【JBJJF】全日本マスター出場の前HEATバンタム級王者・赤尾セイジ「会員さんと一緒に大会に出る楽しみ」
【写真】年齢も性別も超越して、この空気がある。それが格闘技を学ぶ良さの一つであることは間違いない(C)SEIJI AKAO
30日(土)に「愛知国際柔術選手権2018」、7月1日(日)に「第3回全日本マスター柔術オープントーナメント」が名古屋市港区の愛知県武道館で開催される。
この両日に行われるトーナメントから、今回は全日本マスターで、マスター1黒帯フェザー級&オープンクラスに出場する赤尾セイジにインタビューした。
MMAと柔術の大会を並行して出場する赤尾は、HEATのタイトルを失った直後に柔術の大会への出場を決めたと言う。そんな赤尾に柔術とMMAを並行する長所と短所、そして護身について尋ねた。
Text by Takao Matsui
――大変な中、取材に応じていただきましてありがとうございます。まさかこの取材の直前に大阪で震災があるとは予想もしていませんでした。
「あ、大丈夫ですよ。大阪東部は震源地(大阪北部)からは離れていますし、たしかに地震が起こった時は揺れましたが、自宅もジム(パラエストラ東大阪)も無事でした。震災が起こった当日は、電車が止まったり、道が混んだりしましたが、震源地に比べれば大したことはありません。
普通にジムも開いていましたから。ただ水道管が破損して、ジムのシャワーが使えないため、会員の皆さんには迷惑をかけてしまっています」
――そうでしたか。無事で安心しました。最初に話をうかがいたのは、5月27日のHEAT42のことです。HEATバンタム級王座防衛戦でキム・ミュンギュ選手と対戦し、RNCを極められて残念な結果になりました。
「あの試合は……、自分の中で一瞬、気が緩んでしまいました」
――2Rに左フックでダウンを奪ったことで、隙が生まれてしまったと。
「いえ、全体を通してキム選手はスタミナや圧力があったので、すごく疲れていたんです。そんな中、最後の場面ですが蹴りが当たって効いたような顔をしたんです。その瞬間、気が緩んだと言うか、集中力が途切れてしまい、ああいう結末になってしまいました」
――何が必要だったと思いますか。
「何が足りないか……、それが分かれば簡単なんですけど、それをずっと考えている感じですね。あの試合の後は、自分の不甲斐なさに落ち込み、悩みました。今もそれは変わらないんですけど、修正していくしかないんで。気持ちは切り替えるようにしています」
――全日本マスター柔術オープンへの出場を決めたのは?
「その試合の後です。もともと柔術の大会へ出場したいと思っていたんですが、なかなかタイミングが合わなかったんです。でもHEATが終わって、その後の予定はなかったので、エントリーを決めました。何か目標がないと、ダラダラと日々が過ぎていくような気がしていましたので、気持ちを切り替える意味でも、ちょうどいいかなと思っています」
――赤尾選手は、いつ柔術の黒帯になられたのですか。
「昨年の8月か9月くらいです。愛知のALIVE小牧(現ネックス)で柔術を始めて、12、13年になります。自分はキックとか打撃が好きだったので、ジムに入った当初はやっていなかったんですけど、MMAをやる上で寝技は必要になってきますので、始めてみたら楽しくてはまっていった感じですね」
――MMAと柔術を並行してやる上で、メリットはありますか。
「MMAだけの練習をしていると、寝技の技術が粗くなるように感じます。例えば下になった状態だと隙をみて立つか背中を見せて逃げる展開が多くなるかと思いますが、柔術の練習をしておくと下からのアタックができるようになります。アタックした流れで、立つこともできますし、攻撃の幅は広がっていくのではないでしょうか。
逆にMMAの練習をしていると、際の強さが身についてくるため、柔術で上を取れる可能性も広がります。またMMAならではの寝技の攻防もありますので、それがアドバンテージになる可能性もあります。柔術ではポイントにならないポジショニング、サイドバックの体勢だったり、がぶった状態などはMMA独特の動き。柔術の選手と違う動きができれば、それは大きな武器になるかもしれません」
――逆に両競技を並行することによるデメリットはありますか。
「あまりないと思いますが、あるとすれば柔術のモダンの動きに傾倒し過ぎてしまうことでしょうか。柔術のテクニックに拘り過ぎてしまうと、MMAでは危険な場面もありますので。MMAは、自由度が高い競技ですが、一方で取捨選択が重要になってきます。その見極めは必要になってくるでしょうね」
――MMAの試合の後、柔術の大会に出るのはどのような気分なのでしょうか。
「どちらが楽とか辛いではなく、気分転換にはなりますね。もちろん勝負なので、勝ちには拘りますが、会員さんと一緒に大会に出る楽しみもあります。ジムでは、とても練習熱心な方もいらっしゃいますので、いい刺激を受けています。ともに同じ目標(優勝)に向かっていくという意味でも、MMAとはまた気持ちが違います」
――今回はマスター1黒帯フェザー級&オープンクラスとダブルエントリーです。
「フェザーとオープンともに、ブルテリアボンサイの鈴木恒太選手がエントリーしていますが、紫帯の頃から苦手な選手なんです。今回、もしも対戦する機会があれば、自分がどこまで成長しているのか試したみたいと思っています」
――MMAファイターの参戦は注目を集めると思いますが、プレッシャーになりますか。
「たしかに自分はMMAもやっていますが、柔術ではそこまでの実績がないので、チャレンジャーの気持ちでいます。プレッシャーは、そんなにないですね。柔術に限らず、グラップリングの試合も興味があります。本当はADCCにも出てみたいんですけど、なかなかタイミングが合わないんですよね」
――日本でも痛ましい事件が起きますが、そういうなかで柔術という護身術の側面がある武道の価値観も変わってくるかもしれないですね。
「非常に難しい問題ですよね。その場にいたわけではないので、どんな行動をとるのかは想像できませんが、自分が格闘技を始めたのは強い人間になりたいと思ったからです。大事な人が危ない場面に遭っていたら、逃げずに立ち向かえる人間になりたい、そう思って格闘技を始めました。
自分だったら、どうしていたか……。それは分かりませんが、助けに行きたいということが前提にはなるでしょうね。ただ相手が刃物を持っている時点で、格闘技をやっていたかどうかは関係がなくなってくるのではないでしょうか。試合や練習で、そういう状況は絶対にありませんので。
護身術を身につけたくて柔術を習いに来られる方もいらっしゃいますが、柔術をやっていたから刃物を持った人間を制することができるわけではありません。むしろ、少しかじったくらいの人の方がどこかで過信してしまい、危険な状況を生む可能性はあります。
――根拠のない自信が、過信になる危険性はありますね。
「青木真也選手のブログも読ませていただきましが、自分も同じように逃げられるのならば、逃げた方が良いと思っています。
黒帯の選手だったら、もしかしたら制することができたかもしれませんが、実際に刃物を見て不動心でいられるかどうかでしょうね。でも、この問題は、簡単には答えが出ませんし、簡単に出してもいけないように思います」
――たしかにそうですね。話が大きく脱線してしまい、失礼しました。
「ただ、格闘技をやって心を強くすることはできます。これからの時代、何が起こるか分かりませんので、何もやっていないよりかは、やっている方が自分の身を守れる可能性が高くなることも事実でしょう。
護身術もそうですが格闘技をやることで日々のストレスや抱えたものを発散して、今回の犯人ように精神的に追い込まれてしまう人間を少しでも減らすようにして行くことが、現在の社会に格闘技が果たせる役目でもあるかと思います」