【WEF】Fight&Life格闘紀行:キルギス共和国編より。WEFキジルミシェフ代表に訊く、キルギスのMMA
【写真】建築業、ホテル&レストラン経営など手広く事業を展開するキジルミシェフ氏。フェイスオフの一触即発にも見事な対応を見せていた(C)MMAPLANET
11月10日、キルギス共和国ビシュケクのスポルトパラス・コジョムクルで開催されたWorld Ertaymash Federation(WEF) 67 Global14 & Arzalet。同大会は中央アジアのファイターのポテンシャルの高さと、MMA創世記を思い起こさせる原始的な競技運営で現地に赴いた日本選手団にとって忘れ得ないイベントとなった。
現在発売中のFight &Life Vol.70ではそんなキルギスの格闘技事情がレポートされているが、ここでは同レポートにも登場しているWEFのルスラン・キジルミシェフ代表に──大会2日前に行ったインタビューを掲載したい。
キルギスの漢の強さを証明するために私財を投げ打ってイベントを開く、キジルミシェフ氏に訊いたキルギスMMAとは。
──ルスランさんがWEFを始めた理由を教えてください。
「キルギスではソビエト連邦時代、空手やテコンドーのような格闘技は禁じられていました。ただし、キルギスにはコラトゥと呼ばれる格闘技が存在し、共産党に禁じられないように、ソフトな格闘技という印象の動きを継承することで、練習することは許されていました」
──コラトゥという土着格闘技があったということですね。
「そうです。エルタイマッシュ・コラトゥは共和国レベルでステータスがありました」
──エルタイマッシュ? それはWEFのEの頭文字になっている言葉ですか。
「そうです。コラトゥとは『投げる』という意味で、打撃のない組み技格闘技でしたが、そのコラトゥにはエルタイマッシュという打撃が含まれた戦士の戦闘術も含まれていました。そして4年前にキルギスのスポーツ大臣がコラトゥを11あるキルギスの国家スポーツに指定したのです。
ただし、今のファイターはコラトゥやエルタイマッシュを理解していません」
──コラトゥとMMAの関係はどのようなモノなのでしょうか。
「コラトゥとMMAは同じようなモノです。そしてコラトゥにはキルギスの連盟と、国際連盟も存在しています。ただし、長い間ケージのような囲いがないところで練習が続けられていました。世界中にMMAが広がりコラトゥ連盟に参加している選手もカザフスタン、ロシア、米国で戦うようになりました。私は我が国のコラトゥの競技者を世界レベルにするためにWEFの活動を2014年より始め、選手たちもケージのなかで練習をするようになったのです。
コラトゥでは1R10分で試合が行われていたのものが、他の国の選手を招聘して試合をするときに、この試合タイムで戦うことを嫌がるので、WEFでは5分×3R制にしました。ルールもMMAに寄せるだけの柔軟性を私達は持っていました」
──ところでルスランさんはいつMMAを初めて見たのですか。
「最初のUFCからです。私は当時テコンドーの練習をしており、2段を持っていましたが、実はコラトゥを知らなかったのです(笑)。コラトゥはキルギスでも、それほど知られた格闘技ではなかったのです。
そんな私にとってMMAは非常に興味深いモノでした。50キロの選手が、100キロの選手に勝つ。凄く興味深かったです。しかもグローブもしていないし、UFCのようなノー・ルールの試合が行われるようになり、ファイト・スポーツは新しい時代を迎えたと思っています。
UFCを知って、私はノールール・ファイティングの組織を創りました。ただ『これでは世に広まらない。ルールは必要だ』と感じていると、MMAはどんどん競技的に整備されていきました。そして、今や他のどんな格闘技よりも細かいルールが必要になりましたね(苦笑)。私は今でもノールールの方が好きなんですよ。でも、あの戦いを今は続けることはできないです。
いずれにせよ、キルギスにはMMA協会や連盟は存在していなかったので選手たちはカザフスタンなどの大会に出場するしかなかったのです。そして私がWEFを旗揚げし、選手が国内で練習し、試合経験も積める環境を創りました。結果、今や旧ソ連邦のなかではロシア以外の国で最もMMAが開かれるようになったのです」
──そこまで一気に成長した要因はどこにあったと考えていますか。
「いくつか理由があると思いますが、まずキルギスの漢はずっと戦士だったからです。MMAを戦えるフィジカルを持っています。2つ目の要因は、ファイターの待遇を可能な限り良くしたことですね」
──政府のサポートなどはありますか。
「私はWEFに50万ドルの投資を行なってきましたが、政府からの援助は1万ドルほどです(笑)。この4年で、我々は70のイベントを開催してきました。もちろん、プロモーター業だけで生きているのではなく、他にビジネスをしています。そうでないと、逆にWEFは活動できないです」
──ではルスランさんはWEFの活動で、何を目指していますか。
「キルギスのこのスポーツのレベルを上げる。それだけです。実際、私はWEFの活動で1ドルたりとも手にしたことがありません。だから、この国には他にMMAのイベントもありません(笑)」
──アルゼルトとはどのように関係ができたのですか。
「以前からヨーロッパ、中国のイベントから共同開催の申し入れはありました。WEF自体はロシア、カザフスタン、タジキスタン、イラクで開催してきました。そしてRIZINネットワークに声が掛かったこともありましたが、共同開催には至らなかったです。そんな時にヤマダさんがキルギスにやってきて、柔道のウチシバさんを通じて出会い、今回のように協力してやっていくという話ができたのです」
──ルスランさんはキルギス人ファイターの可能性をどのように捉えていますか。
「キルギスにはアントニーナとヴァレンチーナのシュフチェンコ姉妹というUFCファイターがいます。ヴァレンチーナのキャリア序盤の3試合はMMAでなく、コラトゥを戦ったものです。
ラファエル・フィジエフもいます。彼は我々のクラブ出身です。この3人に続くファイターも育っています。キルギスのファイターが、どれだけ強いかは土曜日のイベントを実際に見て判断してください(笑)」