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【ADCC2022】ADCC予選出場、世羅智茂─02─「予選で優勝した強い選手が出る。正しい世界大会の形」

【写真】2020年4月17日。この状況下、ケージのなかでグラップリングを戦っていた。そして今も戦い続けている(C)SHOJIRO KAMEIKA

19日(日)、豪州ニューサウスウェールズのスタンホープ・ガーデンズで開催される『ADCC OCEANIA AND ASIAN TRIALS 2022』の77キロ級に出場する、世羅智茂インタビュー後編。
Text by Shojiro Kameike

近年、グラップリング界は大きく変化してきた。その変化を世羅はどのように捉え、いかに勝つことを考えてきたのか。現在のグラップリング界と、自身の成長を語る。

<世羅智茂インタビューPart.01はコチラから>


――カルペディエムと世界、という意味では先日のムンジアル……橋本知之選手の試合結果については、どのように感じていますか。

「結果は残念でしたが、橋本には『お疲れ様です』と言いたいです。彼は日本を代表して戦ってくれました。普段から彼が頑張っている姿を見てきたので、そういう姿を称えたいです。

結果については、言い方が難しいですけど……運が悪かったのかなって。柔術には、いくつも曖昧が部分はあります。僕としては、柔術のルールが現状に追いついていないのかな、と考えています。

橋本が反則を取られてしまったのは、踵を出した形のフットロックですよね。内ヒールと同じような効果のフットロックですけど、僕も昔は反則だと認識していました。でも最近の傾向を見たら、OKっぽい流れになっていたんですよ。

国内でも海外でも、あの形で決まっている試合を見ていましたし、反対にあの形で反則を取られているのは見たことがなかったです。だから、もう黙認されている技だと認識していました。

昔の技術だと、ああやって踵を出す極め方はしていなかったと思います。でも足関節の技術が発達してきて……それこそグラップリングやMMAの技術が進歩してきたことが関係しているのかもしれないですね。特にグラップリングの技術が変わって、それが柔術に流れてきて柔術家も使い始められたりとか。結果、互いの技術が上がってきて、ああいうグレーゾーンといえる際どい技術が生まれた。みんなが何となく『良いのかなぁ』と何となく考えていて、今回は橋本が反則を取られてしまった。それは――彼には申し訳ないけど――運が悪かったとしか言えないんです」

――なるほど。今回のADCCオセアニア&アジア予選は、出場選手リストは公表されていますが、まだトーナメント表は発表されていません。

「出場選手リストはチェックしています。でも海外の選手については、ほとんど知らないんですよね。知っているのは日本の岩本(健汰)君ぐらいで(苦笑)」

――2019年の前回大会は66キロ級で出場しています(準々決勝で敗退)。今回77キロ級に出場する理由を教えてください。

「単純に、もう66キロに下げて戦うことはできないからです。体重を落とすことはできます。でも減量で弱っている状態で1日5~6回勝って優勝というのは、そこまで体力と集中力がもたないかなと思います。であれば、相手は大きくなるけど減量なしで77キロ級に出たほうが……。結局、どちらに出てもキツいと思うんですよ。それなら減量なしで77キロ級に出たほうが良いのかなと考えました」

――ちなみに、世羅選手はグラップリングでいえばポイント制とサブオンリー、どちらが自分に合っていると思いますか。

「どちらかといえば、ポイント制です。僕の中では、IBJJFのポイントルールが一番向いているんじゃないかなと思っています。強いグラップラーは基本的に何でもできると思うんです。そうなると、みんなレベルが高くて、なかなかフィニッシュまでは繋げられない。

そのためにサブオンリーで極めるのは、かなり難しいです。サブオンリーの試合をやるのは大好きですけど(苦笑)。だから勝つことを考えれば、IBJJFのポイントルールで、ギリギリのポイントで勝つほうが向いているのかなと思っています」

――かつて腕十字が世羅選手の代名詞であった時代を考えると、サブオンリーと答えると思っていました。

「それ、よく言われます(笑)。極めが強いんでしょ、って。全然そんなことないんですけど、戦い方は変わってきたと思います」

――なぜ戦い方が変わってきたのでしょうか。

「戦う相手のレベルが上がってきたからですね。今振り返ってみると、京都で活動していた頃は、対戦相手とのレベル差があったから、ガンガン極めに行っていたと思うんですよね。でも東京に来てから対戦相手のレベルも高くなって、なかなか圧倒して勝つことが難しくなってきました。そうすると、自然とポイント差やアドバン差で勝つようになって……もう極め一辺倒ではダメだなって考えるようになったんです」

――以前は極めるために10分フルスロットルで動いていましたからね。

「今はもう無理です(笑)。しっかりとポジションを固める技術も身についてきました。先日の全日本選手権でも、マウント取ってからずっと固めたりとか。マウントになったらルーチは取られないので。それはサブオンリーのグラップリングだと意味がないんですけど、柔術であれば別にリードしていれば関係ないですから」

――前大会から3年、その間に青木真也戦や岩本健汰戦など、プロ興行内でのケージグラップリングも経験してきました。その経験は自身にどのような影響を与えていますか。

「グラップラーは全部できなきゃいけないな、と思いました。グラップリングって多種多様なルールがあることで、いろんなタイプの選手が活躍できる場が多いのは良い点だと思います。反対に……柔術はIBJJFのルールがあるけど、グラップリングはルールが統一されていないから、やる側としては難しいです。グラップリングの中でも、どのルールを自分のメインに持ってくるのか。サブオンリーをメインにするなら、そのための戦い方があります。

ノーギ・ワールドは柔術のように細かいポイントを意識した戦い方が必要になるし、ADCCでは立ちレスの強さが重要になってきます。だからグラップラーは全てのレベルが高くなきゃいけないんですよね。今のMMA、UFCの選手のように」

――そのグラップリング界のなかでADCCは、世羅選手にとってどのような位置づけにあるのでしょうか。

「世界一のグラップリング大会ですよね。一番大きいのは、ちゃんと予選を行っているということなんです。レスリングや柔道って、必ず各地で予選が行われるじゃないですか。その予選で優勝した強い選手が世界大会に出る。それが正しい世界大会の形だと思うんです。

何より、2年に1回というのが良いですよね。毎年やっていると、それだけチャンピオンが生まれて、チャンピオンの価値が薄まっていく気がします。4年に1回のオリンピックが最大のスポーツイベントになっているのが象徴的だと思いますし。ADCCも2年に1回というのが、その価値を高めている。そのぶんチャンスは少ないですが、挑戦したい大会です。

今回の予選は、自分の中でキツいトーナメントになると認識しています。でもADCCという最大のグラップリング大会に出るための大会ですから、キツいのも当然です。そのなかで、全力で代表を勝ち取りに行きます」

■視聴方法(予定)
6月19日(日・日本時間)
午前8時00分~Flo Grappling

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