【Special】月刊、青木真也のこの一番:2月─その参─大原樹里✖北岡悟「若くして亡くなるのとは違う」
【写真】青木真也だからこそ、語ることができる北岡悟論 (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
2021年2月の一番、第三弾は21日に行われたDEEP100から大原樹里✖北岡悟について語らおう。
──青木真也が選ぶ2021年2月の一番、最後の試合をお願いします。
「北岡さんと大原樹里の試合ですね」
──試合が終わってから、北岡選手とは話をされましたか。
「喋りましたよ。いつもの感じです」
──いつもとは?
「そこは北岡さんに尋ねてくださいよ」
──確かに仰る通りです。あの敗北、盟友・青木真也とすればどのように見ましたか。
「ファイターとしての活動を人生で例えると、30代後半は80歳を超えて、40代って90歳以上だと思うんです。寿命でいえば。で、そういう年齢で人が亡くなった時って、20代や30代で亡くなった場合とは周囲の人の気持ちは違うじゃないですか」
──確かに大往生という言葉がありますし、悲しいけど笑顔で送ることができるというのは、私も経験上あります。
「若くして亡くなるのと、違いますよね。悲しいけど、そういう感覚ってあるじゃないですか。北岡さんに関しては、そういう感覚に近いです。これまで日本の格闘技を盛り上げてきた人の節目の試合になるかと思って、会場に行きました。だから北岡さんの敗北を目の当たりにしても残念、悲しいという感覚とは少し違っていました。
できることを一生懸命やって、この試合まで取り組んできた。だから、ここで一つの区切りにして良いと思いました」
──頑張ってとか、まだやれるとか気楽にいう間柄ではないですよね。最後かもという気持ちは周囲にもあるかと思いますが……。この試合が最後になるかも、というのは取材をしていても感じてきたことです。
「それは選手の後半戦を見ていると、誰にでも感じることじゃないですか」
──その通りですね。心の準備をして、違う結果になれば次がまた見られるという感覚はあります。
「この試合に関しても楽観論があって。僕も正直、あった。でも練習を一緒にしていて、コンディション的なことも含めて、甘くないぞという風になっていきましたね。ただし、北岡さんには『イージー』って言い続けましたよ。あのタイミングで危機感を煽ってもしょうがないし。
それと同時にあの試合を競技的に見ると、北岡さんの試合の時の体の張りが凄いなと思いました」
──私は前日の計量で北岡選手の体を見て、シェイプされているなと感じていて。そしてケージの中に入ると、ここまでリカバリーするのかと。
「あぁ、僕は逆ですね。北岡さんだけでなく、元谷選手や昇侍選手にしても計量の写真を見て、目がくぼんでいるって驚いたんです」
──そこに関していうとコロナ禍の国内MMAは当日計量+1階級上という大会が増えて、前日計量の様子とリカバリー具合を見る機会が激減しているかもしれないです。
「あぁ、だから北岡さんのリカバリーが浮き出て見えたんだ。普段を見ている僕とは逆だったわけですね。ただ、他の選手の体とかみても、やっぱり異常です。単純に危ないって。体を仕上げることと、健康はまた別ですしね」
──健康維持でなく、命を削って戦っているという姿勢の表れかもしれないのですが、最近の風潮の使っていた私は改めてリカバリーのすさまじさに驚いてしまいました。ただし、そこに後バンテージを見出しているのであれば、格闘家はやるのだと思います。
「僕は……アレをやる自信はないです。フェザー級に落とした時に、『これは何回もできない。死んじゃう』と思ったので」
──減量とリカバリー以外に、技術的な部分で青木選手に伺いたいことがあります。
「ハイ、どんなことですか」
──北岡選手が仕掛けたヒールなのですが……極まらなかったという結果論を承知で、大原選手の対応の仕方を見ると回転して、ズバッと足を抜くというモノではなく、殴るために離れなかった。対処として、逆に回っている場面もありました。そして思い切り殴られるまで時間もままあったので、足を組み替えて内ヒールに移行することもできたのではないかと。
「そこは僕も岩本(健汰)さんとも話したのですが、内ヒールは逃げられるモノと思っています。実際に大原が防ぐことができたかどうかは別ですが、今成さんに一発でもっていかれたこともあるし。ただし、内ヒールはもう掛からない──そう思っている方が良いと思います。
だから、あの外掛けの外ヒールは間違っていない。ただし、右ワキで抱えて左に回る──のではなくて、左に体をかぶせて極めにいくというのが今の外ヒールのセオリーですね」
──捻る方向と、体重を掛ける方向が逆になると。
「ハイ。そうなんです」
──それはズバリ、北岡選手は足関節のアップデートができていなかったということでしょうか。
「ハイ。でも、それは北岡さんに限ったことではないです。選手の多くは技オタクではないですから。何よりも外ヒールが悪いわけでなく、そこから移行させることを頭に入れることが大切で。
MMAならスイープが一番ですよね。そしてスクランブルからバックを取る。それがMMAにおける足関節に効用として、一般的かと思います。
それと北岡さんの外ヒールも若い時の勢いがあれば、極まっていたんじゃないかと思います。でも、そこができなくなったのは年齢を重ねたということで。
これもMMAの選手に多いけど、MMAとグラップリングを切り分けたというのはあると思います。グラップリングのためのグラップリングを意識していることはなかったはずです」
──グラップリングの試合を見ていると、例えばクレイグ・ジョーンズの取り方は、MMAだと殴られます。ただし、あの極め方を見て、MMAに採り入れることもできるとは思うんです。
「使えるモノはいくらでもあります。グラップリングの理屈をMMAの理屈に置き換えると、使えるモノはヒールだけでなくかなり存在しています。だからベーシックな技術と流行ものの技術を両方を見ないといけないです。捨て置けない技術であることは間違いなく、それをゲイリー・トノンは証明していると思います」