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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。オナマ✖ベニテス「五輪競技≠MMA」

【写真】オナマの勝利から話題の軸はボクシング、五輪競技で結果を残すとMMAでも結果を残せるのかという点に (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たデヴィッド・オナマ✖ガブリエル・ベニテスとは?!


──序盤、ベニテスが圧倒した感もある試合でしたが、左を被弾して右目を気にしながらオナマが一気に試合をひっくり返した試合でした。

「ベニテスが非常に勇敢で、危険な距離でちゃんと打つ選手ですね。オナマが左足前のオーソドックスで戦っている間、ベニテスの猛攻を食らいました。良い距離で腹を殴ることできる。そういう距離にMMAになっていますね。メキシコは『腹が死んだら、頭が死ぬ』という言葉あるそうで。とにかくメキシカンはボディから攻める。それをベニテスも実践していましたね。そしてフックで右目を気にするようになったオナマが右足前のサウスポーにスイッチしました」

──右目が見えなくなっていたそうです。

「それよりもボディを効かされた構えを変えたようにも見えましたが、ラウンドを跨ぐと止められるという状況で、彼もスイッチが入ったかもしれないですね。なんせ、ここから全く動きが変わりました。あれだけ攻めていたベニテスが何もできなくなった。

ベニテスが、サウスポーには弱いのか。それともオマナのサウスポーが異様に強いのか。ここまで戦局が変わるのは、どういうことなのか。そこはよく分からないですが、シンプルに効かされていました。なら、なぜ最初からサウスポーでオナマは攻めていないのか。つまりは偶発的なモノで、そこに理はなかったスイッチだったといえます。それまでは積極的なのはベニテスで、質量もベニテスでしたし」

──ベニテスが打たされているということではなくて?

「いや間もベニテスでしたからね。ベニテスも打たれる覚悟があるので、それで戦えるというのはあるのですが、覚悟はあっても打たせないように戦うべきなんです。今回の試合でいえば、あの距離でベニテスが良いというよりもオマナがやるべきことをしていない。だから、あの距離で打ち続けることができるということはあったと思います。打たせるより、打つという意志の方が彼らは強い。

と同時に武術的に見ると、オナマは姿勢が悪かったです。オーソの時は受けの態勢で、その時は間はベニテスになります。居着くという言葉と、受けに回るは同意語です。そう捉えてください。そしてスイッチした瞬間、姿勢が良くなり──攻めの姿勢になると、間は完全にオマナになりました」

──ただし、本人は把握していないと。

「はい。オナマは自分ではオーソがやりやすい、でもベニテスはサウスポーの方が苦手だったから起こった事象かもしれないですね。だから、私たちも稽古の時に構えを変えるのであれば、自分の得意な方を選ぶのではなくて、相手の苦手の方を選ぶようにやっています。得意な方が相手の苦手というのが一番ですが、そうでないとしても相手の苦手を優先させる。

オマナはオーソで戦いたいけど、ベニテスはオーソの方が戦いやすかった。そういうことは考えられます。オーソ基調でスイッチをする選手はオーソでは受けて変え返すことが多く、サウスポーではポンッと奥手の左ストレートをスッと出すようになったりする。そういうこともあります。ただし、こうしたら勝てるなんてことはMMAにはないです。勝つことを追求すればするほど、そんな答えはない。迷宮に迷い込むように」

──ところでルーツは同じでもアフリカ生まれの黒人選手と、米国生まれの黒人選手は何か違うような気がします。そして軽量級にもアフリカン・アフリカンが進出してきました。

「それは当然違いますよ。アメリカン・カルチャーで育った人と、アフリカン・カルチャーで育った人は違います。そういうコトを考えると、勢力分布図にアフリカ勢が軽量級も加わってくるということですね。一攫千金を目指して」

──現状、徐々にそうなっているかと思います。そして、「徐々に」が定着すれば一気に広まるのはロシアも、中央アジアもそうでした。残すは中東とアフリカ。そして中東がアフリカの中継地にもなる。

「とにかく、同じことをしてはいけないです。心も体も違うので。だからこそ、やりようはあります」

──日本はボクシングで世界チャンピオンがいる。柔道は当然、そしてレスリングも五輪金メダリストがいる。だからMMAもできるという意見があります。でも、現状は結果がまで出ていないです。

「私がそこに関して思っているのは、五輪スポーツに関しては東京五輪までと、これからは違うと考えています。東京五輪は、どれだけ金を使って北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで強化してきたことか」

──では、プロボクシングはどうですか。

「これも私の自論ですが、私らの頃はWBAとWBCしかなかった。五輪が唯一の世界一というのとは違うかもしれないですが、ボクシングの世界王座で世の中から認められていたのは2つでした。今はどれだけ世界王座があるのか。統括組織なんて関係なく世界、世界という報じられます。対して、MMAは世界王座と名がついていても、UFCだけが頂点と誰もが分かっています」

──なるほどBellator、ONEばかりかLFAもCage Fury FC、Cage Warriors、修斗だってワールドの冠がついていて。でも、世界一とはファンも認識していない。ただし、ボクシングでは報じられ方が世界イチになってしまっていると……。

「だから浜田剛史さんは僕らの永遠のアイドルです。あの頃のボクシングの世界チャンピオンは世界一だったから。そして五輪でいえば柔道の競技人口は圧倒的にレスリングより少ない。女子レスリングの競技人口は輪をかけて少ない。だから世界に先んじていて、今もそのリードを保てています。

対して男子は日本人選手が枠を取れない階級が多くなっています。ただ枠を取ったところは味の素ナショナルトレーニングセンターで徹底的に強化されたはずです。国が予算を割いたわけです。日本は豊かな国で、スポーツは盛んです。そして東京五輪があったので国が予算を割いていた。そのような状況ですから、スポーツと格闘技は分けるべきです。

特にダメージで競い合うスポーツは、基本的に五輪競技になっていない。打撃も精度が軸のポイント制で、殴り合って倒すものではないのが基本です」

──確かにそうですね。

「対してMMAは世界中で行われるようになりました。でも、日本は政府が助けることは当然なく、スポンサーもつかない。いうと勝って経済的に見返りがない──ただ地上最強を目指していた時代の極真みたいな環境のままななんですよ、日本のMMAは。そういう状況でアメリカ人、ブラジル人、ロシア人、そしてアフリカの選手を殴り倒さないといけない。ボクシング、レスリング、柔道では強いという風にMMAを同一線上にはおけない。このオマナのような選手を殴り倒すのに、そこを根拠にするのは楽観的かと私は思います」

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