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【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:5月:ヴィヴィアニ・アロージョ✖アンドレア・リー

【写真】突き放す打撃で劣勢に追い込まれた時、ヴィヴィは柔術家の一面を見せた (C)BELLATOR

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、大沢ケンジ氏が選んだ2022 年5 月の一番。5月14日に行われたUFC ESPN36で行われたヴィヴィアニ・アロージョ✖アンドレア・リー戦について語らおう。


──大沢さんが選んだ5月の一番は?

「ヴィヴィアニ・アロージョとアンドレア・リーの一戦です」

──おお、ヴィヴィの試合ですか。

「ヴィヴィアニって、ここまで寝技をしたことなかったですよね。パンクラスやUFCでは打撃中心の試合をしてきたのですが、レコードを見るとキャリアの序盤は極めて勝っています。ソレをここに来て出したというか」

──ヴィヴィはすっかり打撃系のイメージでしたが、元々柔術がベースではあったことを思い出された試合でしたね。

「今回の試合で意外なほど、そういう面を持っていることが分かりました。この試合で何が言いたいかというと……ヴィヴィアニはストライカーというイメージを持っていましたけど、初回に右でダウンを喫してハイキックも貰ってから、戦い方を変えました。

そうしたらテイクダウンの形を色々と持っていて。組み技もしっかりとできます。相手のリーはランク9位で、強い選手です。そういう相手にしっかりと組み技ができた」

──そういう一面は下手をすると、2017年10月にパンクラスで三浦彩佳選手に勝利した試合で投げられてもバックを取り、RNCを狙った試合以来かもしれないです。

「一つの形だけでなく、試合中にアジャストできる強さ。しかも、これまでは打撃で相手が捕まえづらい試合をしていた彼女が、あれだけ組みができる。プロフィールに柔術黒帯となっていても、道場でコツコツと練習していたからもらった帯かと思っていました(笑)。それが……ここまでとはというのが正直なところです」

──紫帯でブラジレイロ優勝、茶帯の時にアブダビ・ワールドプロの茶・黒のブラジル予選を勝ち上がっています。ただしパンクラスではジャブとストレートで空間を支配することができていましたし。

「UFCでもアウトボックスで、相手をぶっ飛ばした試合もありますしね。でも本物の黒帯ですよね。これまで試合で見せてきたことじゃなくて、テイクダウンの種類も豊富だし色々と持っていたんだなって。

全てがそうではないですが、僕らの時代から日本のジムってスパーリング中心で仕上げるところが多かったじゃないですか。そういうスパーリング中心だと得意なところは凄く掘れますけど、そこと違う部分が育ちにくいです。

今では色々と工夫をして打ち込みを増やしているところも多くなったと思います。それでも根底にはスパーリングで仕上げるという風潮が強いですよね。

ウチもスパーリングはしっかりとやりますけど、得意なところを磨く練習だけでなく、引き出しを増やす練習も必要だということをヴィヴィアニの試合を視て改めて強く感じましたね。海外の試合を視て、ここで話すのって自分が普段から思っていることとの答え合わせになっています。

しっかりと穴を埋めることが多い。海外の試合を視ているとそう思います。MMAは特にそうでないと、UFCやONEでコンスタントに成績を残すことは難しいですよね。対戦相手よってハマる、そうでないという戦い方をしていれば……ジャンケンで勝って負けるという風では、相手によって得手不得手が出てきてしまいます。

これがボクシングのように相手を選ぶことができるなら、ハマる相手と戦っていれば大丈夫です。でもMMAはそうじゃない。どういうスタイルの選手と戦うか分からないなかで、安定した試合結果を残すには穴を失くすこと。得意なところを伸ばすだけでは無理です。

フォークボールとストレートだけで勝負することは、MMAではできない。バッターはフォークボールとストレートだと勝負に行かなければ良いという選択ができるので。

UFCの女子は特に異種格闘技から脱却しているので、もう得意な部分がグンと高いグラフでは難しいです。UFCの選手層の厚さがそうさせているんでしょうね。Bellatorは一芸に秀でた選手が、まだ見られますけどUFCは穴があっては勝てないです。結果、UFCの選手って『こういうこともデキるのか』と思わせることがままあります。自分のやりたいことで勝ち切れないですからね。

そんなUFCで勝ちたいなら、日本人選手も穴を埋めることが不可欠かと思います。それはBellatorやONEの男子選手も同じです。一芸に秀でていても穴があると難しくなっています」

<この項、続く

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