【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その壱─GSP×マイケル・ビスピン
【写真】最先端でない、それでも高い技術力を誇るGSP(C)Zuffa LL/Getty Images
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ11月の一戦=その壱は11月4日、UFC217からジョルジュ・サンピエール×マイケル・ビスピン戦を語らおう。
──11月の青木真也が選ぶ、この一番。まずは?
「GSPとマイケル・ビスピンです。GSPは本当に色々な部分でアッパレです。ブランクがあって階級を上げてのカムバックはオールドスタイルのボクシングのようなノリではありますけど(笑)。
ファン目線でいえば──僕らの世代からすると、やっぱりGSPは良いですよね。明らかにスタイルは古い、最先端では到底ない。MMAを10年進めた男が、4年振りに戻ってきたらもうその片鱗はない。でも、そんなこと関係ない良さがある」
──マイケル・ビスピンが王者だったから、世界戦になったような気はします。ロバート・ウィティカーやヨエル・ロメロだったら、アンデウソン・シウバなどとレジェンド対決になっていたのかと。
「あぁ、あとニック・ディアスとの再戦とか……そういう路線もありますよね。ビスピンだから世界戦というのは、あったと思います。UFCの世界戦なのに世界一を決める戦いではないみたいな。どっちが世界一かなんて言うのは野暮、そんな世界戦でした。
GSPとビスピンだから注目もされるし、あれがウィティカーだと試合として成立しないかもしれない。そして、昔のUFCはそういうことをやっていた。今はUFCに、そういう容赦のないことをする余裕がないのかもしれないです。そのなかでGSPがGSPらしく戦っている。それが単純に素晴らしかったです」
──さきほど青木選手が以前のボクシングの復活劇のようだと言っていましたが、まさにGSPはUFCのシュガー・レイ・レナードになるような気がします。
「ビッグマッチ専門で、年に1試合。うん、それで良いと思うし十分ですよね。それに今のMMA、最先端じゃないからといって間違っちゃいけないのは、何だかんだと言って技術力が高い」
──それもビスピンが相手だからという一面はあったとしても、ビスピンはルーク・ロックホールドに勝ってチャンピオンになっているので。
「ハイ。GSPは拘りを持って、しっかりと抑えてヒジを入れていました。大したモノだと思います。クロスフェイスでプレッシャーを与えて、パスを狙う。もうGSPそのものです」
──あの枕の嫌がらせも、久しぶりに見た気がします。GSPのあの抑えがあったら、スクランブルにならないのかと。
「マット・セラに負けた以降のGSPですよね(笑)。アレを見てしまうとGSPとヒューズ時代とか、マット・セラに負ける以前のGSPもまた見てしまいたくなります」
──盤石時代以前の。
「そうそう、ハイキックでKO勝ちとかの頃ですよね。あの頃の感じのGSPがもう一度見てみたくなる」
──歴史探訪ですね、そうなると。この世界戦自体、スポーツとしては普通はないGSPの優遇処置、ビジネスを優先しての優遇処置があったわけですが、それでもGSPの姿を見ると『おおッ』となってしまう。
「もうね、無理です。そういう風に想っちゃうから終わり(笑)。ローリー・マクドナルドがGSPの後継者にって目されていたけど、そうならなかったのはこないだのGSPの佇まいを見ていると分かるような気がします。それがまたMMAとして、いとをかし──です。
戦ってきた歴史がある。良い時を皆が見てきた選手。『あぁ、やっぱりGSPだな』って思っちゃいます」
──ともあれ現役のUFC世界王者になったわけですし、今後については何か期待するモノはありますか。
「う~ん、どうなんだろう。さっきもいったけどビッグマッチ専門の年一回ファイターだけど、ウェルター級で戦う選択肢もあるし、そうなるともう少し夢を見させてくれるような気がします」
──ミドル級王者として、ウェルター級王者のタイロン・ウッドリーに挑戦する。これは今のUFCなら十分にありえます。
「本人も勝てると思っているかもしれないです。下手とすると『ちょっと捻ってやるよ』ぐらいの気持ちでいるかも……ですね」