この星の格闘技を追いかける

【Gray-hairchives】─01─May 15th 2011 George St-Pierre

GSP【写真】モントリオールで会ったGSPは少し、印象が違っていた(C)MMAPLANET

1995年1月にスタートを切った記者生活。基礎を作ってくれた格闘技通信、足枷を外してくらたゴング格闘技──両誌ともなくなった。そこで、海外取材のうち半分以上の経費は自分が支払っていたような取材(いってみれば問題なく権利は自分にあるだろうという記事)から、最近の時事に登場してくるファイターの過去を遡ってみようかと思う。

題してGray-hairchives。第一弾はGONG格闘技230号より、GSPのインタビューを、まず後記から振り返りたい。


【後記】

この時、日沖発のトレーニング取材もかねてモントリオールを尋ねた。そこであったGSPはとにかく気さくな青年だった。そして、自らのドライブで食事に誘ってくれるなど、とにかく親切。下ネタもいくらでも聞かれた。

実は当時のマネージャーからモントリオールまで訪れたにも関わらず、電話インタビューで済ませろと滅茶苦茶な要求をされていたが、GSPの鶴の一声で1時間近い肉声を聞くことができた。UFCファイトウィークとは別人、そんな30歳になったばかりのGSPだった。

――ゴング格闘技単体では、実に5年振り、そしてモントリオールでの初インタビューとなります。今回はインタビューを受けてくれるだけでなく、数々の練習の取材を許可していただき、ありがとうございました。

「いつだって、大歓迎だよ」

――では、インタビューを開始させてもらいたいと思います。最初に4月30日のUFC129におけるジェイク・シールズ戦ですが、この1戦も最強のチャレンジャーが本来持つ良さを完封しての勝利でした。

「う~ん、確かに僕はジェイク・シールズに勝つことができたけど、あまり嬉しい勝利ではなかったんだ。もっと、試合を支配したかったけど、彼の指が入って左目が完全に見えない状態になったので、戦い方を変えないといけなくなってしまった。距離を測れなくなったので、保守的な戦い方をする必要が生じたんだ。

もう一度、ジェイク・シールズと戦いたい。彼は本当に強いファイターだから、再び挑戦権を手に入れることになるに違いない。ただし、再戦が実現すれば、僕の方が彼よりも優れていることが、こないだの試合よりも明確に証明できると思う。僕はチャンピオンであるために戦っているんじゃなくて、伝説になるために戦っているから、それぐらいの違いを見せつけないとね」

――だからといって、最強のチャレンジャーを完封し続けることは、今も信じがたいと思います。

「グレーテスト・ファイターになるために戦っているんだ。ジョルジュ・サンピエールという名が、世界の一番だと刻まれるための戦いなんだ」

――ジェイクのテイクダウン、そしてトップからの攻めは、あなたを厳しい状況に追い込むのではないか、そんな期待もありました。しかし、あのジェイクからテイクダウンを奪われない、グラウンドにもつれ込ませないのは、さすがという他にない試合だったと思います。

「ジェイクにテイクダウンを許さなかったのは、素晴らしいトレーニング・パートナーのおかげだよ。いつも優秀なレスラー達とトレーニングを積んでいるからね。それにテイクダウンを許したとしても、寝技でもコントロールされないだけのトレーニングは十分に積んでいた。ホジャー・グレイシー、ブラウリオ・エスティマ、グレゴー・グレイシーら、最高のグラップラーと練習していたので、別に寝技になっても構わなかったんだ」

――それを聞くと、GSPがガードをとるシーンが見てみたかったです。

「もちろん、作戦的にはスタンドをキープすることだったよ。ただし、目の負傷がなければ距離を詰めて、プレッシャーを与えテイクダウンを奪う。そこからパウンドを落して決めるつもりだったんだ」

――ジェイクのテイクダウンを完封するために、GSPの打撃はどれだけ効力があったのでしょうか。

「ジェイクのようなタイプのファイターと戦うとき、テイクダウンを許さないためには、攻め過ぎないことが大切だ。僕は対戦相手の研究を徹底するし、目の負傷までは左ジャブを多用して、プレッシャーを与えていたけど、それ以降は距離を取らざるを得なかった。だから、ちょっと退屈な試合になってしまったね」

――ジェイク戦だけでなく、過去の試合を観察すると、GSPの打撃はKOを狙ったものではなく、テイクダウンを取るための誘い水のような役割を果たしていると結論づけることができると思います。

「それは誰と戦っているかによるよ。時には、言われたようにテイクダウンのために打撃を使う。ジョシュ・コスチェック戦を思い出してほしい。コスチェックはいまだにトレーニングに戻れていない。僕のジャブで、眼窩底骨折をしたからだ。マット・ヒューズを倒したときのように、KOを狙った打撃も使えるし、テイクダウンを奪うためにも打撃を使うことができる。

対戦相手、試合展開によって、打撃が持つ意味が変わってくるんだ。ジェイク・シールズとの試合でいうと、打撃をあまり使ってこなくて、打たせておいてテイクダウンを狙う相手に、ハイキックなんて狙えないよね。それは僕だって、対戦相手によっては使う作戦だから、よく分かっている。

僕はジェイク・シールズのスタイル、戦略を理解し抜いていた。それはジェイク・シールズを知るだけでなく、自分自身を知ることになる。試合に勝つには、相手のことだけじゃなくて、自分を知ることが大切なんだ」

――グラップリングのトレーニングを見ていると、GSPは素晴らしいパスガードができます。ただし、試合になるとまずはハーフをキープ、パスを餌にパウンドを落したり、立たせて疲れさせています。それも相手、状況次第ということでしょうか。

「グラップリングとMMAは別ものだからね。打撃のあるMMAではトップにいることが、重要になってくる。だから、パスガートができても、パスガードをしないという意思を持って戦うこともある。その方が打撃を使いやすいからだ。ただし、打撃を落してから、パスガードを狙っている試合もあるんだ。状況次第で、戦い方は変わってくる。試合開始直後の体力があるときや、グラップリングの技量が等しい場合は、パスガードは難しいね」

――チアゴ・アウベスと戦った時は、どうでしたか。

「ガードにステイしていた。こないだの彼とリック・ストーリー戦でも明らかだろうけど、倒してもグラウンドをキープすることが困難だし、彼は立ち上がることに秀でている。と同時に、妙に滑りやすいボディをしていたんだ(笑)。

今なら、あの時とは違う戦い方で、彼を抑え込むことが可能だよ。パスから攻めることができるだけ、寝技の技術レベルは上がっている。あの試合では、以前、柔術を習っていたファビオ・オランダが、ピッチブルに僕のハーフガードからキムラ・アームロックの仕掛けの強さを教え、エスケープ方法を伝授していた。だから、あの試合ではピッチブルは、何度も立ち上がることが出来たんだ」

――結果的にピッチブルは、疲れて追い込まれていきました。

「そう。だけど、あんな風に立たれるとは思っていなかったら、本当に驚いたんだ」

――逃がして、逃がしてスタミナを奪うのが作戦ではなかったのですかッ!

「そんなことないよ。倒しても、すぐに立たれたときは、『うわぁ、なんてことだ』って思ったんだから。でも、まぁ問題なかった。他の戦い方もあったから」

――そこですね、GSPの強さは。試合の状況次第で、戦い方、頭を切りかえることができる。普段は右回りのサークリングを駆使しているのに、コスチェック戦では、彼の目の負傷を確認して、徹底して左回りになったように。

「(頭を指さして)ここで戦わないとね」

――そんな試合が可能になるGSPの普段の練習は、どのようなものか以前から気になっていました。今回、モントリオールで練習を3日ほど密着させてもらったのですが、まずグラント・ブラザーズ・ボクシングジムでのトレーニング中に、『ムエタイの蹴りは使わない。僕には極真空手の打撃が、体に染みついている』と言っていたのが、凄く印象に残っています。

「10年以上、極真空手の稽古をしていたからね。だから、トレーナーのフィラス・ザハビ自身が、タイで修業を積んだにも関わらず、ムエタイ流の打撃を押し付けることはない。バックグラウンドはフルコンタクト空手ファイターだからね。

僕はMMAファイターだ。何でも取り入れて戦っている。でも、ストロングベースを崩すことはない。テイクダウンにしても、空手時代に繰り返し行なった稽古が、役に立っているんだ。あの距離とタイミングの取り方は、今もテイクダウンに活きている」

――空手の稽古が、テイクダウンにも活きている……どのような部分で、ですか。

「踏み込みだよ。空手時代はブリッツ(BLITS =電撃)と呼んでいた。このブリッツの間合い、踏み込みを蹴りでなくテイクダウンに活かしている。多くの人は空手なんて型だけで、MMAに役に立たないなんて言っているけど、型もそうだし、組手も、物凄く僕を助けてくれているんだ」

――組手……ですか。GSPが所属していた極真空手の試合を見る限り、あの胸を合わせて下段蹴りや中段突きの攻防に見られる距離感は、一切MMAに活きないと個人的には思っていました。

「その通りだよ。僕は極真空手を学んでいたけど、試合はオープン・フルコンタクトカラテ・コンペティションに出ていたんだ」

――その空手大会は、どのようなルールが採用されていたのでしょうか。

「試合時間は2分、顔面への突きは認められていない。そして、ポイント制を用いているから、ラッシングではなくて、タイミングで勝負が競われているんだ。そこで身につけたスピードとタイミング、瞬発力、つまりブリッツが、僕のテイクダウンの基になっている」

――つまり、空手時代に養った打撃の間合い、踏み込みがあって初めて、GSPのテイクダウンが可能になるということですね。

「その通りだよ。空手はMMAに凄く生かせる。僕がこれまで打撃のトレーニングをしてきたなかで、ベスト・ストライカーはスティーブン・ワンダーボーイ・トンプソン(※27歳。MMA3戦3勝。立ち技通算戦績56戦56勝39KO)。彼も空手出身で、時々トライスタージムに来てもらって、練習を一緒にしているんだ。

スティーブンもポイント空手から、キックボクシングで活躍するようになったんだ。それにね、子供の頃に習う空手は動アクションも多い、足を止めて胸を合わせて打ち合うものじゃないんだ。極真空手からでもテコンドーからでも、学ぶことができる部分が存在する。それがMMAだと思う」

――なるほどぉ。続いてレスリングの練習も拝見させてもらいました。レスリングはMMAには不可欠、あるいは軸になりつつあります。ただし、多くのMMAファイターはケージレスリングや、テイクダウンの攻防を身につけるのが主です。その点でもGSPはモントリオール・ジュイッシュ・コミュニティにあるレスリング場で、MMAの要素を排除した、フリースタイルレスリングの練習を徹底してやりこんでおり、特別だと感じました。

「僕がピュア・レスリングのトレーニングを行うのは、その分野で世界のトップにあるレスラーたちと練習できるからなんだ。凄くチャレンジングなトレーニングになる。彼らに敗れることで、謙虚でいられる。大切なことは練習での勝ち負けじゃなく、試合での勝ち負けだからね。ボクシングでもピュア・ボクサーとボクシングがしたくて、ジムを訪れている。世界王者と練習し、どれだけ必死でやっても敵わないけど、凄く勉強になる。MMAを想定せず、彼らの得意分野で練習することに意味があり、結果てきにMMAで活かすことができる」

――オリンピック体操競技を取り入れるなど、MMAのために色々なトレーニングを取り入れているGSPですが、カーディオ・トレーニングは行わないと聞き、それも本当に驚かされました。

「ジムなスティックは筋力を鍛える、特別なトレーニングで、一緒にやっている選手もいない。もの凄くハードなんだ。MMAファイターとして、カーディオ・トレーニングでスタミナがつくなんて信じていない。カーディオ・トレーニングが、格闘技のトレーニング時間を短くさせてまで、必要だなんてことは決してないはずだ。ファイターには、ファイトのトレーニングの方が大切なんだよ。ファイティング・スキルを上達させること。それがファイターに必要不可欠だと思う。

パットワーク、柔術、グラップリング、レスリング、ボクシング、MMAスパーリング、これで十分。金曜日にはスプリンティングのトレーニングをしているけど、それは心肺機能を高めるためではなくて、爆発力をつけるために行なっているんだ」

――MMAファイターだけでなく、どのようなスポーツのアスリートでも、心肺機能を高めるトレーニングを行なっていますが。

「ボクサーはボクシングのトレーニングだけをすればいい。ボクサーはボクシングに強くなることに徹することができる。でも、MMAファイターは、MMAで勝つために多くの格闘技を学び、知る必要がある。ボクシングやレスリングだけじゃない、テコンドーや柔道、空手にもMMAで勝つための要素が存在する。

カーディオ・トレーニングをして、格闘技の練習時間が減っては意味がない。トレーニングのルーチン・メニューを切りかえる時など、一時的に加えることはあっても、それこそルーチンにカーディオを加えることはないよ」

――格闘技の練習時間を減らしてまで、カーディオ・トレーニングに時間を掛ける必要はないと。

「そういうことだよ。でもね、それは僕が信じているだけで、誰かにこの考えを押し付けようとは思っていない。それが全ての人に当てはまることはないだろう。ただ、僕にとってはベストな考えなんだ」

――GSPがもともと心肺機能に優れていて、そこに力を入れる必要がないという見方は成り立たないですか。

「ノー、ノー、そんなことは絶対にない(笑)。今日だってフィラスとパットワークや柔術の練習をしたけど、息が上がっていたじゃないか。まぁ、このところグッドシェイプではないから、当たり前だけどね。昨日の夜だって、パーティーに繰り出し、3時間ぐらいしか眠っていなかったからね(笑)」

――そのような状態で、練習して大丈夫なのですか。

「この時期だからね。それに、スタミナも必要だけど、如何に効率的に動けるかってことも、大切なんだ。それには格闘技の練習をするしかない。UFCファイターは体調管理にも万全を期している。スタミナのないファイターなんていない。でも、試合でガス欠は起こる。それは効果的に動けていない方の選手が、先にスタミナを切らしていくからだよ」

――そういわれると、そうですね。スタミナの差は元からでなく、試合の中で違いが出てくる方が遥かに多い。

「ボクサーとレスラーが戦い、スタンディングアップの攻防が続けば、どちらが先に疲れると思う?」

――レスラーです。

「その通り。じゃあ、グラウンド戦が続いた場合、先に疲れるのはどっち?」

――ボクサーです。

「そうだ。じゃあ、一晩中飲んでいたボクサーと、レスラーがスタンドで戦う。どっちが先に疲れるだろうか」

――それはボクサーじゃないですか。

「違う。レスラーだ。ボクサーはいくらグッドシェイプでなくても、ボクシングの戦い方を知っている。テクニックもあり、ディフェンスもできる。そして、どうすれば生き残ることができるのか体に染みついている。エネルギーの無駄使いをしないんだ。僕にムエタイを指導してくれるジャン・シャルル・スカボロスキーは、毎日、酒を飲み、タバコを吸っている。でも、彼とピュア・ムエタイのスポーリングをすると、ボコられるだけなんだよ」

――なるほどぉ。

「柔術コーチのジョン・ダナハー、44歳だ。グッドシェイプじゃない。一緒に走れば、間違いなく彼の方が先に疲れる。でも、ロールをすると、僕はもう5分でスタミナ切れを起こす。ダナハーは、僕より効果的に動くことができるからだ。僕の方がベターシェイプなのに。いずれにせよ、MMAはまだ歴史の浅いスポーツだし、トレーニング方法だって目まぐるしく変わっている。1年後には、また新しいトレーニング方法が流行っているかもしれない。とにかく、毎日が勉強の連続なんだよ」

――格闘技だけでなく、頭の訓練、サイコロジーも学んでいるのではないですか。

「もちろん。サイコロジーはMMAで戦う一部だよ。体力だけの勝負じゃない、頭で戦うものでもあるんだ」

――ところで、トライスターはこれだけの設備を誇り、他のジムからトレーニング・パートナーを求めて、ファイターがやってくるほど陣容が揃っているチームです。そこに属していて、なぜ他ジムを訪れ、トレーニングする必要があるのでしょうか。

「特性の違うトレーニング・パートナーと練習をしたいからね。今回、日本から・ハツ・ヒオキがジムにやってきてくれた。ハツと同じ体格、技、メンタルを持ったファイターは、ここにはいない。これまでに経験したことのないタイプの選手とトレーニングできることは、とても良い経験になるんだ。良いファイターと練習することで、対応能力があがる」

――一流は一流を知るということですね。

「ある意味、戦いはスタイルとスタイルのぶつかり合いだといえる。自分と違うスタイルの対戦相手に対応できた者が、より多くの成功を収めることになる。ジョン・ジョーンズがなぜ、成功したのか? まだ誰も彼に対応できていないからだよ。あれだけ長い手足をもっていれば、誰もまだ彼を攻略できないんだ。アンデウソン・シウバにも共通していることだよ。アンデウソン・シウバやジョン・ジョーンズのような体格のトレーニング・パートナーを見つけることは難しいんだ」

――それは、GSPにも当てはまることですね。

「僕も胸部は大きいけど、胴回りは短い。ハツだって、長身で手足が長い。それらの肉体的特徴は、試合だけでなく、練習の時点で良く似た体形のファイターが少ないということで、僕らのアドバンテージになっている」

――出稽古に出向くということは今後、試合をするかもしれない対戦相手に、そのレア・ケースといえる体形、アドバンテージの部分を知られる可能性もあるわけですね。

「だから、誰が最もスマートなのかが問われることになるんだ。僕のことを知られ、相手のことを僕も知る。となれば、頭の良い方が勝つことになる。他のジムにいって、オープンに身をさらけ出して練習してくれる相手になら、僕も自分の全てを見せることができる」

――シークレット・ウェポンなど必要ないと。

「ないよ、そんなもの。僕が今後、試合をする可能性のあるファイターは数え切れないけど、取り敢えず例え話として100人と限定しよう。そのなかの1人、これも仮にハツ・ヒオキというファイターが含まれているとして、ハツと僕が練習をする。他の98人はしていない、その貴重な体験を僕とハツは共有している。ハツが将来の対戦相手になる可能性があっても、僕とハツの二人は成長できて、他の98人のファイターに対し、リードを築くことができるんだ」

――そしてハツと対戦するときに、彼よりもスマートであればいいということですね。

「それにね、僕だって誰とでも練習するというわけじゃない。実際に、親しい選手のジムにいっても、スパーリングをしない選手もいるよ。『怖がっている』なんて言われても、『そうだよ』って答える。今後を考えてスパーをしない方が良いと思う相手とは練習しない。そして、その選手が僕のスパーを見ても、それが全く構わない」

――今の話を伺っていると、GSPというファイターの一番の武器はフィジカルでも、経験でもない、頭の中だということが理解できました。

「考え方、それが一番大切だ。フィジカルでいえば、僕より強い人間は存在する。僕よりスピードのあるファイターもいる。僕より高いアスリート能力を持っている者も当然いるよ。僕よりボクシングが巧い人間、柔術が得意な人間、レスリングが強い人間がいることは間違いない。

でも、僕と同じ考え方ができる人間はいない。テクニックは共有できても、感情や精神を分かち合うことはできない。僕という一己の人間が、頭のなかで考え、心で感じたことは僕だけのものだ。その考えや気持ちを伝え、誰かをサポートはできるけど、まるっきり同じモノを持ち合わせることはできないんだ」

――仮にGSPと全く同じ、フィジカルのファイターがいても、メンタリティが違うので、GSPが2人いることにはならないというわけですね。

「もちろん、GSPは2人いないよ」

――ところで、早くも10月29日にストライクフォース世界ウェルター級王座を返上したニック・ディアズが、GSPの次のチャレンジャーに決定しました。

「もう、ディアズ戦に集中しているよ。トレーニングも毎日しているしね。いつだって厳しいトレーニングに戻れるよう、そのための練習期間だけどね」

――ニックがストライフォースで見せてきた活躍をどのように評価していますか。

「偉大なファイターだよ。でも、僕はディアズがストライクフォースで戦ってきた相手とは違う。これまで彼が経験したことのない、難問を与えることができる。もちろん、ニック・ディアズは僕にとっても難しい相手だ。でも、僕はそれを解決することができるんだ」

――ニック・ディアズのバッドボーイ的な言動をどのように捉えていますか。GSPという王者が、このスポーツで果たしている役割とは対極にあります。

「僕は紳士的だし、いつも落ちつている。対戦相手のことは、いつも尊敬している。その事実が、僕がディアズを恐れていることにはならない。それは分かるよね? ニック・ディアズを怖いと感じたことはない。いろいろ、面倒なことを言ってくるだろうけど、そんなモノには関与しない。

受け流すだけさ。ファンが彼のような言動を好んでいることが、理解できない。ギャングスターじゃないんだから。ネイト・ディアズがトロントの計量会場で、中指を立てても、ファンが喜んでいるんだから、ただビックリしたよ」

――MMAには、バッドボーイがクールに見えるという風潮がありますね。

「まぁ、良いんじゃないかな。僕は自分がやるべきことに集中する。トラッシュ・トークは受け流すけど、ニック・ディアズを受け流すことはない、真正面から受け止める。何も恐怖を感じることはない。戦えることが、楽しみだよ。トークの上手い人間が、ベストファイターでないことを証明してみせるよ」

――ファイターとして、ニック・ディアズのどの部分を最も警戒しますか。

「長いリーチを利したボクシングと、柔術だね。でも、何も問題じゃない。チームの誰かがレプリカになってくれるからね。アゴの強さ? ハハハ、問題ない。その強さをディアズが、次の試合で試すことになるだけだよ」

――そのニック・ディアズ戦を勝利で終えれば、また話題はアンデウソン・シウバとの対戦になる可能性が高いです。

「アンデウソン・シウバとの対戦に関しては、凄くシンプルな答しか持っていない。その機会が訪れ、キャッチウェイトなら実現する可能性があるということ。いずれにせよ、アンデウソンとの戦いが僕にとって、間近が問題でないことだけは確かだ。そして、MMAワールドの流れは早い、また新しい動きが見えることだって十分に考えられる。ビックリする事態がたくさん起こるのが、この世界だ。次の試合で僕が負ける可能性があり、アンデウソンも敗れるかもしれない。誰も、この先のことなんて予測できないよ」

――GSPにとって、近々の問題でなかったアンデウソン・シウバとのスーパーファイトの一件ですが、今年の1月から、その試合が実現するかどうかということで、日本のMMAファンは、とてもヤキモキしていました。GSP×アンデウソン戦が実現すると、岡見勇信選手の世界挑戦が遠のくからです。

「オォ、ホントだ。日本のファンの皆はそういう風な心理だったんだねぇ。ユーシンには気の毒な展開だったけど、僕はジェイク・シールズ戦のことしか考えていなかったんだ。ユーシンはアンデウソン・シウバに勝つ可能性のある数少ないファイターの1人だ。強いのはアンデウソンだ。

でも、強い方が絶対的に勝てるというわけじゃないのが、MMAだ。野球でもフットボールでも、ベストチームが勝つのではなくて、ベストゲームをしたチームが勝つ。MMAも同じで、その夜に強かった者が勝つんだ。ベストファイターがいつも勝てるということじゃない」

――リオデジャイロイロで10年10カ月振りにUFCが開催され、母国では初めてオクタゴンに入る。アンデウソンにとっても、普通じゃない状況ですね。

「ほんと、母国のファンの前で戦うことは簡単じゃない。こないだのトロントもそうだけど、モントリオールでも物凄いプレッシャーに襲われるんだ。アウェイで戦う方がよほど気持ちは楽だよ。ホームタウンでは避けることができない、タフでハードな局面をアンデウソンは迎えることになるだろうね。逆にユーシンは、経験したことのないブーイングを受けるだろうけど、それで結構、吹っ切れて戦いに集中できるようになるに違いないよ」

――それにして今回のモントリオールで最も驚いたのが、GSPという選手の普段の雰囲気です。残念ながら、このインタビューでは読者も知っている、模範的なMMAファイターのGSPという部分しか伝えることができていないのですが、普段のあなたは、ここまで面白い奴なのかと、本当に意外でした。

「ハハハハハ。インタビューに関しては、これはファイトと同じように、僕のビジネスだからね。普段の自分をオクタゴンで出さないのと同じように、シリアスな受け答えに終始してしまう。そして、ファンも僕は模範的な人間で、シリアスな人間だと思っている。それってさぁ、日本のビジネスマンだって同じだと思うんだ。

1度、UFCをスポンサードしている会社のパーティーに招かれたんだけど、皆、畏まっていて『退屈な夜になりそうだ』って、ホント苦痛だった。それが、しばらくすると、会社の偉い人がもうシャツは肌蹴て、ネクタイを頭に巻いて踊ったりして。本当にビックリしたよ。アレ、日本語で何て言うんだっけ?」

――無礼講ですね(笑)。

「そう、ブレイコーだ! で、翌日になったらまたしっかりとスーツでキメて、パーティーの話になんて一切触れずに、ビジネスに集中しているんだ。僕も生活の中にブレイコーの時間を持っている。そうでもしないと、気が狂ってしまうからね」

――パーティー好きでひと晩中、話し続けているジョルジュ・サンピエールがいるので、ハードトレーニングに耐えうるGSPが存在するのかもしれないですね。

「切りかえが大切だ。気持ちをハッキリと入れかえるんだ」

――プライベートのときに女性関係の話になっても、結局はMMAの会話になってしまうし、そういう一面が見られても、素晴らしいローモデルだと思いました(笑)。

「誰だって内面と外見に違いはあるし、そういうバカな一面は、自分の大切な時間を過ごす時のために置いておきたい。僕は人を笑わせることが大好きだし、コークをガブガブ飲んで、チーズバーガーを3個とフレンチフライを食べる人間なんだ(笑)。でも、そういう時間って、心の許せる人間としか、過ごしたくないじゃないか」

――日沖選手を交え、食事をしている時に『ブレッドにバターはつけない。オリーブオイルが3、バスサミコが1の割合で混ぜてつける。それがヘルシーなブレットの食べ方だ』なんて、言っておきながら10秒後には、思い切りバターをつけたときなんて、堪らなかったです(笑)。

「ハハハハハ、試合の1カ月前と4カ月前は違うよ。それをハツに教えたかったんだ(笑)。まだ減量の時期じゃないからね。こっちが、僕の本当の姿だよ」

――ジョルジ・サンピエールという最高のMMAファイターの新たな一面、30歳の男子の側面を日本に伝えることができて光栄です。今回は、この数日間の取材、本当にありがとうございました。

「こちらこそ。あと、一つ日本のみんなに伝えたいことがあるんだけど、良いかな?」

――もちろんです。

「今回の大震災と津波によって、多くの方が亡くなったこと、ご冥福を祈りたいです。それと今も続く、原子力発電所の問題に立ち向かって、現地で我が身を危険にさらして、復旧作業に努めている方たちのご無事を願っています。一体、どれだけの人たちが命を掛けて現地で戦っていることか。高齢の方が、日本という国、そして自分の愛する家族の命を守るために、現地で作業をしているのを知り、深い感銘を受けたんだ。

この日本の強さ、カナダや米国で同じことが起こっても、そんな人たちは現れないと思う。日本の人たちの勇気、そこに日本の文化がもたらす、人間の強さを見た想いがした。それがサムライの国の強さなんだって。本当に僕たちが持ってない強さを日本の人たちは持っている。僕はこのモントリオールで生まれ育ったので、本当の意味で日本の人たちの今の心境は理解できない。でも、人々の命を守るために、危険な場所に向かう。そういう自分でありたいと日本の人たちの姿を見て、改めて感じたんだ。あの精神的な強さを見習いたい」

――そう言ってくれるGSPのファイトを、いつの日か日本で見てみたいと、日本のファンも願っていると思います。

「僕はずっとPRIDEを見ていたし、UFCが日本で開催されるなら、絶対にその場で戦いたい。そして試合後は日本に残って日本の文化に触れながら練習し、日本を知りたいと思っている。日本の人の生活に触れたい。日本から何か学べることができれば、こんなに光栄なことはないよ」

<一部、加筆修正あり>

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