【WJJC2021】止まらないマイキー・ムスメシ。マルファシーニに明確な差をつけムンジアル4冠達成
【写真】道着の練習1カ月でムンジアルを制したマイキー。来年はいよいよADCCを獲りに行く(C) SATOSHI NARITA
8日(水・現地時間)から12日(日・同)まで、カリフォルニア州はアナハイムのアナハイム・コンベンションセンターにて、IBJJF主催の世界ブラジリアン柔術選手権が行われた。
Text by Isamu Horiuchi
2年半ぶりに開催された、道着着用柔術の世界最高峰の大舞台。レポート第9回は、橋本知之が頂点を目指したルースター級決勝戦──結局のところ、この2人が相対した──マイキー・ムスメシ✖ブルーノ・マルファシーニの対戦を振り返りたい。
<ルースター級決勝/10分1R>
マイキー・ムスメシ(米国)
Def. 6-0
ブルーノ・マルファシーニ(ブラジル)
強豪ひしめく大激戦区となったこの階級だが、決勝まで辿り着いたのはやはりレジェンド2人だった──前回王者のムスメシは、初戦のカーロス・オリヴェイラ、準決勝の橋本知之を倒したジョナス・アンドラージ戦とどちらも強烈無比なストレート・フットロックで一本勝ちして圧巻の決勝進出を決めた。
対するムンジアル10タイムス王者のマルファシーニは、準々決勝では昨年のヨーロピアンで敗れたタリソン・ソアレスと対戦、下からの仕掛けを上から防ぎ続けてレフェリー判定勝ちを収めた。
そして準決勝では、ホドネイ・バルボーザ相手にやはり上をキープしてアドバンテージ1差での勝利。往年の頭抜けた強さこそ影を潜めているものの、大半が下攻めにこだわる最軽量級において、平然と上を選択してなお崩されないその強靭なベースと身体操作は健在だ。
迎えたファイナル。試合開始すぐにムスメシが引き込むと、マルファシーニも一瞬座るが、すぐに上を取り返し、すかさず右にパスを仕掛ける。この攻撃で横に付きかけたマルファシーニが、最初の上選択と含めて2つのアドバンテージを得た。
下から潜るムスメシに対し、マルファシーニは上からダイブするように足を狙う。マルファシーニの右足とムスメシの左足が絡まった複雑な状態になる。ここからムスメシは、マルファシーニに背を向けるような格好で一瞬上になって2点獲得すると、すぐに体勢を戻し、お互い足を絡めたったまま横向きに。ムスメシはあいかわらずの試合巧者ぶりを見せる。
しばらく同じ体勢が続くが、やがて両者の足の絡みが解けると、ムスメシが素早く動き、両足でマルファシーニの両足を挟みこむ。そのままマルファシーニの尻に付いてのベリンボロ狙を仕掛けるムスメシ。
マルファシーニも逆にムスメシの背後を狙うが、両足を挟み付けている分だけ有利なのはムスメシの方だ。ムスメシは登って体勢を進めると、マルファシーニの首元の襟を取って背後に回り、襷掛けを作る。
マルファシーニはすかさず立ち上がり、ムスメシに右足のフックを作らせずに前に落とそうとするが、しっかりと密着しているムスメシは崩れず。そのままムスメシはマルファシーニをグラウンドに持ち込むと、ついに右足のフックをイン。バックグラブの4点を奪ってみせた。
2008年に宿命のライバル・テハにチョークで一本負けして以来、たとえポイントゲームで出し抜かれることはあっても、決して不利な状況に追い込まれることのなかったマルファシーニ。そんな絶対王者の牙城をムスメシは完全に崩したのだった。
さらに足を四の字にフックして体勢をキープするムスメシに対し、仰向けになったマルファシーニは徐々に体をずらしてゆく。そこからムスメシをリフトするように体勢を起こしたマルファシーニはヒザ立ちに。
これで正対に成功したかと思われたが、足の四の字ロックをキープするムスメシは、右手をマルファシーニの後頭部に回して襟を取り、左手では左膝を掴んでそれ以上の進展を許さない。やがて左腕をさらに深く入れてマルファシーニの左ヒザを抱えたムスメシは、完全に下にならないまま体制を固めた。
逆転を狙いたいマルファシーニだが、ムスメシに固められて動けないまま時間が過ぎてゆく。残り3分を切った時点でペナルティが与えられたムスメシだが、意に介さずポジションを保つ。残り2分近くのところで二つ目のペナルティを宣告されると、ムスメシは動き始める。右手でマルファシーニのラペルを引き出し、左ヒザにこじ入れている左手に渡して体勢を固めてから足の四の字ロックを解除し、クローズドガードに変更した。
ここでインサイドガードとなったマルファシーニだが、自らのラペルで強固に左足を固められているために動けない。残り30秒で立ち上がるも、ムスメシはガードを開かず。マルファシーニはムスメシのガードを押し下げて開かせ、最後にトーホールドを狙うが通じず、試合終了に。
ライトフェザー級2連覇に続き、ルースター級でも2連覇を果たしたムスメシは、勝利と同時に四本の指を伸ばして自らの偉業をアピールした。
絶対王者マルファシーニをポジションで制圧という、過去10数年に誰も達成できなかった偉業を成し遂げての4連覇。今年の春からずっとノーギに専念していたということを考えると、まさに驚愕の強さを見せつけた。
ムスメシは試合後、「ブルーノのようなレジェンドと戦えて光栄だよ。彼の動きは凄く速く、そして精確だった。でも、僕の持っているベリンボロの流れの一つで捉えることができたよ。決勝でもフィニッシュしたかったんだけど、あのクールなボロを決められたから十分だよ。
ここまで8カ月ノーギをやって、1カ月だけギの練習に戻ったら、道着柔術では過去最高のパフォーマンスができた。ノーギの練習が役にたったんだろうね。僕はこれで2つの階級で2度ずつ、4度の王者だ。これはホール・オブ・フェイム(殿堂)に値するよね。アメリカ人として初のIBJJFホール・オブ・フェイムをもらえたら嬉しいね。
次はどうするかな。今回初めて、このルースター級で減量の問題がなかったんだ。だからこの階級にとどまるのも良いし、ライトフェザーでパト(今回ライトフェザー級優勝のジエゴ・オリヴェイラ)とかと戦うのもいいね。僕はすでにライトフェザーも2度獲っているから、別に優勝へのモチベーションはないんだけど、彼らのようなニューモンスターズと戦うことが、僕にとってチャレンジになるからね。
ここのところ毎月のようにWNOで135、145、155パウンドの強豪たちと戦ってきたから、僕のタフネスのレベルも上がったんだよ。それで今回125で戦って素晴らしい戦果が出せた。これが僕の適性体重なんだよ」とコメント。
有り余る才能の持ち主が、日々常人には計り知れぬほどの努力を重ね、試合のたびに驚くべき進化を見せつける──あらゆる面で我々を驚嘆させ続けるこの男は、来年体重差を超えてADCC制覇をも成し遂げてしまうのか。ムンジアルが終わってなお、2022年もマイキー・ムスメシはグラップリング界軽量級の話題を独占し続けるだろう。
【ルースター級リザルト】
優勝:マイキー・ムスメシ(米国)
準優勝:ブルーノ・マルファシーニ(ブラジル)
3位:ジョナス・アンドラージ(ブラジル)、ホドネイ・バルボーザ (ブラジル)