【Special】月刊、青木真也のこの一番:5月─その壱─ジョン・フィッチ×ポール・デイリー「希望」
【写真】ジョン・フィッチのファイトが希望だと青木は話した (C)BELLATOR
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ5月の一番、第一弾は5月12日に行われたBellator199からジョン・フィッチ×ポール・デイリーの一戦を語らおう。
──5月の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。
「ジョン・フィッチとポール・デイリーの試合ですね。フィッチがWSOFのチャンピオンからPFLのシーズン制に進まず、ベラトールへ移った」
――WSOFのチャンピオンはフェザー級のアンドレ・ハリソンぐらいではないでしょうかPFLのシーズン&プレイオフ制の戦いに進んだのは。
「(ジャスティン)ゲイジー(ライト級王者)、マルロン・モラエス(バンタム級王者)、あとヘビー級の(ブラコイ)イヴァワフもUFCと契約しましたよね」
――ミドル級とライトヘビー級王者だったデヴィッド・ブランチもそうですし、ウェルター級王者のジョン・フィッチだけはUFCは要らなかったということになります。
「そういうことになりますよね。相手もポール・デイリーで、少し前のUFCであり得た良いカード。そういう元UFCファイター同士が紆余曲折を経て、ベラトールで戦うというストーリーも面白いですけど、一番分かりやすい打撃×組という試合でした。
2011年の4月ですかね、サンディエゴのStrikeforceでポール・デイリーとニック・ディアズの試合を長南さんと、『打撃世界一決定戦だよ』と言いながら見ていて。あんなに興奮して試合を見ている長南さんを見たことは、あれ以来ないと思います。
本当にすごい打撃戦で、ニック・ディアズがKO勝ちしたけど、デイリーも最強クラスのストライカーだと思います。そのデイリーに対して、サブミッションではなくてホールドするグラップラーとして最高峰のフィッチが戦った。
結果、やはりというかフィッチが3Rを通して漬けた。デイリーの淡泊なところも出ましたけど、フィッチが強かった試合です」
――MMAの妙が楽しめるだけのブレイクまでの間があると、フィッチのようなコントロールが巧みな選手は強いです。
「そうですね。それにフィッチは、コントロールしながら殴っているからレフェリーも止めづらい。厄介な選手だと思います。息も長いし」
――ただ、ありがちな試合ではあると思うのですが、そこまで青木選手に引っかかる点はどこだったのでしょうか。
「やっぱりジョン・フィッチのスタイルって、僕にとって希望だからじゃないでしょうか。フィッチ、ジェイク・シールズ、デミアン・マイアというのは」
――なるほど(笑)。岡見選手の4月の試合も希望にならないですか。
「岡見勇信のコントロールは柔道出身で、フィッチやジェイクとは良い悪いではなく別種です。ただし、色気を持たずあの戦いを貫くという点では同じですよね」
――青木スタイルはフィッチやシールズに寄ってくと。
「あれがあったうえでのサブミッションだと思います。コントロールがあるからサブミットできる。取れるというのは、自分で取るんじゃなくて、相手のミスを誘発して取るということ。コントールあってのサブミッションだと思っているので、そこが正しいと思います」
――ポジションを取れていないサブミッションの仕掛けは、失敗すると不利な体勢になることがままありますし、腕十字なんてマウントから仕掛けてもリスクが高い。
「昔、ALIVEの鈴木(陽一)さんかな……中井(祐樹)さんだったけな、凄く良いことを言っていたんです。『ポイントというのは一本勝ちできなかったときに助けてくれるモノ。それがポイントだ』って」
――おぉ。
「ポイントのある柔術とかで、捨て身で極めに行くのは簡単ですよ。でも、コントロールすることの方が大切。だから加点競技をやっている方が良いと思います。ポイント無視スタイルは限界が来ます。それは今成(正和)が示していると思いますし。
サブミッション・ファイターはカードが切れなくなったら終わり。でもコントロール・ファイターは手札がなくなることがない。だから魅力的です」
――そこを青木真也は追及すると。
「やっていてコントロールし、相手を制圧するのが好きなんでしょうね。フィッチとかジェイクのようなスタイルは、もうこれからのMMAではなかなか出てこないでしょうね」
――打撃が上達すると、打撃を使っている方があのスタイルのように疲れない。実はカレッジのトップらスラーだった選手は、遠い位置で打撃を使って、テイクダウンは防御に使用。ここ一番で、テイクダウンをしてもそれほどコントロールせずに打撃に戻る選手も少なくないです。その点、フィッチはマイア相手にテイクダウン&コントロールを貫こうとした。
「デミアン相手にフィッチもジェイクも組みに行きましたからね。デミアンだろうが、組に伏せに行くのは素敵ですよ。まぁ、アメリカのファンが喜ぶ試合じゃないですけどね」
――日本でも喜ばれないと思います(笑)。
「凌ぎ合いじゃなくて、制圧のし合いは……ですよね。ポジションが入れ替わるのは、制圧できていないから」
――そんなフィッチを獲得したのが、ベラトールの不思議です。
「10万ドルだとか、いいファイトマネー払っていますからね。意味は分からないです。でも、やっぱりAKAつながりというかサンノゼ・コネクションが残っているんですかね」