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【Gray-hairchives】─04─Aug 23th 2013 Brian Ortega

Brian Ortega【写真】RFAで活躍中、キャリア7連勝中でグレイシー柔術茶帯だった頃のブライアン・オルテガ。彼自身はキッズクラスの指導をしていた。この約4カ月後に黒帯になっている(C)MMAPLANET

1995年1月にスタートを切った記者生活。基礎を作ってくれた格闘技通信、足枷を外してくらたゴング格闘技──両誌ともなくなった。そこで、海外取材のうち半分以上の経費は自分が支払っていたような取材(いってみれば問題なく権利は自分にあるだろうという記事)から、最近の時事に登場してくるファイターの過去を遡ってみようかと思う。

題してGray-hairchives。第4弾はGONG格闘技258号より、ブライアン・オルテガのインタビューを、まず後記から振り返りたい。

【後記】
9日のUFN123でカブ・スワンソンをギロチンチョークで下したブライアン・オルテガ。グレイシー柔術アカデミー所属のMMAファイターは実は相当少なく、UFCへの登竜門で練習帳だった彼のインタビューをヘナー・グレイシーにお願いしてトーランスのグレイシー柔術アカデミーで行った。現代MMAには勝利のセオリーが存在している。そして柔術を駆使してサブミッションでの一本という戦い方の需要は多くない。ガードワーク、判定負けを恐れず打撃戦を経て一本を狙うオルテガが、そのファイターとして──いや、柔術家としてのアイデンティティはこの頃から既に確立していた。

T-city、飛びつき三角を得意としているオルテガにつけられた愛称も、今やSubmissionのSを取ってS-cityと名乗っても良いほどに。オクタゴン切ってのフィニッシャーが22歳の時に語っていた柔術&MMA観とは。


■『皆、「柔術は必要ない」と言いながら、柔術の練習をしている』

──MMAもしくは柔術を始めたきっかけを教えてもらえますか。

「僕が柔術を始めたのは13歳のとき、15歳で初めてケージファイトを経験した。柔術を始めた理由は、ストリートファイトばかりやって、顔が傷だらけになっている僕を見て、父が柔術のトレーニングをすることを勧めたんだ。僕は体が小さかったからね。ホイス・グレイシーが大きな相手をチョークで仕留めている試合の映像を見て、『これだ。これをやればボコボコにされることはない』って言って、僕をグレイシー・アカデミーに連れてきたんだよ」

──お父さんは、喧嘩をすることを辞めるようにいうのではなくて、柔術を習って勝てという考えだったのですか。

「ノーノー。セルフディフェンスを学べってことだったんだよ。中学生の僕がハイスクールに通っている大きな連中に喧嘩を吹っかけられ、青タンができるまで殴られるのを見てしまったんだ。16歳を相手にして、僕は殴ることができたけど、掴まれて倒され、そこから殴られ続けてしまってね。喧嘩はすべきじゃない。でも、避けられないなら自分の身を守る術を習おうというのが父の考えだった」

──もともとグレイシー・アカデミーの近くに住んでいたのですか。

「サンペドロに住んでいたけど、あの頃はもうトーランスに引っ越していた。カーソン通りにね。父はファイトに興味を持っているわけではなかったから、柔術もMMAも知らなかった。たまたま第1回UFCの映像を見たそうなんだ。父もメキシコで、若い頃は相当鳴らしたようで、ボコられないように僕には何かを狙う必要があると考えていたようだ。ちょうど、そのタイミングでホイス×シャムロックの映像を見たんだ。そして、2005年1月4日、僕は初めて柔術の練習をした」

──正確な日付まで覚えているとは驚きです。

「怖くて、好きじゃなかったからね。僕はもうムエタイの練習をしていたから、打撃が好きだったんだ。柔術は2人ともグラウンドにいて、何をやっているのか分からなかった。ヘナーがトップを取って、僕に『立ち上がれ』って言うんだ。どうすれば立ち上がることができるかなんて分かるわけがない。

そうしたらヘナーは『抑え込んで、俺を立たせないようにして』というけど、あっという間にひっくり返された(笑)。何が起ったか分からなかった。そうしたら、ヘナーは『これが柔術だ』って。あれから、今日まで毎日、少しずつ色んなことを学んできた。色んなことが分かってきて、感じたことは、柔術は美しいってことなんだ。ムエタイは大きな方が勝つ。柔術はテクニックのある方が勝つ。僕はとても小さかったから、柔術に夢中になったよ」

──ブライアンは、そんなに小さいようには見えないですよ。

「今はね。高校に入ったときは43キロしかなかったんだ。高校の間に何とか59キロぐらいまで大きくなったったけどね、高校の中でも本当に小さかったよ」

──ところで柔術を始めた2005年はTUFが始まった年ですね。

「全くUFCのことは知らなかったよ。僕がUFCを知ったのは、2006年にホイスとマット・ヒューズの試合を友人に誘われて観戦したからなんだ。そこでUFC、そしてケージファイティングが、どれだけ注目を集めているか知ったんだ。この年に初めてケージで戦った。素手、オープンハンドだったけどね。僕は15歳で体重は56キロぐらい。相手は71キロもあったよ(笑)」

──15歳で、アカデミーの指導者はケージファイトに出ることには、どのような反応でしたか。

「何も(笑)。ヘナーがコーナーについてくれて、2Rに寝技に持ち込んで三角絞めで勝った。もの凄く嬉しくて、あの試合から本格的にファイターになろうと思ったんだ」

──ホイスの時代はグレイシー柔術を知っていればMMAで勝てました。今ではガードを取ることがマイナス材料になります。それでもグレイシー柔術を武器にMMAで戦いたいと思ったのですか。

「自分への挑戦だった。MMAを戦う人間の多くが、柔術を忘れてしまっている。何よりも柔術への尊敬心を失ってしまっている。皆、『柔術は必要ない』と言いながら、柔術の練習をしている。嘘っぱちだよ。僕はグレイシー一族、そしてすべての柔術界を代表して戦っているつもりだ。柔術は僕のホームだ。ホームを代表して戦うのは、当然の話だよ」

■『必要なガードワークは、ビギナークラスから習うことができる』

──ブライアンの柔術を思う気持ちは本当に伝わってきます。ブライアンにとって柔術は、アカデミーで練習する柔術なのでしょうか。それともIBJJFの試合で見られる柔術、あるいはノーギ、MMA、メタモリスも柔術です。どの柔術がブライアンの愛する柔術なのですか。

「以前はよくトーナメントに出ていた。グレイシー・ナショナル、グレイシー・ワールドでも優勝したし、ゴールドメダルもたくさん手にしている。パンナム、ワールドにも出場しているけど、僕はやっぱりMMAが好きなんだ。よりリアルだからね。サイドマウントを取られても、アームロックを取られなければいい。そして、僕はポイントでなくサブミットを狙う。それが本当の柔術なんだ」

──サブミットをするためにはリバーサルやパスガード、トランジッションは必要だし、そこにポイントがつくのもまた一理あると思いますが。

「その通りだよ。ただ、そのポジションを取って、そこからフィニッシュを狙わない人間が多いってことなんだ。柔術の練習をしているのに、テイクダウンのポイントだけで勝とうとしている。MMAで勝てない試合をしてもしょうがないんだ。僕はフルガードからでも、MMAで勝てる。

だから、柔術でもフルガードを取る。パンチを打たれるポジションでも戦える。それがリアルな柔術だよ。今、柔術の試合に出るならメタモリス柔術が良いかな。MMAだって、本当はオールドUFCルールが最高さ。ノータイム、ノータイムリミッツ、ノーウェイト、ノールールの方がね」

──MMAもビジネスとして、生き残りを図るためにルールが設けられ、視聴者に分かりやすい戦い、そしてエキサイトしやすいファイトが必要となりました。

「エキサイティングさが欠かせないことは認めるよ。ただし、僕は柔術でアグレッシブな試合を見せたい。ガードはサバイブのためにじゃない。トップを取った相手が頭をつけて守りに入ると、僕は思い切りにエルボーを入れる。嫌がって頭を上げると、そこでサブミッションを狙う。KO勝ちは素晴らしいけど、ガードポジションの有効性だって認めさせたいんだ」

──そのMMAは10点法が採用されていますが、柔術のポイント制の戦い方のようにスコアリングを重視する向きもあります。

「ラスト10秒でテイクダウンしたものが、ポイントを取る。ジャッジがボトムポジションの有効性を理解していれば、話は違ってくるのかもしれない。でも、彼らは『あっ、背中をつけたな。これは不利なポジションだ』と今も思っている。ジャッジの技量が、MMAに適していない。結果、裁定について色々と論議が起こる。

だから、僕はジャッジに勝敗の行方を委ねたくない。結果的に委ねることになっても、最初から判定勝ちを狙った戦いなんてしたくないんだ。僕はフィニッシュを狙う。柔術のテクニックを使って」

──その柔術のテクニックだけでは、勝てないのも今のMMAです。柔術をいかすためにブライアンは、どのような技術を使い、またトレーニングをしているのですか。

「打撃は大切だ。ジェイムス・ラーセンにボクシングを習っている。僕は柔術家だから、対戦相手はグラウンドへいかずに打撃で決着をつけたいと思っている。僕はボクシングもやっているし、打撃戦でも負けない。逆に柔術家の僕から打撃を貰った相手は、毒を差されたみたいにダメージが、精神面も含め体に染み渡るんだ。

打撃で優位に立てば、柔術も楽に使えるようになる。テイクダウンが簡単になるからね。8月のRFAでは、元TUFファイター、レスリングがベースのジョーダン・リナルディと戦い、打撃で流血に追い込んだ。すると彼はテイクダウンを狙い、僕の庭のグラウンドに持ちこもうとした」

──ただし、そのテイクダウンを決められたことでジャッジはリナルディを支持していたと思われます。最後に三角絞めを極めなければ、判定負けという展開でした。

「その通りだ。彼のレスリングは僕よりずっと上だ。テイクダウンを止めることは困難を伴う。10年間、レスリングの練習を続けていた人間のテイクダウンを6週間の練習で止めることはできない。相手が自分より優っていることを認めることは簡単じゃない。でも、必要なんだ。倒して、ホールドして、細かいパンチを入れれば彼にポイントがつくことは承知している」

──そのリスクを覚悟の上で、下から狙いにいったのですか。

「今のMMAの判定基準を考えると、誰もボトムにはなりたくはない。ただ、2Rに熱くなりすぎて打撃に逸り、テイクダウンを取られてしまった。僕の打撃は大したことない、殴り負けないって試合前に言っていたから、じゃぁボクシングで勝負をつけようじゃないかって思ってしまった。結果的に柔術に救われたよ」

──見事な一本でしたが、あのままだとポイント的に不利だと思っていたのですか。

「2Rまでイーブンだけど、下にいるんだから3Rは失うと思っていたよ。起き上がりたかったけど、本当に抑えが強かった。MMAは色んなモノを摂取して、腹筋がバキバキに割れているファイターが揃っている。その点、僕は普通の体だ(笑)。ああいう風に抑えられると厳しい。ただし、そういうモノを頼って強さを手に入れたファイターは疲れるのが早い。毎日走って、ハードトレーニングをしている僕は、あの試合でも疲れていなかった。僕の方が仕込んだ弾の数が多いから、最後まで極めに行く姿勢を保てたんだ」

──仕込んだ弾が多い、良い表現ですね。これでMMAレコードが7勝0敗になりました。

「アマチュアでは11勝0敗だったんだ。ヘナー・グレイシーが、常にコーナーに控えてくれている。ヘナーは僕の兄貴のような存在さ」

──MMAを戦ううえでヘナーから学んだグレイシー柔術とブラジリアン柔術は別モノだという認識はありますか。

「ヘナーもヒーロンもバックを取られても、サイドマウントを許してもへっちゃらだ。エリオ・グレイシーからホリオン、ホリオンからヒーロン、ハレック、ヘナーに受け継がれたサバイブするという哲学が、僕を助けてくれるんだ。ボトムにいても、僕より顔を腫らし、流血に見舞われるのは対戦相手のほうだ。ジャッジは評価しないかもしれないけど、僕がボトムにいて戦いに負けることはない」

──そこはグレイシー・アカデミーの柔術家だからだと。

「柔術トーナメントで優勝している柔術家たちの柔術は、MMAでは役に立っていない。黒帯柔術家がMMAで勝てていない。パンチを視野に入れないでトレーニングをやっていれば、しょうがないよ。僕らはずっとパンチを意識して、柔術の稽古をしてきた。大きくて、重くて、強い相手があらゆる位置からパンチを狙ってくるんだ。そこで必要なガードワークは、ビギナークラスから習うことができる。僕がケージで使っている三角絞めは、ビギナークラスで習ったものだよ」

──なるほどッ。

■『僕らはストリートファイトに強いけど、トーナメントに出ると負けてしまう』

「特別な技術じゃないんだ。まずはサバイブ、ガードを開けてパンチを打たせて、トライアングルだ。仕掛けるのに適したタイミングを探ることができれば、フィニッシュ。だからエルボーを集中的に入れたんだ。頭を起こして、パンチを狙ってくるようにね。ただ、残り時間だけは気にしていたけどね」

──今、柔術をMMAで最高にうまく使いこなしているファイターは誰だと思いますか。

「グッドクエスチョン。でも、分からない。そんなファイターがいるのか。デミアン・マイア、ジャカレかな。彼らはブラジリアン柔術家だけど、パンチを意識してトレーニングしているはずだ。トーナメント柔術とファイト柔術をスイッチしないと。そして、彼らはサバイバルという面も意識している……というよりも、あのレベルの戦うのにボトムになったときに自分の身を守れないファイターが勝ち残ることはできないはずだから」

──ホジャー・グレイシーの敗北により、グレイシー性を持つファイターは、18年間オクタゴンで勝ち名乗りを受けていません。

「僕はグレイシー一族が大好きだし、ブラックハウスではホジャーとも顔を合わせている。でも、あの試合は打撃ができないと、どうなるかという典型的なパターンだった。ホジャーの敗北は僕も見たくなかった。でも、彼なら少しでも打撃が上達すれば、テイクダウンも簡単になりチョークを極めることができると思っている」

──グレイシー・アカデミー所属のブライアンですが、グレイシーバッハのグレイシーにも敬意を払っているのですね。

「ホジャーは人間的にも本当に素晴らしいし、ヘンゾは心の底から会ってみたい人物なんだ。ただ、グレイシー・アカデミーはセルフディフェンス・スクールで、グレイシーバッハはトーナメント・スクール。種類が違うんだ。ベストのトーナメント・スクールで学ぶ柔術は、MMAでは有効じゃない。僕らはストリートファイトに強いけど、トーナメントに出ると負けてしまう。チョークは取られないけど、サイドマウントは取られる(笑)。だから、どちらが良いかは人それぞれの好みだよね」

──今は確か茶帯ですよね。メタモリスには茶帯では出場できないのでしょうか。

「メタモリスには僕も出たいと思っている。そして、世界柔術の茶帯アブソルートで優勝した、あのプルーマ級の選手、名前は覚えていないけど、彼と試合がしたいんだ」

──パウロ・ミヤオですね。彼は一足先には黒帯になってしまいました。

「そうなんだ……。ヘナーには『いつになったら、黒帯を巻かせてくれる?』って尋ねたことがある。アカデミーでも、出稽古でも黒帯から幾らでもタップを奪っているからね。でも、ヘナーには『ベルトを追い求めるな。若いから、そういう気持ちになるのも理解できる。ただ、ベルトよりも柔術にフォーカスするんだ。全ては時が解決する』って言われているんだ」

──ヘナーらしい言葉ですね。

「ヘナーはこれまでも本当に僕のことを考えて助言し続けてくれた。ハイスクールのとき、何度も学校を代わらされた。喧嘩ばかりやっていたから。そうしたら、ヘナーにアカデミーを追い出されたんだ。『もう練習に来なくていい』って言われたんだ。

どうしたら良いか分からない僕に彼は『ハイスクールにちゃんと通え。卒業したら、またアカデミーに来て練習することを許す』と言葉を続けた」

──凄い、それは凄いです。

「喧嘩も悪さも全て止めたよ。僕から柔術を取ると何も残らない。ちゃんと学校に通って、授業も真面目に受けた。そうしたらテストが全てAで、スチューデント・オブ・ジ・イヤーをもらい受けた。結果、ヘナーからアカデミーに通うことを許されることになった……。ヘナーがいなければ、どうなっていたか分からない。彼は僕に違う世界を見せてくれた。そして、指導者という仕事まで与えてくれたんだ。僕の人生は柔術を学び、教えること。グレイシー柔術は僕の全て、人生だ」

──では、MMAは?

「成功を掴むためにMMAを戦っている。自分がベストファイターだと世界に証明したい。そのためにUFCでチャンピオンになる。簡単なことじゃないことは分かっている。でも、ヘナーたちとグレイシー・トレインを組んで、オクタゴンに向かいたいんだ。そのためには、どんなハードなトレーニングだって続けるよ」

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