【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:2月:ジム・ミラー✖ニコラズ・モッタ「なぜKO勝ちできるのか」
【写真】自身のキャリアを重ね合わせ、興味深い話が聞かれました (C) Zuffa/MMA
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、水垣偉弥氏が選んだ2022 年2月の一番は19日に行われたUFN201からジム・ミラー×ニコラズ・モッタ戦について語らおう。
──水垣さんが選ぶ2022年2月の一番をお願いします。
「ジム・ミラー×ニコラズ・モッタですね。まぁ、言うとジム・ミラーの話になります。38歳、UFCで39戦目。そして23勝目を挙げた。何より、ここにきて2連続KO勝ちというところに注目したいです。
普通、年齢を重ねると反射神経が衰え、パンチに対して反応ができなくなる。打撃でやり合うことは厳しくなってくると思うんです。それなのにジム・ミラーは2試合連続でKOして勝っている。スタイル的にはローキックが強く、一発でKO勝ちということもあったとしても、ストライカーではないですよね。ジム・ミラーの何が変わったのか。
テイクダウンの圧力があることは確かです。それに今も言ったようにローは強い。それでも、こういう風に当てることができるようになったのはどういうことなのか。自分のなかでも、要因が見つかっていません。テイクダウンにしても、打撃と同じスピードで動くので、加齢とともに組みつけなくなり、打撃を被弾するケースが増えてくると僕は思っていました。それがジム・ミラーは連続KO勝ちで」
──自身のキャリアと比べてしまうところはありますか。
「ハイ。僕自身、スタンドの反応の遅れで打撃でやりあうと勝てなくなりました。だからテイクダウンしてトップコントロールで勝とうと修正を図ったのですが、やりきれなかったです。それがグラップラーのジム・ミラーが、年を重ねて打撃で勝っている。僕がやったことの逆をいっていて、そんなことができるのかと」
──水垣さんは打撃に秀でていました。あの距離で北米のファイターとやりあえる。だから、その反応の遅れが非常に大きなファクターになったかと。ただ、ミラーはストライカーでなく、そのズレがあっても鈍感にいけるということはないでしょうか。
「アハハハ。もとから打撃としては崩れているので。でも、ああいう風に当てられることが、僕の中では腑に落ちないんです(苦笑)」
──最近のMMAは寝技の攻防のなかで極めるということは、本当に少なくなっていると思います。いわばノーギ柔術+パウンドが続くということはない。サブミッションは打撃を効かせたあとのフィニッシュで。だからこそ、対戦相手が極めに秀でていると、そこにいかないという気持ちが大きくなるのか。
「それはあるのかもしれないですね。だからこそ、組まれたくない。倒されたくない。寝技はしたくないと思い過ぎて、打撃を受けてしまったというのはあるかと思います。
実際、僕はテイクダウンされることを徹底的に嫌がっていて、レスラーに対する苦手意識を持っていました。下になるとまずいから、テイクダウンを切って打撃を入れる。そういう練習に精を出していました。ただ、それって相手ありきで本来の自分ではなくなってしまうんです。
グラップリングの試合にMMAファイターが出て、足関節に恐怖心がある。そこに対応することばかりを考えると、自分の持っている組みが出せないのと同じですね」
──相手の間で戦う、居着くということですかね。
「あぁ、分かります」
──?
「武道との繋がりはあると思います。僕は剣道をやっていたので、居着くという言葉は身近なんです。居着きまくりの剣道人生を送っていたので(笑)。出小手って剣道にあるんですけど……」
──でごて?
「ハイ、面を打ちに行って腕を上げようとした瞬間に小手を打たれる。出後手でやられると、その恐怖心が続き面が打てなくなります。結果、動けなない。自分の動きが何もできなくなって負けてしまう。居着いていた……今、そのことを思い出しました。過信ということではなくて、やるべきことに対して、少し自分に傲慢になって戦うぐらいの方が良いのかもしないです」
──仮にモッタがミラーの組みに対して居着いていたなら、興味深いのは左でなくて、右のカウンターで倒されたことかと。
「サウスポーに対して、やはり気にするのは左ですからね。でも、ミラーは右を右で迎え撃った。そうですね。モッタはもう自分の動きができておらず、右への警戒心は薄い。そこで意識してかどうか。意識していると凄いですけど、とにかくミラーは右でKOしたと。本当に興味深いですね」
<この項、続く>