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【ONE】若松佑弥の今―03―「MMAの練習ができない間に山登り、滝行、カポエイラをやってみました」

【写真】ここが若松の人生の分岐点となった──かもしれない (C)MMAPLANET

2023年に向けて『2022年中に話を訊いておきたい』勝者、敗者を6人リストアップしたインタビュー──若松佑弥編Part.03。

もって生まれた性格でなく、自己をコントロールする。その難しさを理解し、そうなろうとする自分。そんな若松佑弥の今が語られた。

<若松佑弥インタビューPart.02はコチラから>


──ウ・ソンフン戦の負けで、ある意味人生観が変わったということでしょうか。

「勝ち続けて調子に乗る。そういう人間は五万といます。僕はもう、そういう人間にならない。その機会を与えてもらったと思います」

──試合での敗北。人生を賭けて戦っているのだから、自分の人生が負けて全てを失ったような感覚に陥るかもしれないです。ただし、人生の負けではなく一時的な失敗。その失敗を如何に見つめるのかが、次に繋がる。年を取るとそんな風に思えるようになってきました。

「ハイ、そこはしっかりと見ようと思います。目を瞑るということは妥協することで。妥協しようと思えば、いくらでもできます。敗北に向き合うと……正直、あの負けを思い出して叫びそうになったこともありました。うわぁ……って。それができれば、楽だったかなって思います。

僕が終わったという風に言っている人もいます。それは、僕自身も以前は他の選手のことで『あぁ、あの選手見なくなったな』って簡単に思っていました。でも、その選手だって姿を見せなくて、色々な発信していなくても裏では戦っていたはずです。

そんなこと誰も知らないし、僕も分かっていなかった。でも、今の僕はそれが分かる。分かったことで、自分に対しても『休めってことだな。まぁ、見ておけよ』って思えるようになったんです」

──う~ん、深いですねぇ。

「この間、MMAの練習ができない間に山登り、滝行、カポエイラをやってみました」

──カポエイラ?

「ハイ。運動というか……MMAとは別モノと考えて」

──いや、カポエイラの準備運動をするだけでもコーディネーション能力のアップにつながると自分は思っています。

「あぁ、あの動きは……そうかもしれないですね。器械体操とかと同じですね。体を自在に操れるというか……。僕、バック宙もやってみると、できたんです。自分でもバック宙ができることを知らなかったです。カポエイラもそうですけど、知らないことが多すぎました。MMAだけに集中して、そこだけに全てを賭けてやってきたけど、自分のことですら知らないことだらけだったんです。

カポエイラにしても、他の人がやっているのを見て『俺もできると思う』ぐらいでいるとダメで。自分でやらないと分からないです。本当に……滝行なんて、実際にやってみないとあのキツさは分からない。そういう格闘技でなくても知らないことがあって、知らないことを知る。そのことが自分に役立つ。

カポエイラの動きでMMAを勝つわけじゃないけど、カポエイラをやることで僕の蹴りが良くなるかもしれない。リュックを背負って山の中を走ることで、パンチが良くなるかもしれない。滝行もそうで、MMAとは違うところで体と精神に刺激を与えてやる。そこには達成感や喜びもあって、色々と感銘を受けることができます。そういうことを自ら体験していかないといけない」

──ここも誤解されるようなことかもしれないですが、全ては自分が強くなるために必要だということですね。いやぁ、でも迷走していると思われるかもしれないですね。

「そんなもんは……僕はもう自分勝手にやっちゃっているんで。安藤(達也)さんって『練習していない』って思われるじゃないですか」

──ハイ。安藤選手、夜叉坊選手。山に行って、水泳して。何やってんだ、と。

「僕も前はそう思っているところがありました。でも、『いや、そうじゃない』って感じて。多分、安藤さんからすると『あっ、祐弥。気付いたんだ。そこに』みたいに思っているかもしれいないです。自然に身を置く、そういう観点だって存在している。

MMAをやっていると、そういう人たちは遊んでいるように見えると思います。でも、そうじゃない。それが分かりました。全てが修行で……。でもリラックスとか精神世界に走る気はないです。お坊さんの話を聞いたり、精神性という部分では参考にさせてもらっても。

僕は試合に勝ちたい。そして、人間として強くありたい。ずっと試合に勝ち続けること、ずっと努力し続けることが強くなるということだと思っています。結局はシンプルにプラス思考で生きること。それは全てに感謝するということで。そうできることが、素晴らしい人生を送るということ。『喧嘩に勝ちたい』という風にただ肉体的な強さに憧れていた以前の自分が、今の自分を見ると『お前、詰まんねぇなぁ』って言うと思います(笑)。

でも、今の方が自分に対して、将来に対して楽観視できています。以前は『こいつら、会った時はぶっ飛ばしてやろう』と思っていたような連中に対しても、そういう気持ちはなくなりました。やっておけば良いよって。ぶっ飛ばしてやろうと思っていたこと自体が、自分の弱さでした」

──人に優しくなれた?

「いえ、そうではなくて自分がコントロールできるようになった。自制できるようになったと思っています。千日回峰行を達成した人でも、やっぱり自分に甘く接したい時があるはずです。でも、それをすると全てが崩れる」

──自分をコントロールすること、それこそ精神的に一番の苦行かもしれないですね。

「だからこそ日々、学んで自制していくこと。そうすることで自分は進化できる。それでも勝った負けたでいえば、いつも良い結果が出るものじゃない。でも負けても……負けたら、負けたでまた考えれば良い。そういう境地じゃないですけど、これまで分かっていなかった気持ち、精神的な弱さがあったことに11月の負けで気づけました。

だから、これまでもやってきたのですが……当てられた相手に勝つ。さらにシンプルに自分のやるべきことはそれだけだと思っています。必要以上に多くを語る必要はなくて。内に秘めて、自分のやるべきことを全うしていくごことできれば……それで良いかなって。それが日々の修行になる。そう思います」

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