【Special】月刊、青木真也のこの一番:1月─その弐─マイケル・チャンドラー✖ダン・フッカー「重心」
【写真】チャンドラーが初回KO勝ちとなったフッカー──。もう少し、組みも踏まえた攻防も見てみたかった(C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
2021年1月の一番、第ニ弾は24日に行われたUFC258からマイケル・チャンドラー✖ダン・フッカー戦について語らおう。
──青木真也が選ぶ2020年12月の一番、2試合目をお願いします。
「チャンドラー✖フッカーですね。チャンドラーは色々な見立てがあると思いますが、僕自身は試合前にはダン・フッカー有利だと思っていたんです。ゴメンナサイ(笑)。
チャンドラーはあれだけ破壊力のある打撃の持ち主ですが、相性的には最悪じゃないかって。フッカーが真っ直ぐに真ん中から当てたら、終わるだろうと」
──確かにチャンドラーの踏み込みも、UFCのトップどころに通じるのかという見方もあったかと思います。
「チャンドラーとフッカーだと、あれだけリーチ差がありますしね。戦略が勝敗を分けるような階級において、これはフッカーだろうと」
──それが蓋を開けて見れば、と。
「ホントに失礼しました(笑)。構え方でいえば、チャンドラーはスタンスが広いオールドスタイルです。
レスリングのように腰を低くして、両足で踏ん張った状態で前後の移動ができる。いわばステップのない堀口恭司選手のような感じですよね」
──それは言い換えると、如何に堀口選手の前後移動がテイクダウンに適しているのかという。
「そうなんですよね。その分、体へ負担は相当あると思います。どうしてもストップ&ゴーなので。そこでいうと、チャンドラーはあのワイドスタンスで歩けるという強さがありますよね」
──堀口選手は、左右の足を使って鋭い踏み込みを見せる。それは全体運動でもあると思います。手を振ったりして。ただし、チャンドラーはもう足腰のみというような。
「強靭な肉体というと雑になってしまいますけど、レスリングが強いということに尽きると思います。MMAPLANETで空手の岩﨑さんが仰っていた『組みは打撃』ということで。組みが強いから打撃が生きる。その理屈を体現しているように思います。
何と言っても個体の強さがあります。パンチがどうこうというよりも、あの低い重心で動けるのかっていう部分で」
──しかも、左フックですから、縦移動に横回転が混ざる。もう自然の摂理に逆らった強さかと。
「そこは前傾姿勢で入っているから、誤魔化していると思います。前に倒して重さをつけている」
──それにしても、ダン・フッカーは過去にUFCで組みの強い選手とも戦ってきましし、このような負けは予想外でした。
「ジム・ミラーやドゥリーニョに勝っているわけですからね。僕はダン・フッカーの評価が凄く高かったので、もうこなるとチャンドラーとゲイジーが見たくなっちゃいます。ダでもスティン・ポイエーがマクレガーに勝っちゃったので、そこがゲイジーとやるのか。どの辺はUFCのセンスはどうなっているのか、ちょっと分からないですね」
──キーポイントはチャンドラーの組みが強いうえの、パンチ力ということですね。
「あのチャンドラーの突進を止めるには、蹴る。それが僕の理屈──あくまでも理屈上ですよ。あの低い前進は蹴りで止める……でも、それができるヤツがいるのかと。そうなるとシャーウス・オリヴェイラとか、興味深いですね。蹴りが映えるし、ヒザもある」
──下になっても構わない。下も上もどちらでも極めの強さがあります。
「テイクダウンされても構わないから、思い切り蹴ることができるだろうし。そうなるとチャンドラーがブロックしようもののなら腕を潰すこともできるじゃないかって。
今、カーフキックって流行っているけど……、カーフキックの理屈はミドルで腕を蹴るのと同じ。オリヴェイラがあの勢いでミドルを蹴って、チャンドラーが腕で受けると折れるんじゃないかって思います。
人間は基本的に、足より腕の方が弱いし、カットもできない。ならスウェイがバックステップでないと」
──でもあのワイドスタンスだと、スウェイではなくてブロックしてくるでしょうしね。
「そうなんですよ。だから、オリヴェイラとチャンドラーでオリヴェイラのミドルが見られないなかって。そこを見てみたいですね」