【Special】月刊、青木真也のこの一番:8月─その参─ヘンリー×大塚隆史&8月のAOKI AWARDは該当者無し
【写真】青木真也が8月のMMAから心に残った一番、最後はヘンリー×大塚だった (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ8月の一番、第3弾は8月26日に行われたDEEP85からビクター・ヘンリー×大塚隆史の一戦を語らおう。そして8月の青木アワードはない──その理由とは……。
──8月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目はどの試合になるのでしょうか。
「ビクター・ヘンリーと大塚隆史です。大塚は何かね……、僕は大塚が普通に勝つと思っていたんです。ポテンシャルとか考えると、日本では相当強い選手だと思っています。石渡(伸太郎)に負けたり、勝ち切れないところがありますけど」
──実はキャリア5戦目でブラジルのFURY FCでレアンドロ・イッサに勝っていたり、ハファエル・ドスアンジョスともブラジルで戦っている。ビビアーノ・フェルナンデスとの初戦など大塚選手のポテンシャルが多いに見られた試合でした。
「スクランブル多用型で、僕の宗派とは違う。僕は抑える派で、彼の宗教は動かして動かしてというスタイル。僕からするとコントロールした方が良いと思うけど、彼は仕留めないスタイルを確立させている。抑える先生がいなかったのかもしれない。でも、強い。強いと認めてしまうタイプだったんです」
──今回の試合でも完全にガードをあげて顔を守って、腰高のスタンスでもテイクダウンを切れるというシーンがありました。
「逆にテイクダウンを取っていますしね。なんであんな打撃戦に持ち込まれてしまったのでしょうね。あれだけクリンチが強いから、あんな試合にせずに30-27で勝つ試合を貫けば良かったのに。フィニッシュしてステップにしたいとかっていう気持ちがあったのかなぁって」
──今後はどうするのかという部分で精神的に万全でなかったのかという気もします。
「RIZINでピークに持ってきて、疲れてきたのかなって。なんか一息ついちゃったのかなと。試合はしたけど本質的な部分では冷めていたのかと。対してヘンリーは分からないです。逆にどう見ています?」
──彼のスタイルは日本人相手だからこそ、という部分はあると思います。あのスタイルが米国でカレッジレスリング上がりのファイターなどにはできないのではないかと。逆に言えば、だからこそ日本という戦場を見つけられて良かったと感じています。いつも良い試合をしていますし。
「中島太一と行ってこいの試合をしていて……中島がそれだけ強かったと今からすると思うし。ハファエル・シウバや石渡と戦った時も凄い試合でしたよね。そういう部分でも、分からないんです。
根性マッチになったり、名勝負になるということは攻められているというわけだし。突拍子もないことをやるので、試合は見るけど共感はしないです。今回の試合もタフゲームで、互いにボディを殴り合って凄かった。その一方で、無茶はしなかった。ここで一番は堅いコトができるんだなって思いました」
──大塚選手とヘンリーの試合が8月の青木真也の一番、3試合目ということは……。
「ハイ、8月は青木アワードはなしです」
──20代の日本人選手の活躍が、そこまででなかったということですね。
「まぁ、しょうがないですよね。八田亮選手とかも考えたのですが、あの相手はイージーではないかと」
──未知のブラジル人、マーカス・アマラウに一本勝ちしたわけですが……。
「中継で柔術黒帯をね、売りにするって……それって、何年前だってことです。逆にいえばそこしかないのかって。ヒカルド・リッキー・ボテーリョじゃないんだよって(笑)。そういう煽り方をしているってことは、それ以上のモノではない。試合を見ても、それほどテクニカルではなかった。
そういう意味で、ここまで青木アワードの平均値に八田選手の勝利は達していなかったと判断したんです」
──青木アワードはマンスリー・マストでなく、通年で見ているのですね。
「ハイ。マストではないです。高野さん(SARAMI)はそういう意味で、相手も強いし頑張りが伝わる試合になるかなって思っていたのですが、さすがにあの内容ではしんどかった」
──日本にはJEWELSがあって、あれだけ定期的に試合ができる女子選手がいる。そこでタイトル挑戦までいった選手の国際戦の敗北……富松恵美選手が韓国の0勝2敗に負けてしまうなど。定期的には試合があっても、それだけでは強くなれないのか、と。
「女子は盛り上がっています。でもRIZINも踏まえて麻薬。水着を着て、ちょっとしたスケベをやって。アレは麻薬です。だから、もっと選手の取り組みをピックしてあげた方が良いんじゃいかと僕は個人的に思うんです。
富松さんとか死地を彷徨ったのに、また戻ってきて戦い続けている。高野さんにしても田舎から出て来て、ここまでやっている。そういう所にスポットを当てた方が長続きすると思うんです。それをAOKI AWARDで話したら、abemaが丁寧に記事にしやがって……抗議が入りましたからね」
──DEEP JEWELSからですか?
「そうですよ。なんで文句言われるのか、僕には分からなかった。少しでも話題にしたかったし、悪口を言ったつもりは一切なかった。正論だと思うって返事しましたよ。逆に流してくれよって、俺は色々なことを色々なところで言っているわけだし」
──その話をここに持ち出して、MMAPLANETを巻き込まないでください(苦笑)。女子MMAの話でいうと、選手層は男子にも増して厚くない。
「もちろん、そうです」
──そういうなかで試合の機会は少なくない。つまりふるい落としではなく、すくいあげる形態だと思います。
「もっといえば、それで消費されるんですよ。負けても試合があるから」
──でも、それは男子にも当てはめられるようになってきた。日本には参加型のプロMMAがある。これは世界でも非常に稀なケースだと思います。
「そう、それなんです。だからこそ、ちゃんと頑張っている人間をちゃんと頑張っているとして評価する軸がないと。強さと頑張りを評価しないと、危ういという話なんです」
──つまりSARAMI選手は、ここで勝っていればその評価がなされたというわけですね。
「相手が強かったけど、北岡さんがあの高野さんの試合を見て良くないと怒るのも分かる。戦う気持ちがでなかった。想定していた以上に相手が強かったんだと思います。残念でしたね」
──青木アワード受賞者がいなかった。この現状を青木選手はどのように捉えていますか。
「試合自体が少なかったというのもあります。GladiatorとHEATが当初の予定通り8月開催だったら、もっと分散していたのに……。まぁ、仕方がないですね。9月はこの2つに加えてGrachan、パンクラス、修斗とあるので楽しみたいです」