【UFN162】至高のグラップラー対決=アスクレン戦へ、デミアン・マイア「レスラーも柔道家も柔術家だ」
【写真】デミアン・マイアも41歳、もう最高の柔術in MMAを見る機会は限らている。このタイミングでのアスクレン戦、絶対に見逃せない (C)Zuffa LLC/UFC
26日(土・現地時間)にシンガポールはカランのシンガポール・インドアスタジアムで開催されるUFN on ESPN+20: UFN162のメインでベン・アスクレンとデミアン・マイアが戦う。
至高のグラップラー対決、フォークスタイル・レスリング✖ブラジリアン柔術の一戦を前にデミアン・マイアに話を訊いた。
「アスクレンは既に柔術家だ」──深淵なるブラジリアン柔術の世界、その一端を僅か15分のインタビューでデミアン・マイアは話してくれた。
──10月26日にベン・アスクレンと対戦しますが、9月には記者会見をシンガポールで行いました。
「何年か前からセミナーや指導をしてほしいという依頼もあったけど、本当に遠い場所だから実現しなかった。だから記者会見の時が初めてのシンガポール訪問になったんだ。とても綺麗な街で、ホントこれは予想していなかったよ(笑)。何よりあの暑さと湿気はブラジルにとても似ていた。試合の時はどうなるのかだけど、まぁずっと暑い国なんだろうね」
──ところで今回の試合のオファーを受けた時はどのように思いましたか。
「彼のことはBellatorやONEチャンピオンシップで試合をしている時から、皆が凄いグラップラーだと言っていた。そして、ホルヘ・マスビダルに敗れるまで無敗を誇っていた。確か2013年だったと思うけど、ベン・アスクレンがUFCと交渉していた時からファンは僕と彼の試合を期待してくれていたんだ。ただ、彼がONEを選択したので、実現しなかった。
ようやくファンが見たいと思ってくれたファイトが実現する。僕にとっては凄く遣り甲斐のある試合だ。これまでの対戦相手はグラップリングを避けて戦うばかりだったけど、ベン・アスクレンとグラップリングから逃げるようなことはないだろうからね」
──つまりこの試合は寝技の攻防を期待して良いわけですね!!
「もちろんだよ。これまで僕と戦う選手は組み技は防御のみだった。ベン・アスクレンはそんなことしないだろう。彼が私に勝利するには、組み勝つしかないんだから。タイロン・ウッドリーのようにグラップリングは避けて、大きな一発だけ狙うファイトはファンにとっても楽しくない。アスクレンは別だ。私のMMAキャリアにあって、ベン・アスクレンは初めて寝技で私に勝とうとする対戦相手になるだろう」
──日本のグラップリング・ファンはこの試合の実現に凄くわいていましたよ。アスクレンのフォークスタイル流のコントロールをどのように思いますか。
「素晴らしいレスラーだね。そしてコントロールも素晴らしい。彼のグラップリングはコントロールで、僕のグラップリングはサブミッションだ。つまりMMAにおいては、柔術の方がレスリングより適している。ただし、彼は単なる偉大なレスラーでなく柔術の練習をしているので、偉大なグラップラーといえるね」
──サブミッションがあることが柔術のアドバンテージだとデミアンは考えているわけですね。
「もちろん僕らはただの柔術家でもレスラーでもなく、MMAファイターだ。そしてMMAは20世紀の初めからグレイシー一族のチャレンジが始まり、バーリトゥードで勝ってきた。それが柔術の歴史だからね。レスラーがMMAで勝とうとしたのは、MMAが世に知られるようになってからだ。レスリングはレスリングで勝つための技術であって、柔術はMMAで勝つために練られてきた。
100年間、柔術はリングやケージで相手をサブミッションで仕留めるために磨かれてきたんだ。ただし、相手をコントロールして勝ってきたレスラーが柔術を取り入れると、とてつもなく危険な相手になる。もともと、とんでもないボディ・コントロールを身に着けているベン・アスクレンは手強いってことだね。
フォークスタイル・レスラーのコントロール術は素晴らしい。そこはMMAに適しているのも間違いない。柔道も以前は相手をコントロールし、仕留める格闘技だったが今は投げるスポーツになった。ただし、今でも素晴らしい柔道家が柔術を取り入れると、手強い柔術家に瞬く間に変わっていく。柔道は本来、寝技で相手のコントロールを知っている格闘技だからね。頭を切り替えることができれば、レスラーも柔道家も柔術家だ。
そしてアスクレンはずっとMMAを戦い、柔術を取り入れてきた。彼は立派な柔術家なんだよ、既に」
──なるほど、ホリオン・グレイシーを思わせる柔術論ですね。ただアスクレンは下になっても問題ないですが、自ら下になることはない。一方、デミアンは自らに下になれます。
「トップでもボトムでも気にしないよ。もちろん、下から攻めることができるのが柔術のアドバンテージだよ。ベン・アスクレンはトップを取ってパウンドで削ってくるだろうけど、そういう選手とのトレーニングは十分に積んできた。
2003年の終わりにランディ・クートゥアーと2度目の対戦のために、ヴィトー・ベウフォートがサンパウロにやってきてから何年も一緒に練習してきた。ヴィトーはグラウンド・コントロールができたうえで、強力なパウンドを打つ選手だった。それ以来、僕はずっとパウンドのあるなかで寝技の練習を続けてきたんだ。
普通なら僕は相手をテイクダウンして、上から攻める。ただしベン・アスクレンのテイクダウン能力を考えると、下で戦うことは十分にあり得るだろう。パウンドに対してのディフェンシブ・ガード、スイープとサブミッションのオフェンシブ・ガード。どちらも使って、アスクレンを倒すよ」
──デミアン、今日はありがとうございました。最後に日本のファンにメッセージをお願いできますか。
「もちろんだよ!! 僕は日本が大好きだ。2003年にコパドムンドのアブソルーチで優勝して、11月にプロ柔術のコラル・チャレンジ(※DESAFIO)で東京に行った。僕が日本を訪れたのはあの1度だけだけど、ブラジルを出てあんなに長旅をしたのは人生で初めてだったんだ。それまでアルゼンチンとベネズエラしか行ったことがなかったから。
あの時、確か君と一緒にゴング・マガジンの取材でユーキ・ナカイのアカデミーに行ったよね?」
──そんな昔のことを覚えてもらって非常に光栄です。ただし、ゴングではなく格闘技通信でした(笑)。
「アハハハ、そうだったのか。忘れることはないよ、あの東京での日々のことは。人生初の大きな旅をして、確か雑誌の編集部にも行った。それからPRIDEを観戦したんだ。ホント、最高の思い出だよ。あれから何度も日本でセミナーを開かないかと言ってもらえたけど、どうしても遠くてタイミングが合わなかった。
実は将来的に、僕はブラジリアン柔術のドキュメンタリーを創るというプランがあるんだ。ブラジリアン柔術ができる以前を探るために、東京に行くことになると思う」
──デミアンが東京に来てくれることは本当に嬉しいですし、また何て素敵なドキュメンタリーが創られるのかと。
「ブラジリアン柔術のルーツは日本にあり、なぜブラジルに渡り、また日本に返っていったのか。ホントはまだシークレットだったんだけど、思わず言っちゃったよ(笑)。日本に行って自分のルーツが知りたいんだ。
もう1年、現役を続けるつもりだからすぐじゃないけど、必ず日本へ行くよ。16年前、日本に行って君たちの国の素晴らしさ、君たちの優しさを知った。僕は絶対に日本に戻るから。その時に日本の柔術家、MMAファンの皆と再会できることを楽しみにしているよ」