【LFA138】MMAデビュー戦から1年で、LFAで戦う河名マスト―01―「殴られる痛みを知っての怖さ」
【写真】米国時間の2日の夜にオクラホマ入りする河名マスト(C)MMAPLANET
5日(金・現地時間)にオクラホマ州ショーニーのグランドホテル・カジノ&リゾートで開催されるLFA138。同大会には田中路教と河名マストの日本人選手揃い踏みが実現する。
アライジャ・ジョンズと対戦する河名は、MMAデビューから1年と2週間強、7戦目で北米最大のフィーダーショーで戦う機会を手にした。グレコローマンレスラーからMMAファイターへ。急激に同化が進む河名にMMAファイターとしての進化の度合いを尋ねた。
――渡米まで1週間(※取材は7月26日に行われた)。今の心境を教えてください。
「米国で試合があることに関して、特別感はあまりないです。10日後に試合がある、そういう気持ちですね。MMAに転向して、初めて米国で戦う。その現実にイメージを鮮明に持つことができていないが故に気持ちも楽というのか(笑)」
――深く考えないようにしている部分はありますか。
「なんですかね……。いまだにケージの中に入るまで、腹の括り方が決まっていないというか。良くも悪くも戦うことがイメージできていない。ケージに入ってやっと、腹が決まるというか……」
――では試合前に恐怖感などないということでしょうか。
「そうですね」
――逆に凄くないですか。
「アハハハ。レスリング時代も米国では1度ですが、海外ではヨーロッパでも戦っていますし。時差対策とかしなくても、どこでも眠れる体質なんです。逆に『寝られなくても良いや』と思っているので」
――人間はいずれ眠くなるから、と(笑)。
「それに試合当日になると、眠いだとか言っていられなくなりますし」
――そういう心境で迎えるLFA初陣。改めてLFAで戦うことをどのように捉えていますか。
「確実に目標にしているUFCに近づけている。自分が想像していたのより、倍以上のスピードで進めています。そこに関しては、上手くいっている感覚です」
――昨年末に中村倫也選手との対談で、最短で再来年には言っていた時よりトントン拍子ということですね。
「そもそも残された時間が少ないと自覚しているので、とにかくチャンスがあるならすぐにでも米国で試合がしたい。それが叶ったのは凄く嬉しいです」
――ロータス世田谷の練習仲間は、LFAで戦うことで何か反応はありましたか。
「特別変わったところはないと思います(笑)。『米国か。良いね』という感じですね。外国人選手の雑なところ、粗さがあるので、そこはアドバイスをもらいながら調整してきました」
――レスリング時代も外国人選手には日本人にはない粗さ、雑な部分はあったのでしょうか。
「う~ん、粗いというかパワーがありますね。これぐらいの力で押し込んでくるだろうとか、抵抗してくるだろうという自分の想定している力を越えてくる感じはありました。シンプルにパワーがあるうえでのテクニックだと思います」
――打撃になると明らかに粗い、テクニック・レスのファイターが存在します。この1年間の練習で、MMAの粗さへの対応はできるようになったと考えていますか。
「相手が粗ければ粗いほど、自分の形にはめこんだ時は気持ちが良いだろうと思うので、いかに自分のペースで戦えるのかは考えています」
――過去の試合で一番パワーがあったのは、デビュー戦のジェイク・ウィルキンス戦だと思います。
「デビュー戦は本気で殴ったことも殴られたこともない状態で、相手と向かい合っていました。そもそも殴られたら、どれぐらい痛いんだろうという感じで。それが怖くて、近づくことができずに余計に殴られるという状態でした。
今は殴られた痛みは想像できますし、それを乗り越えて自分が組みに行くためのポジショニングだとかを考えてやっているので、デビュー戦の時とはレベルが違うと思います」
――しかし、人を殴ったことがなくてMMAを戦ったのですね。改めて凄いことだと思います。
「今でも殴られるのは嫌です。怖くもあります。でもデビュー戦の時の何も知らない怖さとは違って、殴られる痛みを知っての怖さです。対処法も少しずつ身についています」
――いやぁ、殴れることを中心に話されていますが、初めて思いきり人を殴るのが人前でケージの中というのもあり得ないです。
「アハハハハ。確かにそうですね」
――喧嘩で鳴らした人が、MMAを戦う方がよほど普通かと(笑)。
「それを言われると……(苦笑)。自分がMMA界の住民として認められるほど、馴染めているのかは分からないですが、この1年でMMAへの理解度は十分に変わりました。もともとレスリングしかできなかったのが、練習仲間からMMAに必要なレスリングという部分で質問してもらえることも増えました。少しずつ、自分の存在を認めてもらえるようになってきたかなとは思っています」
――デビュー前後は、青木真也選手から厳しい言葉を受けていました。今は青木選手も見る目が変わってきてくれた感はありますか。
「連続で当たってもらったりだとか、青木さんがレスリングのエッセンスの一つとして使ってくださっている感覚はあります」
――少し認めてもらった?
「それはどうか分からないです(笑)」
――とはいえ試合で示してきたように、グレコローマン・レスリングをMMAに落とし込めるようになってきたかと。
「もともとMMAとレスリングを別々のモノとして考えていて……レスリングをしていても、それで良いのかという疑問が付きまとっていました。それが今ではMMAの中でレスリングをして良いという風にやっているので、そこは間違っていない。節々の攻めの部分、守りの部分で『ここでレスリングをやって良いんだ』と考えられるようになりました」
――レスリングをやって良い。それはどのような局面でしょうか。
「ケージ際での近距離でのコントロールもそうですし、一度テイクダウンして相手がスクランブルに来てもまた倒す。そこは技術と体力とともにグレコローマンが生きているように思います」
<この項、続く>