【WJJC2018】ライトフェザー級。嶋田裕太、かく戦えり──ベスト8入り、力を示した上で残る課題
【写真】実力伯仲というよりも、既に互角。そして勝ち切れないという果てしない取り組みに挑む必要がある嶋田(C) SATOSHI NARITA
5月31日(木・現地時間)から3日(日・現地時間)にかけて、カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われた。ブラジリアン柔術の頂点を極める同大会レビュー、今回はライトフェザー級に公約した表彰台には登れなかったものの、元世界王者を破るという結果を残し、実力を示した嶋田裕太の2日間を振り返りたい。
<ライトフェザー級1回戦/10分1R>
嶋田裕太 (日本)
Def.3分41秒 by 襟絞め
ワシントン・リマ(ブラジル)
ハーフガードに引き込んだリマは横に揺さぶりをかけるが、嶋田は左手をポストして耐える。その後リマの首を枕で取った嶋田は、腰を切ってマットに密着させる低い体勢を作ると、絡まれている右足を抜きに行く。ディープハーフの状態にあるリマは、勢いよく体を翻してスイープに。嶋田はすかさず立ち上がるが、嶋田の右足を掴んでいるリマはそのまま場外側でテイクダウンに。嶋田はその勢いを利用して切り返して上になるも、ここでブレイク。リマにアドバンテージが一つ与えられた。
スタンドでの再開後、嶋田が前に出るとリマは下がりながら突然飛び込んでのテイクダウンを見せるが、嶋田も素早く腰を引いて対処し、逆に背負いでリマを崩す。結果的に再びハーフに引き込むリマ。場外側だったため、両者は中央に戻された。
ここでリマがブレイク前には持っていなかった手首のグリップを取ろうとするが、嶋田はレフェリーにアピールして譲らず、グリップを取らせずに再開させた。すかさず嶋田は胸を合わせてワキを差しアドバンテージを取り返すと、強烈なプレッシャーでリマの上半身を殺したままヒザから抜いてパスガードに成功した。
さらに上四方からのチョークを狙い、嫌ったリマがスクランブルを試みたとことで嶋田は素早くバックを奪取。7-0と差を付けた後、襟絞めを極めて4分足らずで完勝した。
素早くキレのあるリマの動きを、確実かつ迅速な対応で遮断した嶋田。開時の姿勢に関してもアピールすべきところはアピールしたあたり、いかに妥協なき姿勢でこの大会に賭けているかがうかがわれた。とまれ、ワールドクラスの力を見せつけて圧勝した嶋田は、初日の難敵、元世界王者ガブリエル・モラエス戦に駒を進めた。
<ライトフェザー級1回戦/10分1R>
嶋田裕太(日本)
Def.7分31秒 by 負傷棄権
ガブリエル・モラエス(ブラジル)
ベテランのモラエスは04年に世界王者に就くと、13年に2度目の制覇。昨年はヨーロピアン大会でジョアオ・ミヤオからパスを奪って勝利し、世界大会でもイアゴ・ジョージを倒して3位入賞している超大物だ。嶋田にとっては、古豪のイメージこそ強いものの黒帯昇格後の国際大会でようやくジョアオ・ミヤオ以外の世界的強豪と戦う機会が巡ってきたこととなる。
まずモラエスが嶋田の襟を掴みながら座ると、嶋田も腰を落とす。そのままシッティングを取ったモラエスと、前傾みの嶋田が頭を付け合って組手争いに。やがてモラエスはクローズドガードに嶋田を引き込んだ。
嶋田はすかさずヒザを入れてガードを割ると、モラエスはラッソーに移行し、さらにシッティングから嶋田のラペルをヒザ裏から絡めて取りにゆく。対する嶋田は立ち上がり、モラエスの上体を後ろに倒しながらニースライドを狙う。すかさず腰を切った嶋田は、モラエスの左サイドに付きながらの足抜き狙いへ。
ここでモラエスは嶋田に安定させることを許さず、下から跳ね上げて立ち上がる。そしてラペルを取ったまま嶋田の右足をコントロールして、テイクダウン狙い。左足一本で立つ嶋田はすぐに前転してスクランブルを狙うが、それについて来たモラエスは背中に飛び乗る。
腰を上げて頭を下げてモラエスを落とそうとする嶋田だったが、ガッチリ密着しているモラエスはやがてフックを完成させ、アドバンテージ1と合わせて4点を先取した。
嶋田は自らグラウンドに入ると、体を反らせながらずらして正対して上になることに成功。続けてすぐにヒザを入れてモラエスのクローズドを割ると、先ほどと同じようにハーフから腰を切って足を抜きにかかる。
モラエスはすかさず動いて嶋田を左右に揺さぶって、強いポスチャーを取らせない。なんとかトップを保つ嶋田だが、モラエスはシッティングしてまたしても嶋田のラペルを掴む。
そこから再び崩された嶋田だが、持ち前のボディバランスで耐えて、再び足を抜く体勢に。ここでモラエスがアドバンテージを追加した。
残り6分。常に下から動いて嶋田を崩そうとするモラエスは、やがてヒザ裏から回したラペルをコントロールする強固なディープハーフを作る。大きなリードを取られている嶋田はモラエスの上半身を殺し、バランスを保ちつつ左右に動いてなんとか状況を打開しようとするが、絡みつくモラエスの足が解除できない。
それでも嶋田は動き続け、やがてモラエスの上半身にプレッシャーをかけることでラペルのグリップを切ると、胸を合わせてアドバンテージを一つ取り戻した。
さらにポジションを進める嶋田は、バランスを保ちつつ重心を前に移動しながら、挟まれている右足を抜くと、その足でモラエスの右肩を押さえる形でついに足抜きに成功する。
パスガードを嫌ったモラエスがすかさずうつ伏せになると、素早くバックに回り、そのまま両足フックを入れて4点獲得。モラエスもすぐに体をずらしてハーフを作るが、嶋田には攻勢のアドバンテージも与えられた。
残り試合時間は4分、下から動き続けるモラエスに上から動き勝った嶋田は、ポイント4-4、アドバンテージ3-2で逆転してみせた。
試合はディープハーフのモラエスと、絡まれている右足を抜きたい嶋田の攻防に。モラエスは足で反動をつけて起き上がってのスイープ狙いへ。右足を抱えられている嶋田は左足一本で耐えると、逆に内股でモラエスを投げ返す。
と、下になりたくないモラエスは右肩と顔からマットに落ち──そのままうつ伏せになり、動きが止まってしまう。嶋田が背後に付いたところで、試合が中断された。
結局この攻防で右肩を痛めたモラエスは続行不可能に。嶋田が元世界王者、ガブリエル・モラエスを下した。
結末だけ見れば不完全決着とも取れるこの試合。しかし重要なのは中身において、嶋田が大物モラエスにまったく遅れを取っていなかったことだ。常に激しく下から仕掛け続けるモラエスに先制点を許したものの、すぐに体勢を戻して再び上から挑み、今度は動き勝ってバックを奪い返したことの価値は計り知れない。
世界的強豪に一度先制されながらも、ひるまず同じ攻防を挑んで取り返したことで、嶋田はその技術だけでなく、自身の積み上げてきたものを信じるメンタルにおいても世界で戦えることを証明した。
最後の場面でモラエスがポジションにこだわり負傷してしまったのも、(嶋田の内股のキレが鋭かったのは言うまでもなく)それまでの攻防で嶋田の実力を身を持って分かったからだろう。堂々の元世界王者超えを果たした嶋田はベスト8入り、2日目に進出し準々決勝で、黒帯昇格後4度目のジョアオ・ミヤオ戦に駒を進めることとなった。
<ライトフェザー級準々決勝/10分1R>
ジョアオ・ミヤオ(ブラジル)
Def. by 4-4 アドバンテージ1-0
嶋田裕太(日本)
ガードに引き込んだミヤオは、ラッソーを作る。対して低くかがんでバランスを取った嶋田は、ミヤオのグリップを一瞬で切って横に回ってのパスに。しかしミヤオも当然のように足を効かせてすぐに戻す。ラッソーを作り直したミヤオは、時に嶋田の右足に絡みついて横回転を狙ってゆくが、嶋田はすぐに察知して担ぎ等で反応し、回転すらさせない。ミヤオの技がかかる前に瞬時に対処するあたりに嶋田の実力が伺える。
そのうちミヤオは嶋田の右足に左足と左腕で絡み、すくい上げることに成功。さらに嶋田のラペルを掴みながら崩して上になって2点を先取してみせた。上になったミヤオは、嶋田のラペルを自らの左足と嶋田の右ヒザ裏を通して掴んでいる。
下の嶋田は、潜り込んでミヤオの右足を抱えて立ち上がる。するとミヤオは無理せずグリップをキープしたまま下になり同点。このまま上下が入れ替わるシーソーゲームになっても、主導権はラペルを持つ自分にありという計算があるのだろう。
ミヤオはすぐにコントロールしている嶋田の右側に回ってベリンボロを仕掛けるが、嶋田の反応も速く一緒に回転して上をキープする。
ラペルグリップで右側をコントロールされていることで満足に動けない嶋田。やがてミヤオのグリップが緩んだところで、絡まれている右足をラペルから抜いてみせて、体勢を上下五分に戻した。
再び下から嶋田の右足の捕獲を狙うミヤオは、左腕で嶋田の右ヒザ裏をすくおうとする。腰を落としてそれを防ぐ嶋田。それでもミヤオは嶋田の右足を引き出すと、ヒザ下からラペルを通しにかかる──が、嶋田も腰を引いてディフェンス。しつこく下から飛び込んでラペルを通しに来るミヤオと、それを回避する嶋田による攻防が続く。
ミヤオの意図はお見通しの嶋田だが、それを防ぐために腰を引かなくてはならず攻撃に移れない。ミヤオはついに嶋田の右ヒザ下からラペルを取り、そのグリップを用いて上に、スコアを4-2とした。
残り4分。上のミヤオは左にパスを仕掛けるが、島田も足を効かせてバタフライに戻す。それでもミヤオは低く胸を合わせながら左に動き、嶋田の右足を超えてハーフに。このままワキを差して抑えることでアドバンテージを獲得した。このアドバン獲得によって、嶋田にスイープで返されポイントが同点になっても、アドバンテージ差でミヤオは勝利を得られることになる。ポイントゲームを考えた場合、きわめて大きなスコアを嶋田は献上してしまった。
残り3分。嶋田の首を枕で取ったミヤオは、さらにラペルを背中越しに取る。嶋田としてはこのまま固められたら非常に苦しくなると思われたが、同じようにミヤオのラペルを背中越しに取り、一気にブリッジしてハーフガード・スイープで2点を返す。
それでもアドバンテージで負けている嶋田は、すかさず横に動いてのパスを狙うがミヤオも戻す。残り2分少々。勝負に出るしかない嶋田はミヤオを低くスタックし、そのまま体を横に浴びせるように足を超えにいき、次はダイブしてミヤオの尻とマットの間に入り込んでバックを狙い、さらにレッグドラッグに移行するという波状攻撃に。それでもミヤオは柔軟な体を利用してその全てを防いだのだった。
やがてミヤオは嶋田の右足にまたしてもデラヒーバで絡みながら、嶋田のラペルを引き出しにかかり、さらにベリンボロへ。この仕掛けは事前に対処できずいったん崩された嶋田だが、ミヤオのズボンを後ろから掴み尻を出させて防ぐ。
残り1分。前に出てヒザからミヤオの足を抜きにかかる嶋田。ミヤオがインヴァーテッドでそれを防ぐと、ズボンを掴んで尻を出させながらバック狙い。ミヤオは嶋田の左足首を取ってトーホールドで切り返し、さらなるアドバンテージを狙う。
嶋田はミヤオのズボンを引きその体を引き寄せようとするが、右足をインヴァーテッド・ガードで捉えられてしまう。それでもパスを狙いにいった嶋田に対し、ミヤオが右足のズボンを掴んで引き寄せるため思うように動けず、そのまま時間切れ。敗れた嶋田は天を仰ぐように後転し、勝者のミヤオは十字を切って勝利を神に感謝した。
黒帯になってから4度目の挑戦にして、またしてもポイントゲームでミヤオに出し抜かれてしまった嶋田。前回に続き2度スイープを取ったことからも分かるように、地力で十分に対抗できることは証明済みだ。同時に、執拗にラペルグリップを作りに来るミヤオに防戦に回らされる場面が多かったことも事実だ。
対してミヤオは、嶋田がパスの猛攻をかけても柔軟な体を利用して危なげなく対処し、すぐにガードに戻すとラペルグリップ攻撃に移っていった。現代ブラジリアン柔術の技術体系も感消してくるが、どちらが自分のやりたい攻防に持ち込むか、という試合の主導権争いにおいてミヤオが優っていた。
さらに忘れてはならないのは、常に下からペースを作っていたミヤオが、上になるとすぐに嶋田の足を超えてハーフガードで抑えた結果アドバンテージを獲得し、これが結果的に決勝点となったことだ。パス不可能なガードワークと矢継ぎ早に繰り出せるスイープ攻撃に加えて、上下が入れ替わると取るとすぐにポイントにつなげるトランジションの隙のなさ。これもこの試合のミヤオが見せて嶋田は見せられなかったスキルといえる。
間違いなくワールドクラスの実力を身に纏った嶋田にしても、詰め切ることができない現実が存在する。この険しい路を乗り越えるために、嶋田の戦いはこれからも続く。