この星の格闘技を追いかける

【Pancrase329】鶴屋怜と対戦、上田将竜─01─「やってきたこと全てが無になってしまうことが怖くなった」

【写真】責任感のある仕事があって、愛する家族がいて、助けてくれる仲間がいる。そして、これだけ好きなMMAを続けている。上田選手こそ「皆さん、羨ましいでしょう」と言える人生を歩んでいる (C)SHOJIRO KAMEIKE

11日(日)、東京都立川市の立川ステージガーデンで開催されるPANCRASE329で上田将竜が鶴屋怜と対戦する。
Text by Shojro Kameike

昨年はフライ級トーナメントとタイトルマッチで2連敗を喫した上田。今年4月に有川直毅を破り再起を果たしたものの、ベルトを巻くことができず、一度は引退も考えたという。なぜ引退を考えたのか。そして復帰を決めた理由とは――上田に真意を尋ねた。


――上田選手は消防士として勤務されているそうですが、今日(※取材は9月6日、夜に行われた)大型の台風11号が九州に接近していました。現地の状況はいかがでしたか。

「昨日から24時間勤務のあと、急きょ『台風が来ているから出てきてくれ』と言われて、今日の昼まで待機になっていたんですよ。思ったよりも被害は少なくて、早く帰ることができました。全国的にも被害が少なかったようで、良かったです」

――今回のような形で急遽要請の勤務があり、練習スケジュールがずれたりすることもあるのでしょうか。

「そうですね。消防士として24時間勤務があるので、MMAを専業としてやっている選手に比べると……。休みの自由はききやすいのですが、24時間勤務→非番→24時間勤務→非番というスケジュールの中で、どうしても週3日しか非番の日がありません。

そのなかで、MMAを専業でやっている選手と戦うためには、24時間勤務を終えた次の日の朝から練習して、昼に家で休んでから夜にまた練習――非番の日に2部練をして、練習時間を確保しているような感じですね」

――練習時間や練習時間を確保することはできても、24時間の勤務直後の朝に、練習に集中できるものなのですか。

「言うたら自分たちは、消防車も救急車も出動要請があれば全部乗るんですよ。夜中に出動することもあるし、そのあと報告書を打って仮眠して。勤務が終わったら練習に行きます。でも東京や大阪と比べたら、ジムに行ってもプロが集まって朝練を行うような環境ではなくて。

そこは個人的に、福岡でお世話になっている原田惟紘さん(柔術&MMAアカデミー G-face代表)や、DEEPフライ級GPにも出ている本田良介選手と連絡を取って練習をお願いしています。あるいは田中半蔵選手に連絡して、一緒にラントレをしてもらったりとか。そうやって午前中に練習相手を見つけて、工夫しています」

――なるほど。ただ、消防士という立場上、コロナ禍では行動が制限されないのでしょうか。できるだけ人が集まる場所には行かないなど……。

「そういうお話も聞きます。こういう言い方も変なのですが、ウチは都市部と比べたら規模も大きくはないんですよ。自分がMMAをやっていて、パンクラスで試合をしているのも職場は把握して、認めてくれています。試合する時も、トップの消防長に『試合決まりました。頑張ってきます!』と報告しますし。

実は、コンボイ翔兵選手とのタイトルマッチ(2019年7月、暫定フライ級KOPTでTKO負け)まで、MMAをやっていることは職場にも秘密にしていたんです。でも、それがバレて。さすがにタイトルマッチとなると、大きく扱われるもんで(苦笑)。

職場には隠していたことをお詫びして、上の人と話をすることになりました。自分はもう30歳になって、子供も生まれていました。職場から『格闘技をやってはいけない』と言われたら、どちらを選ぶか。でも自分から格闘技がなくなったら、何が残るのかなと思ったんですよね。何を生き甲斐にして生活していくのか」

――……。

「だから、格闘技を選ぼうと思ったんです。それで上と話をした時も『僕は消防にしがみつくつもりはありません。格闘技がダメだって言われたら、迷惑が掛からない形で消防士を辞めます』と伝えたんですよ(笑)。

でも上の人が『お前は悪いことをしよるわけじゃない。30歳を過ぎても熱いものを見つけて頑張りよるんやけん。仕事も頑張らないけんけど、自分が満足するまで格闘技も頑張れ』と言ってくれて」

――おぉ、熱い方々ですね!

「これが都市部だと違うかもしれないですけど、そうやって認めてもらい、今もMMAを続けています。ただ、トシを取ったせいですかね? もう頑張らなくてもいいのかな、そう考えることは増えました。タイトルマッチも2度負けて」

――そこで、どうしても上田選手にお聞きしたかったことがあります。昨年10月、小川徹選手とのタイトルマッチで、なぜ終盤に攻めることができなかったのか。あれだけ手が出なくなってしまったのか。

「……試合が終わったあとに『こんな試合をしているようじゃ選手を続けていちゃいけないな』と思いました。試合中の心境を言えば、ここで勝負に行ったら今まで積み重ねてきたものを失うような気がしたんです」

――というと?

「チームとしては、5分5R中でやることを決めていました。まず、そのプランが上手くいかなったんです。すると自分もテンパってきて……相手も自分が想定していたものとは違うファイトスタイルで来たこともあったので。

3Rが終わった時点で、セコンドの原田さんや本田君からも『上田さん、行かな勝ち目ないよ!』と言われて。それは自分も分かっている。でも攻めていってカウンターをもらったら、今までやってきたことが全て無になってしまうことが怖くなったというか」

――そこで失うことが怖くなった「全て」とは、何を指すのでしょうか。

「試合をする以上は、勝つために、ベルトを獲るために戦います。でもそこでKO負けしてしまったら、もうベルトにも手が届かなくなる。年齢的にも、これが最後のチャンスだろうなと思ってしまいました。そうなると、メンタル的にも守りに入ってしまって。

気持ちの上がり下がりというんですかね。たとえば杉山選手と戦った時(2020年12月、杉山廣平に判定勝ち)は、ドロドロになっても意地でも勝ちたいっていう気持ちが強かったです。でも小川選手とのタイトルマッチは、もう3度目の対戦で相手の強さも怖さも知っているし、反対にモロい部分も知っている。だから初めて対峙するような緊張感がなかったことが、悪い方向に働いてしまったような気がしますよね」

――消防にしがみつくつもりのなかった上田選手が、どこか格闘技にしがみついてしまっていたのか……。

「自分も辞めようと思いました。でも周りの人が『進退について自分たちには何も言えない。でもこのまま終わったんじゃ、格闘技を嫌いになって辞めてしまうぞ』と言われて。嫁からも『あの終わり方じゃ、一生後悔すると思うよ』と言われました。

だから一度休んで、家族と一緒に過ごしてリフレッシュしてから考えることにしました。でも試合に出ない間、何をするかといったら──ジムに行って練習することしかなかったんですよ(笑)やっぱり格闘技しかねぇなぁ。そう思ってもう一度、試合をすることに決めました」

<この項、続く

■視聴方法(予定)
2022年9月11日(日)
午後2時45分~ PANCRASE YouTube メンバーシップ
午後3時00分~ ABEMA PPV ONLINE LIVE
午後3時00分~ U-NEXT

■ Pancrase329対戦カード

<暫定ライト級王座決定戦/5分5R>
松本光史(日本)
アキラ(日本)

<フライ級/5分3R>
上田将竜(日本)
鶴屋怜(日本)

<女子ストロー級/5分3R>
KAREN(日本)
宝珠山桃花(日本)

<ライト級/5分3R>
雑賀ヤン坊達也(日本)
松岡嵩志(日本)

<バンタム級/5分3R>
井村塁(日本)
平田丈二(日本)

<バンタム級/5分3R>
TSUNE(日本)
平岡将英(日本)

<ウェルター級/5分3R>
中村勇太(日本)
林源平(日本)

<ストロー級/5分3R>
宮澤雄大(日本)
若林耕平(韓国)

<ウェルター級/5分3R>
髙橋攻誠(日本)
押忍マン洸太(日本)

<フライ級/5分3R>
荻窪祐輔(日本)
萩原幸太郎(日本)

<女子アトム級/5分3R>
沙弥子(日本)
原田よき(日本)

PR
PR

関連記事

Movie