【Road to ADCC】ベリンボロ&EBの融合体ジオ・マルチネス✖ファンダメンタル最強マイキー・ムスメシ
【写真】常軌を逸した集中力とでもいうべき、精神力の持ち主でもあるマイキー・ムスメシ (C) MIKE CALIMABS/WNO
17日(土・現地時間)、テキサス州オースティンのJWマリオット・オースティンにてFlograppling主催のRoad to ADCCが開催される。
Text by Isamu Horiuchi
最近のノーギ・ブームにあって、20分という長丁場が揃うのも珍しい。さすがに組み技世界最高峰のADCCの名を冠に持つイベントだけのことはある。
そんな今大会で、66キロ級というADCC最軽量級で要注目の一番=マイキー・ムスメシ✖ジオ・マルチネスが組まれた。
2017年から2019年にかけて連続でムンジアル3連覇、道着着用の柔術において全てを成し遂げた最軽量級絶対王者ムスメシは、今年に入って最後の野望=ADCC世界大会優勝に向けてノーギグラップリングに本格的に挑んでいる。
ノーギの練習を開始して僅か2カ月でルーカス・ピニェーロを内ヒールで秒殺し、その1カ月後には足関節を得意とするノーギ専門家のジュニー・オカシオを足の取り合いで圧倒。驚異的な進化を見せつけている。
その強さとはあまりに対照的なソフトな物腰と笑顔をもって、ギ&ノーギ完全制覇への道を爆進するムスメシの前に今回立ちはだかるのが、ADCC世界大会に4度出場の実績を持つジオ・マルチネスだ。
エディ・ブラボー主宰の10th Planet柔術所属、元プロのブレイクダンサーという変わり種のマルチネスは、柔軟かつ強靭な身体をもって、ブラボーの独創的な技術体系とベリンボロ等の回転系の動きを組み合わせた戦いをする。極めの強さも持っており、20118年のQUINTET IIにて重量級のハイサム・リダをギロチンで仕留めたことで、日本のファンの間でも強烈な印象を残した。
上述の通り、ムスメシはここ2試合もっぱら足関節技の展開を挑み、驚くべき強さを見せている。が、この攻防はマルチネスも熟知している。特に2016年のEBI 10の決勝戦で、ダナハー門下(当時)最高の足関節師エディ・カミングスの快進撃を止めた一戦は印象的だ。
序盤はカミングスに足を持たれると、すぐに背中を軸に旋回して防いだマルチネス。それでもカミングスに足を絡まれてしまうが、そこで持ち前の柔軟性を発揮した。カミングスが狙う側の足をラバーガードの如く自ら抱えて、本戦を守り抜き、最終的にはOTに持ち込み勝利した。
防戦が目立ったとはいえ、マルチネスはダナハー軍の足関節システムを徹底研究していた10th planetのエースとして、足関節への危機察知能力と対応能力の高さを証明した。この分野で急速に進化するムスメシでも、マルチネスの足を極めるのは容易ではないだろう。
また、足関節とは別にムスメシが道着着用時代から得意としていた展開として、ベリンボロ等の回転系の動きからの攻撃がある。特にそこからクラブライド(インヴァーテッドガードのような姿勢で、自分の両スネを下から相手のヒザ裏等に当ててコントロールする状態)に入り、さらにそこから相手の片足に両足で絡むトラックポジションを創るなどし、バックを奪うパターンが強力だ。
とはいえ背中を軸にマットを旋回するこの攻防は、ブレイクダンサーであるマルチネスもお手の物だ。そして上述のトラックポジションを柔術グラップリング界に広めた第一人者は、他ならぬマルチネスの師匠のエディ・ブラボーだ。
必殺技であるツイスターにつなぐ体勢として、(故にツイスターフックとも呼ばれる)このポジションに至るまでの数々の独創的な仕掛けを考案した師ブラボーから学んだマルチネス。この展開においてはムスメシ以上に豊富なバリエーションを使いこなす。簡単に遅れを取ることはないだろう。
このように、マルチネスはムスメシの主要な攻撃手段に対して優れた防御と対抗手段を持つグラップラーだ。だが、実はムスメシを真に絶対王者たらしめているモノは、上記のような現代的技術の洗練度以前の、より原理的な部分──相手との密着の度合い、角度の調整、体捌き等──にある。
これらの柔術ファンダメンタルにおいて卓越しているが故に、パスガード時のプレッシャーや隙のないバックテイク、クローズドガードからの極めのようなオーソドックスな技術の精度、そして威力という点において、ムスメシは他の追従を許さない。だからこそ、ノーギへの対応や足関節の習得も人並み外れて早いと考えることができる。
至高の柔術ファンダメンタルを身に付けた人間が、最新の現代グラップリングの戦法を吸収したらどうなるのか──ムスメシは思考実験を具現化したかのような存在といえよう。それだけに、10年代後半から盛り上がったサブミッション・オンリー・ムーブメントの主役の一人であり、高い身体能力と技術と経験を併せ持つマルチネスとの邂逅は楽しみだ。