【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。平田樹✖中村未来「やり取り&暴力の打撃」
【写真】練習通りの動きが出せなったと振り返っていた平田だが、練習通りできないのが試合である (C)MMAPLANET
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。
武術的観点に立って見た──Road to ONE04における平田樹✖中村未来とは?!
──キャリア4戦目にして、初めてのメイン。そして、思い通りの試合ができなく試合後に涙を見せた平田選手でした。
「一流選手あるあるかと思いました。強いのは圧倒的に強い、可能性も持っている。でも、上手く戦えなかった。その要因を試合にだけ求めてはいけないです。普段の自分、普段の練習を今一度、見つめ直す。
ああいう試合になったのは、中村選手の立ち上がりが何よりも良かったからです。パンチからロー、ローからパンチ、あの攻撃をもっとやりきれば倒しきれないまでも、文句なしの判定勝ちできるぐらいの試合を中村選手はできていたかもしれないです。
ただし、それが出来なかったのも事実です。組んで倒された。そして、ここから中村選手がまた柔術を使って粘ることができた。平田選手は自分のリズムで戦えない状況が増えていきました。私は寝技のことは理解が乏しいですが、一度倒したときにもう立たせないという動きが身についていないと、仮に倒してから抑える技術があったとしても、すぐに立つような攻防が体に入ってしまうような気がします。
最近、男子のMMAでもいわゆるスクランブルという展開になると、疲れるのを嫌がってか上を取った選手もしっかりと抑えない。立って、寝てという試合になることが多いですが、それは練習でも意識レベルがそこになっているのだろうと思いました。抑えようとした結果、立つのではなく。立つモノとして稽古をしていると、試合もそうなる。
私も松嶋こよみと大塚隆史のレスリングのスパーを見ていて、なぜそこで粘れないのか──ということがあって、次は絶対に取らせないで動けというと──動けるんです。でも、疲れますよ。ただし、稽古というのはそういうことで。できないことをできるまでやる。できないから、次の展開というのはトレーニングということになります」
──そこが平田選手も見られたと。では、懸命に取り組んできた打撃が出せなかったことに関しては、どのように見られましたか。
「その一生懸命やってきたことで、MMAとしての攻撃のバランスが崩れた。そういう時期でもあるのでしょうが、彼女の中でまだ整理ができていない。ボクシングのパンチというのは、やり取りのパンチです。自分が打つ、相手が打つ。かわす、ガードする。かわされる、ガードされる。そういう繰り返し、やり取りの打撃です。そこに突き詰めた技術がありますが、同時に暴力の打撃ではない」
──暴力の打撃、ですか。
「ハイ。対して、平田選手は去年の2月のインドネシアの大会で、自分より打撃だけなら上の選手に組みと荒いけど暴力の打撃で間を制し、質力の高い攻撃を仕掛けることができていました。MMAは暴力の打撃だけでどうにもならないので、やり取りの打撃が必要になってきます。ただ、そこに寄り過ぎていると、やり取りで中村選手が先手を取られ、その経験に乏しい平田選手はやり取りができなく、また暴力の打撃もだせなくなったように感じました。
組技ベースの選手の打撃に、打撃の選手が打撃でやられるということは、これまでもMMAではいくらでもありました。それはやり取りの打撃が暴力の打撃にやられるということです。チャド・メンデスだとか、ユライア・フェイバーだとか。あれは暴力の打撃ですよ。昔でいえばヴァンダレイ・シウバが、ミルコ・クロコップにパンチをあれだけ入れた。
平田選手は暴力の打撃という良さが、この間の試合では出せなくなった。それも成長過程にあるということでしょうね。そこを整理できるための指導力が、今の彼女には必要で。あの選手に何もかも負荷がかかるのは、大変ですよ。
中村選手は大健闘しました。ただし、結果的には良さが出せなかった平田選手が、自分が採りたくなかった手段でTKO勝ちした──というのが事実です。それだけの力の持ち主、ホントにONEじゃなくてUFCだろうっていう可能性を持っている選手が、これだけ興行という面にも関係しているのは、もう大変なことですよ。だけど、それを乗り越えていってほしいですね。
なんというのか、小麦なのか、米なのか、とうもろこしなのか。その素材の良さを生かした調理方法があるように、彼女の素材の良さは何なのか、それを考えた指導と育成が重要です。ジムを変わったという記事を読みましたが、大沢ケンジさんも大役を仰せつかって大変ですけど、そこを築いていってほしいです。彼ならケツを叩いて、追い込む指導を平田選手にできると思います。
それと平田選手のメンタル面として、今回の試合に関しては──必要なのは反省でなく、研究です。素材、才能は疲弊します。だから、しっかりと自分を磨き続けてほしいです」