【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月─その参─田丸匠×猿田洋祐「ファイターとして正当に評価する」
【写真】田丸といえば減量にも、やはり言及しなければならなくなるだろう (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ7月の一番、第参弾は7月15日に行われたプロ修斗公式戦から田丸匠×猿田洋祐の一戦を語らおう。
──7月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目、そして月間AOKI AWARDの受賞者は誰になるでしょうか。
「田丸ですね。田丸匠×猿田洋祐……田丸は好き嫌いで言うと余り好きじゃないんです。好き嫌いで言えば好きじゃないけど、ファイターとして正当に評価する」
──それはある意味、最高の褒め言葉ですよ。
「そのつもりです(笑)。私事ですが……ということで、好き嫌いというフィルターは他人を見るうえで、大きな要素になってくるけど、ファイターとしての評価はそういう感情を横に置いて見ることができるのが、僕の強味です(笑)。
彼の取り組み、あの試合で見せた戦略、格闘技に対する想いは僕と違うだろうし、全く乗れない。だけど彼が結果を残していることに関しては評価せざるを得ない」
──あの場面であの状況で後ろ回し蹴りが入って負傷TKO勝ち。ラッキーだったと思います。
「ラッキーですよ」
──ただし、そのラッキーで勝てるのは運ではなく実力の一部ではないでしょうか。
「アンラッキーで負けるヤツより、ラッキーで勝てる方が強い。だってフランキー・エドガーにBJが最初に負けた時、なんて言われていましたか? でも、あれって実力だった。結果は結果として評価されないといけないです。
まぁ、格闘技をたくさん見てきて、これは違う……これは何だって思うことがたくさんあるじゃないですか」
──ハイ……。
「そういう強い想いで、田丸匠という芽を摘んじゃいけない。う~ん、だって田丸って岐阜で同世代のプロがいない環境でやっているんでしょ。頑張っているんだろうけど、逆に東京に出て来て長南さんのところでやっていたら潰れていただろうし。
この間の試合とか、長南さんのところだったら『お前、勝負していない』ってボロンチョに言われるだろうし。まぁ、長南さんのところというか、東京にいれば潰れていたでしょう」
──う~ん……。
「彼がいる岐阜っていうのは、その環境になく彼のために一生懸命になってくれる人がいる。だから、今のようにやることができている」
──仮定ですけどね、その意見は。ただし、田丸選手は今の日本のMMAを象徴している選手でもあります。勝っても、強いのかどうか分からない。本人の頑張りとは別に、結果を残しても実力の程が計算できない。青木選手の時代は修斗のトップになれば、ある程度の実力は保証されていた。
「査定されていましたからね。そこなんですよ。今、修斗だけでなくパンクラス、DEEPのトップに立ったからといっても、どこまで強いか分からない」
──もちろん、選手の責任ではないのですが。
「そう、それもそう。彼らの責任ではない。そして、田丸には無知のパワーを感じることができる」
──田丸選手といえば、やはり減量問題があります。前日の公開計量の様子を見る限り、本調子で試合を迎えることは無理だと感じました。
「前回の元谷に続きね。普段の感じがどれだけなのか、それが分からないから。一回、練習の感じを知りたいですね」
──青木選手の考え方では、試合より普段の体重が20パーセント増というのはないですよね。
「ないっ!! 色んな意味で、修斗だから成し得る業というのか……。勢い、運はある。サステインの坂本(一弘)さんや、インスピ(インスピリット)の杉田(剛司)さんはどういうつもりで田丸をプッシュしているのか。分かっているのか……、どうなんでしょうか? 覇彌斗と田丸の試合を見て、どう思っているのか」
──プロモーションとして若くて勢いのある選手に力を入れるのは間違っていないと思います。UFCに行ける、ONEのチャンピオンになれるとか──そういう尺度がなくても、サステインの興行のなかでファンが喜ぶ試合ができる。その選手をプッシュすることは間違っていない。
「そこが分かっているなら……。だって田丸って組みの選手だと思っていたら、猿田との試合では組みが強くなかったのが致命的で。というよりも、そこの攻防をかわしていた。ただ、さっきの減量の話を聞くと、それができないぐらいの体調だったというのも考えられますよね。
だから跳び蹴りとか、ああいうことばっかりしていた可能性もある。逃げて、逃げて、何かしら一発勝負に出ようとしていた。それでアレが当たったのは、まぁ大したもの」
──後ろ回し蹴りは練習していたとSNSで動画を流していましたね。
「他にやることあるだろうって(笑)。何やってんだぁ、お前って(笑)。いや分からないなぁ……。でも自信があるみたいだし、逆に面白い。選手が強くなるのに正解なんてないわけだし、僕らと違う計算で田丸はやっている。だから、分からないけど楽しみ。
練習の時からガチガチやって篩にかけるのか。ノビノビやらせるのか。どっちが強い選手になるのかなんて分からない。だって和田(竜光)さんなんて小見川(道大)さんにガチガチやられて、(若松)祐弥だったら、あのメンバーに放り込まれてやってきた。そんなの悲劇じゃん。
何が正しいのか、分からない。要は結果を残した者が勝ち。そういうなかで田丸はこないだの試合で勝った。まだ、20代前半だから可能性がある。それが期待感になる」
──そういう意味で大垣から田丸選手が出てきて、福山から覇彌斗選手が来た。そして岡山から青井人選手が育った修斗というのは……。
「アマチュア修斗だぁ。アマ修斗は大したもの、皆が東京に出ないとしょうがないという状態でなくしている」
──そして柔術との並行活動ですね。地方でMMAの練習をするために、道場が存続するためにも。
「結局のところ、若林(太郎)さん。闘裸男の山本(陽一)さんとか地方に若林イズムの後継者がいる。それが日本のMMA界の財産ですよ。そして、田丸がその結晶になっている。そういうことですね」