【Special】月刊、青木真也のこの一番:5月─その弐─アスカル・アスカロフ×ラスル・アルバスカノフ
【写真】下になれる組み技の持ち主、アスカロフはパワーギロチンでアルバスカノフを落とした (C)ACB
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ5月の一番、第二弾は5月5日に行われたACB86からACBフライ級選手権試合アスカル・アスカロフ×ラスル・アルバスカノフの一戦を語らおう。
──5月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目はどの試合になるでしょうか。
「アスカル・アスカロフとラスル・アルバスカノフのACBフライ級選手権試合です」
──テイクダウンの強い挑戦者アルバスカノフに対し、下から関節や上を取り返したチャンピオンが、ギロチンで落として一本勝ちでした。
「普通に強い挑戦者に対し、理解の範疇を越えた強さというのか、そういうモノをアスカロフは見せていました。前に見せた四の字クラッチからツイスターとかの類ですね」
──アンソニー・レオーネに極めた技ですね。
「あとダースチョークで取っていたりとか。セオリー的に理解できないところで勝つんですよね。レスリングが弱いわけじゃないのに、下になれる。この試合は5R制で、25分のなかで取れるから良いよっていうのが感じられました。
そういうところも今のMMAにない感性だと思います。マラット・ガフロフとか、フェザー級の統一チャンピオンになったユーサップ・ラソフとかと練習しているんですよね?」
──ファイトクラブ・ベルクート、いわばACBのモンスターの穴の所属だと。
「ガフロフは僕も手を合わせたので分かるんですが、組み技は強いです。それと今度、ラソフはジョージ・カラキャニャンとACB JJで柔術マッチを戦いますよね。柔道、サンボ、レスリングだけでなく、ブラジリアン柔術をあのジムの選手は習得している。やはりヤバイですね。
体があって柔道を知っているから、立ちありきの柔術をロシア勢は出来ることが多い。サンボだってジャケットを着たレスラーみたいなのがたくさんいて、しかも関節技もある。
これまでブラジリアン柔術っていうのは系譜があって、どの系統のアカデミーで、どういう連中と一緒に練習しているのかっていうのは、もうMMAが始まった頃から分かっていました。逆にロシアは長い間、どういう風な系譜があるのか分かっていなかったです。
そういう部分が見えていなかったロシアも最近は、誰と誰が練習して、どういうチームがあるのか以前より分かるようになってきました」
──その柔術マッチ登場のカラキャニャンが、北米MMAでアレクセイ・パルプニコフに勝った試合は少しホッとしました。
「組みに行って、柔術を知っている選手がレスリングと合わせた戦い方でロシア勢に勝った。カラキャニャンが頑張った試合。しっかりと抑えて勝った試合でした」
──つまり頑張れば、ロシア勢に勝てるんだという気持ちになれたのです。
「ただアスカロフが防衛し、ラソフが統一チャンピオンになった──あの大会はACBというか、ロシアの強さを改めて見せつけていました。ラソフに負けたマラット・バタエフにしても、42歳で8戦ぐらいのキャリアしかない。それでいて、あの強さというのは、元々レスリングをやっていたという地力があるんだと思います。つまりロシア勢というのは、MMAを始める前に相当な力をつけているということ。
ライトヘビー級は期待されていたバルタス・アグナエフが、トルクメニスタンの選手(※ドブレジャン・サギュシュムラドフ)に負けて、今一つ分からなかったですが、タイトル戦に出て来る選手は、強いのばかりでした」
──そのライトヘビー級選手権試合ではゲスト・プレゼンターがアルトゥール・タイマゾフでした。
「レスリングの!!」
──五輪3度優勝で、1回が失格になった。そういうアスリートがケージのなかにいるのは、ACBは既に社会的ステータスも高いのではないかと。
「ONEでは水泳の金メダリストがゲストでしたけど、ACBはそこもファイトスポーツからやってくる。しかも、ロシアにおけるレスリングですから、社会的地位も相当なはずだし。ロシアは五輪アスリートに凄く金を掛けているので、そこでこぼれた選手でも十分に強いと思います。
それに五輪スポーツだけでなく、極真や大道塾も強いですしね。MMAがここまで強いのも納得です。水垣(偉弥)さんがいなくなったACBに田中(路教)さんが行く……最初の相手は4勝2敗だけど、弱いわけはないのでしょうし。田中さんを大切に扱って欲しいですね。
とにかくアスカロフも強いし、ラソフも強い。米国が整えた競技をロシアが制圧する。そのパターンにMMAもハマりそうですね」