【Special】月刊、青木真也のこの一番:番外編─エブ・ティン戦を振り返る。「立ったまんまで入る」
【写真】ヴァンフルーから肩固めというフィニッシュ──以前に焦点を当てて青木に自らの試合は振り返ってもらった (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画──番外編。
10月6日、ONE79でエブ・ティンを秒殺した青木。本人にあの一戦を振り返り、青木独特のテイクダウンについて語ってもらった。ケージに詰めてから、倒してから──の前に青木らしさが存在している。
──10月の青木真也が選ぶ、この一番。ここからは自らのエブ・ティン戦を振り返っていただけますか。
「ラッキーでした」
──ただのラッキーではないかと思うのですが。
「格闘技をやっていると何試合かに一度、ハマっちゃったっていう試合があって。それは打撃の人が当たっちゃったというのと同じで。テイクダウンした時にあの形にキュッと入ったので……」
──積んできたモノがあるなかでのラッキーということですね。
「型にハマったということですね。僕はもう少しタフな試合になると思っていたので、そういう意味でラッキーでした」
──なるほど、そういうラッキーですか(笑)。やはりテイクダウンからポジションを取り、そこをスタンドの打撃に戻されるという展開になると、どうしても嫌な記憶が蘇りますし。
「今回はコンディションも良いのもありましたけど、組んだ感じで大丈夫だとは思いました」
──その組み、テイクダウンに関してですが、青木選手の特異性というか感覚として青木選手のテイクダウンは対戦相手からすると、そこからかと思う意外なモノなんだと思いました。
「どういうことですか?」
──相手と青木選手の足の位置という部分での距離は、MMAの入り方として普通かもしれません。ただし、ボクシング&レスリングの構えではない。あのサウスポーでアップライトの構えは、ティンの目算からすると頭の位置が高いこともああってテイクダウンに来ても切れる距離という認識だったのではないかと。
「距離と構えはレスリングのテイクダウンではないですからね」
──組んだ瞬間など、レスリング的には綺麗な入りにも正直見えないんです。
「感覚的にムエタイ・スタンスと今のMMAの立ち方は違うんですよね。そこは佐藤天や和田(竜光)君と蹴りマスの練習をしていても、『遠くて何をされているのか分からない』と言われるのと同じだと思います。
『当たる気がしないけど、これだけ貰うのが分からない』という感じなんです。タイ人も飯村さんも、そういう指導の仕方なんです。あの立ったまんまで、入るというのはMMAには余りないですよね」
──ボクシング&テイクダウンのタン・タンというリズムだとティンは簡単には倒れないかと。青木選手はあの頭が遠いところからタンの一拍子で入って来る。その前の小刻みなステップも写真を撮っていて左ミドルを予測していました。
「形ではなくて、距離間が独特なんです。僕の距離としてバッチリ、ただ相手とすれば距離間が違う。岡見選手も突っ立て入る構えから入るから、似ていると思います。皆がボクシングに寄っている時に、僕はパンチもレスリングも自信がなかったので蹴ってコントロールするにはどうするのか──という部分から入ったスタンスなので」
──触ってからは色々と手がありますね。桜井マッハ速人に決めたテイクダウンも見事でした。
「ハハハハ。あんなの誰も行くと思っていないですからね(笑)」
──会場が暗かったので抽選会はシャッタースピードが遅くなっていたのでテイクダウンは流し撮りになったのですが……青木選手と矢地選手はブレていない写真になって(笑)。
「矢地は反応良かったと(笑)」
──ハイ。それにしても、乱闘劇でも見事なダブルレッグでした。そこが青木真也らしかったです。
「今はMMAをやるならテイクダウンからだけど、僕らの頃はそこまでレスリングが重視されていなかったら、ヒザつきタックルだったんです。総合格闘技なんてモノが分からなかったから」
──まさにヒザ立ちのグラップリングスパーで、差すのではく双手刈りにいくような。
「誰も知らなかったし、パラエストラになかった。八隅(孝平)さんですら、ヒザをついていた時代で。で、イヴォルブに行ってから当時のヘッドコーチのヒース・シムズにレスリングのテイクダウンを習ったんです。テイクダウンはずっと指導されましたね。肩入れるとか、四つ組みのクラッチをシンガポールに行く度に練習して。
今やシンガポールに残っている子たちも覚えていない。大事にしていないことが、僕のなかではとても大切なことになっています。柔道だったのが小手巻きになり、そこからレスリングになったんです。総合格闘技における壁レス、そのテイクダウンの攻防は一応やってきました。
四つが強い人間、下が強い人間がいても両方ができる人間はそれほどいない。そこにあの間合いがあって、僕のテイクダウンは成り立っているんですよね」
──その独特さが非常に面白いです。
「ただ鈴木隼人さんはヒザをつくんですよね。レスリング出身でも。だから、色々あるんだと思います」
──偉そうなことは言えないのですが、MMAは切られると殴られるのでヒザをついていくのは逆に勇気があると思います。
「ですよね? 実はジェイク・シールズもヒザをついていた。僕は彼をお手本にしていたのもあって、ヒースに会うまでヒザをついていたというのもあります」
──結果、幅が広がったと。ジェイクも青木選手もヒザをつくのは切られるとガードを取って下からコントロールがあるからではないですか。
「僕はジェイクの寝技を本当に参考にしているので。それはパスガードとか上もそうです。ジェイクはレスラーとしての資質はないけど、寝技ができる。あと、ベン・アスクレンもヒザをつくから……なんだか分からないですね。僕の場合は格闘技が好きで、できないことを継ぎ接ぎでやってきたので独特な完成度があると思います」
──だからラッキーじゃないんですよ(笑)。あの試合は。
「型にはまったラッキーだったんです(笑)」
──素晴らしい勝利を経ての今後ですが。エディ・アルバレスがONEライト級にやってきました。
「ハイ。まずはちゃんとチャンピオンシップを戦いたいと思っています。エディ・アルバレスで良いですし。とりあえずエブ・ティンに勝ったことで、3月の日本大会が何とかなる……形になるという部分でホッとしたというのはあります。代理戦争もONEの日本大会もつながったと」
──そこはプレッシャーになっていましたか。
「それは……やっぱりありますよね。高島さん、それが責任感ですよ。古瀬もやっぱり人生で何か一つ、創ってあげたいんですよね。だからあの勝ちで3月まで、何とかなるかなって」