【EJJC2018】昨年度ライト級3位、岩崎正寛─02─「誰にも負けたくないということ。死ぬほど負けたくない」
【写真】強くなるとは──日々、周囲を含めて自分と見つめ合うということだろうか (C)TAKAO MATSUI
16(火・現地時間)から21日(日・同)までポルトガル・リスボンのパヴィラォン・ムルチウソス・ジ・オジヴェラスでIBJJF主催のヨーロッパ柔術選手権2018が開催される。
昨年の応酬は3位、世界は絶対王者ルーカス・レプリとアドバン1つの敗北。確実に力をつけている自身のことを釘と称した岩崎、その真意とは。
果てしなく遠い、ほんの少しの高見まで彼はどれだけ近づいているのだろうか。
Text by Takao Matsui
<岩崎正寛インタビューPart.01はコチラから>
――釘ですか!?
「ええ、釘です。得意なことをひとつだけ、上へ向かって伸ばし続けたまま世界で戦っていたということです。当たり前なんですけど、小さい空き缶を上に積み重ねていったら、いつかバランスが崩れて倒れてしまいますよね。それと同じで、違う角度から攻められると脆い面を持っていたんです」
――それが釘だと。岩崎さんは世界の舞台で、縦に積み上げて行った技術で勝負をして、崩れてしまったわけですか。
「あと少し、高さが足りなかったですね。レプリを傷つけるためには。その足りない高さを加えるために必要なのは、もう少し土台を広げてつくろうということです。一つの列ではなく、二つ、三つと横に増やしていき、ピラミッド型を目指せばいいわけです」
――横へ広げる作業をしていくと、縦へ伸ばすのが難しいのでは。
「高さは、これまで身につけているので、あと少し足せば良いだけです。安定させるバランスをつけるために、横へ広げているイメージです。結果、王道を行けよと言うことなんですけどね。僕だって、一つのパートについては絶対的な自信があって、ここは破られないと思っています。でも、他の面から突かれた時でも破られないように準備をしていなければいけないわけです」
――そこを突いてくるでしょうからね、相手は。
「そうなんです。だから最近は練習で、やられることが増えました。自分が苦手なところから目を背けないようにした結果、やはりそういう場面が増えていきましたね。でも苦手を一つずつ消して、すべてを得意にしていきますよ。どうしても克服できない場合は、違う要素で補うように工夫していけばいいやと考えるようにしています」
――苦手な要素を埋める作業は、時間がかかりそうですね。
「正直、僕にはどのくらい現役の時間が残されているのか、どのくらい時間がかかるのか分かりません。もしかしたら、僕が求めている理想の姿が完成しないかもしれません。でも、やめないから、諦めないから、やれるところまでやりますよ。そのかわりイメージできていることが、すべてやれることができたら、どこからでも自信を持って戦えます」
――根拠はないけど、自信はあるわけですね。じつは、その方がうまくいくかもしれませんね。
「でもね、意外と早いかもしれません。苦手だと思ったことが、苦手ではなくなる瞬間は、突然くることもありますからね。僕、怖がりなので自分の身を固めてやってきたんです。スパーリングで負けない、ポイントでも取られない。そうやってきました。でも、それだと強くなれないですよね。
昨年の春にニューヨークへ行った時に、ベルナンド・ファリアの練習を見たんですけど、彼はスパーでメチャクチャやられるんですよ。ボコボコにされるんです。でも、『アー』と叫んで悔しがっても動き続け挑んでいくんですね。その姿が、とても楽しそうなんです。
彼はマルセロ・ガウッシアに一本を取られている動画がよく流れていたんですけど、あれがあったから世界チャンピオンになれたんだと納得しました。決してパーフェクトではないけど、食らい続ける姿勢があったからこそ、2015年のダブルゴールド獲得につながったのではないかなと思います。
そんな刺激を受けても、帰国してしばらくすると、また元の考えに戻ってきてしまっていました。幸いだったのは、最近、GENスポーツアカデミーの山田崇太郎さんと練習をさせていただいていて、川尻(達也)さんが来ることもあったんです。
川尻さんも、ベルナンド・ファリアと同じでした。負けることを恐れずに、何度もトライを続けていました。尊敬する二人が練習でトライして強くなる中、俺は一体何をやっているんだろうと思いました。そして練習で100回負けても、試合で一回、世界チャンピオンに勝てれば良いやと思うようになれたんです。
小っちゃいことのようで、自分の中ではとても大切なことです。49パーセントよりも、50パーセントに勝率が上がった方が良いわけで。その1パーセントを埋めていく作業が、苦手と向き合うとことです」
――ヨーロピアン選手権が直前ですが、どんな覚悟を持って臨みますか。
「ライト級はマイケル・ランギ、エドウィン・ナジミ、アレックス・ギスバート……、名前を挙げていったらキリがないくらいの強豪が揃っていますね。ギスバートは一回、ヨーロッパでチャンピオンになっていますしね、誰と当たっても厳しい試合になるのは間違いないでしょう。
対戦したことあるのはランギとアリ・ムンファルディの2人。ムンファルディは、アジア選手権1回戦で戦いました。でも、みんな強いですよね。自信なんてありません。強いけど、やるしかないです。やったら勝てますよ。負けるかもしれないけど、勝てますよ。ひとつだけ言えるのは、誰にも負けたくないということ。死ぬほど負けたくないです」
――昨年は3位に入賞し、今回はそれ以上の結果が求められますが、プレッシャーになっていますか。
「うーん、プレッシャーの中にずっといるので、なにがどうなっているのか分からないですよね。そういう生き方なんでしょうね、僕は(笑)。昨年、ヨーロッパ選手権で3位に入って、ようやく表彰台に上がることができたと思ったら、今度はもっと上へいきたいという自分もいますしね。
世界チャンピオンのルーカス・レプリにアドバン1の勝負ができても、勝ちたいと強く思いました。なんだ、それって。負けてんじゃんって。結局、納得できないんでしょうね。ワールドチャンピオンになっても連覇したいと思うかもしれませんし。この性格は、変わらないなと諦めました。
僕は、勝つことができれば何でも良いです。トーナメントに出ている僕以外の選手全員が、インフルエンザにかかって欠場になっても、優勝できれば良い。勝ちたい。それだけです」
――岩崎選手の立ち位置だと、世界の頂はあと少しという感覚なのではないでしょうか。
「それは、ありますね。もうちょっとで、圧倒的になります。そのもうちょっとが難しいんですけど、何となく答えが見つかってきましたね」
――橋本知之選手が、ムンジアルの表彰台に乗りましたので、自分もという気持ちが強いのではないですか。
「そこは意識していないですね。そこで張り合うのもおかしいし。堀口恭司さんと岡見勇信さんを比べないじゃないですか。どちらが下とか上はないですからね。階級は4つくらい離れていますので、戦っている舞台が違う感じです。
世羅と僕は階級が近いので、彼が優勝して僕が一回戦負けだったら落ち込むかもしれませんけど(笑)。べつに世羅に負けてほしいわけではなく、僕が優勝したいというだけです」