFCデビュー。ファイト・オブ・ザ・ナイトとパフォーマンス・オブ・ザ・ナイトを2度ずつ受賞する激闘を重ねながらランキングを上げてきた選手だ。

前戦では、体格上の(計量オーバーした)メイシー・シェエソンと対戦。仰向けの体勢からのアップキックをレバーに突き刺すという前代未聞のフィニッシュを決めており、試合後のインタビューでは「いつも練習しているグレイシー・クラシカル・テクニックよ!」という卓越したコメントを残している。

とまれ、実績&知名度ともに大きな差がある両者だけに、下馬評では王者が圧倒的に有利となっている。

ペニャとの初戦ではヒザの怪我も響いて不覚を取り「引退も考えた」と語るヌネス。「他の選手ならともかく、アイツにタイトルを渡したまま去るわけにはいかない」という個人的な思いも込めて臨んだ再戦では、サウスポー中心の戦いを初披露。ペニャが前に来るたびに右フックを合わせ、最初の2Rで実に5度もダウンを奪ってみせた。さらに後半はテイクダウンを何度も決めて上を取り、ペニャの下からの攻撃を遮断。全局面での強さを見せつけての復活劇だった。

DALLAS, TEXAS – JULY 30: in their women’s bantamweight title fight during UFC 277 at American Airlines Center on July 30, 2022 in Dallas, Texas. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC)

破壊的な威力の右オーバーハンドで世界を制圧した王者が、新たにサウスポーからの精度の高いカウンターを武器に加え、さらに強力なテイクダウンまで織り交ぜてくるのだから、対戦相手からすればこれほどの脅威はないだろう。世界の頂点に君臨しなお進化し続けるヌネスの戦いを通して、我々は今この瞬間における世界女子MMAの最高到達点を見ることができる。

この見事な復活劇の最大の要因は、練習環境を変えたことにあるという。長年拠点としてきたATTに、UFC女子フェザー級への転出が囁かれていたケイラ・ハリソンらが加入したことに「身の安全を脅かされる気がした」というほど気分を害していたというヌネス。

ペニャとの再戦に臨む際に、フロリダ州内に自らのプライベートジム「ライオネス・スタジオ」を設立し、移籍した。

「私と同階級の女子選手が、私の所属ジムに来て私のコーチと練習するような環境は好ましくなかった。このライオネス・スタジオに出入りできるのは私の親しい友人とコーチだけ。このジムで私が失っていたスピリットを取り戻すことができたし、サウスポーで戦うという発想も思いついたのよ」と語るヌネス。

「私の聖域」と呼ぶ専用スペースを手に入れ、私生活でもパートナーのニーナ・アンサロフ(※現在はヌネス姓)が二人目の子供をお腹に宿している。公私ともに充実した最強王者の牙城を崩すのはきわめて難しそうだ。

さて、大会前の記者会見。「あなたが偉大な王者にもたらすことのできる最大の脅威はどこにありますか?」との質問を受けた挑戦者アルダナは、微笑みながら一言だけ返した。

「I’m Mexican」。この言葉には、単に国の誇りといった精神的なものだけでなく、技術的な含意も込められていそうだ。実際、別の場でアルダナは「メキシカン・テクニックには特別なものがある。私はそんなメキシカンスタイルをオクタゴンに持ち込みたい」と語っている。

LAS VEGAS, NEVADA – JULY 10: in their women’s bantamweight bout during UFC 264 at T-Mobile Arena on July 10, 2021 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC via Getty Images)

アルダナの言うメキシカンスタイルとは、主に彼女の最大の武器であるボクシングのことだろう。20歳を過ぎてから運動のためMMAをはじめたというアルダナだが、所属先のロボジムのヘッドコーチにして、元プロボクサーのフランシスコ・グラッソ氏に仕込まれたボクシング技術の洗練度は女子MMAファイターの中でトップクラスだ。

メキシカンボクシングの特徴と言われる、腰を柔らかく使った滑らかな動きや踏み込んでの伸びるジャブ、距離の長いストレートを見事に使いこなすアルダナ。さらに上下の打ち分けやアッパーを交えたコンビネーションも多彩で、ケトレン・ヴィエイラやヤナ・クニツカヤを一撃で倒した威力抜群のカウンターの左フックも持っている。

またヌネスがあまり使わないスムーズな左右へのフットワークにも長けており、常にガードを上げ固いブロッキングとヘッドムーブメントを駆使する等、パンチのディフェンスも優れている。多少の被弾はあれど常に致命打は回避し、抜群のコンディショニングと不屈の闘志をもって相手に打ち勝ってきたアルダナは、桁外れの破壊力を誇るヌネスの打撃をもってしても、簡単に倒せる相手ではない。女子MMA最高レベルの拳の応酬こそ、この試合最大の見所だ。

ただし王者ヌネスには、前戦でも猛威を奮った強力なテイクダウンという武器もある。打撃での制圧が困難と見るや、ヌネスがテイクダウンを仕掛けてくることは容易に想像できる。柔術黒帯を持つ王者のテイクダウン&トップコントロールをアルダナがいかに凌ぐかも、この試合の大きな鍵となりそうだ。

総合的な不利は否めないアルダナだが、所属先のロボジムは、今年の3月にアレクサ・グラッソがヴァレンチーナ・シェフチェンコから4RにRNCを極める大番狂わせを起こし、メキシコ人初のUFC女子王者を輩出したばかり。

王者が不用意なスピンキックを放ったが故に起きた奇跡、と解釈されがちなフィニッシュだが、ロボジム側から言わせると決して偶然ではない。

シェフチェンコの試合映像を寝る暇も惜しまず研究したフランシスコ・グラッソ氏(※アレクサの叔父でもある)が、シェフチェンコがスピンキックを放つ癖があることに気づき、それを避けてバックを奪いチョークを極めるシークエンスをチームで練り上げ、無数の反復練習を重ねてきた成果だったとのこと。

わずか3ヶ月前に世界を揺るがせた名伯楽の目には、もう一人の女子絶対王者のいかなる死角が見えているのだろうか。

アルダナは以前から──ヌネスが名を挙げた(そして離れた)メガジムATTとは対照的に──祖国の小さなチームにて、結束の固い仲間たちと共にあることにこそ自分の優位点があると語っている。

自分の入門初日からの練習パートナーであり、苦楽を共にしてきた盟友アレクサに続いて、2人目のメキシコ人女子王者を目指す気持ちの強さは、全てを成し遂げた王者の防衛への意志に決して劣らないだろう。

「この試合はブラジリアン・ライオネスとメキシカン・ジャガーの戦いなのよ!」と話すアルダナ。そのしなやかな牙が百獣の王の首に食い込み、多くの予想を裏切る大死闘となることを期待したい。

■視聴方法(予定)
6月11日(日・日本時間)
午前8時~UFC FIGHT PASS
午前11時~PPV
午前7時30分~U-NEXT

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