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【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:1月:ケイター✖ギガ・チカゼ「覚悟のあるヤツしかできない」

【写真】痛くて、しんどい試合=覚悟のいる戦い (C) Zuffa/MMA

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、大沢ケンジ氏が選んだ2022 年1月の一番は15日に行われたUFC ESPN32からカルヴィン・ケイター×ギガ・チカゼ戦について語らおう。


──大沢さんが選ぶ1月の一番、どの試合になるでしょうか。

「カルヴィン・ケイター×ギガ・チカゼですね。最近の僕がよく言う近い距離の試合で、ケイターが打撃でガンガン行ったというよりも組みのプレッシャーを掛けた試合でした。組みの圧力がある一方で、組みだけじゃない。打撃でもある程度の威力と精度があって、カウンターも上手い。そうやって近い距離で戦っていました。

結果、その前にいくことでチカゼに打たせた。チカゼが入って来るならということで打っていって、ブロックしながら……ブロックしてももらっているわけで。もらいながら、覚悟を決めて、倒れないという気持ちで自分の距離まで入る。そうなるとローやヒジを単発で入れて、チカゼの意識が上に来ると組む。まぁ、本当に一つのスタイルが確立されたように感じましたね」

──チカゼは組みにも対応できる、素晴らしいキックボクサーだと思っていたのが、この試合では組みに対して後手後手のようにも見えました。序盤は調子よく攻めていましたが、ハイキックの空振りから下になり、そのままコントロールされて初回を終えると、2Rからは別人のようになってしまったかと。

「それは打たされていたからです。ケイターに入らせないように振っていて、消耗していたはずです。僕もそうだったんですけど、長い距離で戦う選手ってこの距離に来たら打つって恐らくは決めています。そうやってボタンを押す、ボタンを押さされる試合になるんです。

ここで打たないと入られる。ここで打たないと、試合にならないって攻撃を出すんで、めっちゃ疲れるんです。しかもチカゼはそれが当たっていたら、より打撃で行ってしまって。マラソンでいえば、本来の自分より速いペースで走ってしまった。そういうことだと思います」

──なるほど。打って、当ててはいてもペースは狂わされていたということですね。

「やっぱり遅くても、速くても自分のペースじゃないと終盤はきつくなるじゃないですか。しかも普段より速いペースで走ったのに、相手はずっと後ろにいて。だからバテてしまったと思います。恐らくですけど」

──スタミナがある、動けていても自分のペースと相手のペースでは違うということですね。

「ヘビー級の統一戦でもフランシス・ガヌーの打撃のプレッシャーで、シリル・ガンヌがバテていたのも同じですよね。そこまでは距離をとって、ちょこちょこガンヌかと思っていたけど結局は削られていました。ガヌーの破壊力のプレッシャーで疲弊しましたよね」

──それでもチカゼも、何か一つの攻撃で勝負がつくような攻撃を続け、結果全てのラウンドで落としたように見えました。

「あの手の試合は両選手疲れるので、ケイターも疲弊していました。ただ逃げて、追いつかれてというチカゼの方が辛いです。これは完全に僕の見立てなのですが……」

──大沢さんの見立てを伺う企画ですので(笑)。

「ハイ(笑)。だから、これって正直にいえばウチがやろうとしていることなんです。HEARTSの選手にはドロドロ、こういうケイターのような試合にしろよと。飯野(健夫)とか、中田(大貴)とか、猿田(洋祐)も前回の世界挑戦でやらせようと思っていたんです。猿田の場合はどんどん組んで、プレッシャーをかけさせようと。

ただ、誰にでもできる戦い方じゃないんです。本当に覚悟のある奴しかできない」

──ケイターの覚悟は、あのヒジ打ちの連打に見られたように感じます。

「それぐらい中に入っている。誰もができることじゃないです。だからMMAの理想形ではなくて、不器用なヤツでも勝てる試合展開です。長く競技を続けられないけど、最高到達点を高くする。そういうファイトです。一瞬でも、自分が一番高くいけるところを少しでも高くしたい。

僕も現役の時、そういう考え方だったのに結果的に長くやる戦い方をしていたんですけど……(苦笑)」

──2009年11月18日、WEC44──大沢ケンジ×アントニオ・バヌエロス戦を思い出します。とはいえ、相手あってのことですし。Zuffaはここでチカゼがケイター越えを果たし、マックス・ホロウェイの位置まで持っていきたかったはずです。それを考えると、ケイターを殴り続けたホロウェイの強さが抜きんでているのかと。

「ホロウェイはボクシングで、ずっと相手に張り付いて疲弊させる。長そうな距離にいて、実は中間距離にステイしている。だから踏み込まないで、自分の拳が届く距離でパンチを出せます。それがケイターのやりたい距離より、少し外なのでケイターとしては難しい試合になりました。

遠い距離からワンステップでなく、中間距離で手を伸ばして体を入れると届く。何よりもホロウェイはあの距離が全く怖くないし、ステップを踏んでいないので連打で攻めることができる。チカゼにデキたことが、ホロウェイには全くできなかったということになります。

チカゼは蹴りとストレート、距離が長いのでプレッシャーを受けると潰されます。だから長い距離の選手は組み勝てる力が絶対的に必要になってくる。お前が来たら、テイクダウン決めるぞという圧力がないと、距離をコントロールして打撃だけで勝つのは、これからは厳しくなってくる。そう、僕は思います」

──押忍、とても興味深い話でした。今月もありがとうございます。

「あと、これって1試合じゃないといけないですか?」

──どういうことでしょうか。他に……もう1試合語りたい戦いがありましたか(笑)。

「そうなんです。上久保選手の試合なんですけど……」

<この項、続く>

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