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【JBJJF】マスター選手権 黒帯ルースター級優勝、吉岡崇人<02>「誰よりもしんどい練習」

Yoshioka【写真】全日本マスター優勝も、どこか──ぶらり途中下車の旅的な雰囲気を持つ吉岡だった (C)TUBASA ITO

2月25&26日の2日間にわたり、東京都墨田区の墨田区総合体育館で開催されたJBJJF主催第11回全日本マスター柔術選手権。マスター1黒帯ルースター級を制した吉岡崇人インタビュー後編。
Text by Tsubasa Ito

マスターを振り返りつつ、『誰よりもしんどいことを課している』という柔術道を吉岡は語った。

<吉岡崇人インタビューPart.01はコチラから>

――(笑)。ノリではポイントを獲得できない場合もあるじゃないですか。

「でも、乗っていないと試合もできないですからね」

――現在、ポイントの状況はどうなっているのでしょうか。

「あとちょっとなんですけど、細かい数字までは……。ムンジアルまでに、アメリカで選手権に2つくらい出ます」

――あまりポイントを気にしていないのですね。

「どうせ出ますからね。そこで勝つつもりなので」

Final――全日本マスターは、藤岡勇選手とのワンマッチ決勝戦となりました。

「最後までシャキッとしなかったですね」

――得点としては17-0で完勝を収めましたが……。

「それは僕がだれたからですよ。極めていないということじゃないですか」

――吉岡選手にとって、試合の充足感はどこにあるのですか。

「勝つことが最優先です。ただ、マスター1は6分しかないですし、しかも1試合だけだったので、もうちょっとキレのある試合をしても良いかなというのはありました。時間が短い中で大量に点を取ると、精神的に優位に立ってしまうじゃないですか。そうするとキレがなくなるというか」

――試合開始直後はすぐに引き込みにいきました。

「あれは性格だと思います。これは僕の持論ですけど、ケンカと一緒なんですよ。最初に鼻を殴らなきゃダメなんです。ビビらせることが必要ですね。技とかスタミナってそこまで差はないんですよね。先に心を折ったほうが強いと僕は考えています」

――それはAOJで強く感じたことですか。

「そうですね。やらないとやられますから。練習で何を鍛えているかというと、これだけやってきたんやから負けるわけがないという『気』ですね。やっていなかったら思えないじゃないですか。それが試合で向き合った時に出るんです」

――AOJという刺激的な環境から離れていることに、焦りや不安はないですか。

「だから毎日、必死に練習していますよ。不安があるからやるんです。日本にフラッと帰ってきて、大会に出て、盤石の優勝って言われますけど、誰よりも苦しんでいる自信はあります。

今まで対戦していただいた皆さんも素晴らしい選手ばかりですけど、練習しているのは当たり前だとして、誰よりもしんどい練習を自分に課している自信はあります。その自信がなければ、いくらノリといえども試合はしないですよ」

――「誰よりもしんどい練習」というのは、具体的にどのあたりで感じていますか。

「休みたいな、つらいな、水を飲みたいなというところから、練習開始です。筋肉がビクビク痙攣し出しても、そこで休まない。水を飲まない。座らない。そこから10分です。その中で何ができたかなんて、どうでも良いんですよ。やったこと自体が大事なので。

しんどい状況で今日をやり切った。昨日もやった。1週間できた。来週もがんばろう。それが一番大事です」

――現在、練習は週に何日ですか。

「5日ですね。午前10時から90分間は選手練習です。昼を食べて休憩して、筋トレかドリルをして、夜にまた練習。一般のクラスの指導とか、グラップリングの日もあります。指導メインか自分の練習かは、日によって変わりますね」

――しんどいことを続けられるモチベーションはどこにあるのですか。

「そうですね……。僕は柔術が好きでしょうがないわけではないんです。格闘技やスポーツが好きなわけでもないんですよ。でも、僕の人生を謳歌するために柔術が必要なんです。ちゃんと頑張る。自分を追い込む。世界一になる。そのために怠けずに頑張る。それで家族を養う。自分の体で稼ぐ。人から評価されるために、柔術を使っているというか。

だからある意味では、誰よりも柔術が好きとも言えるかもしれないですね。だけど好きな柔術家もいないですし、柔術家の名前をパッと言われても知らないこともあります」

――柔術は自分を表現するための手段というか……。

「それは近いかもしれないですね。でも、それにしてはすごい腐れ縁のような気もするんです。利用しているみたいな言い方をしましたけど、切っても切れない関係ですよね。どんな時も柔術に救われているし、柔術も僕のことを好きでいてくれているのかなと感じることもありますし。だからここまで続いているんでしょうね」

――そんな柔術での今後の目標を教えてください。

「今後の目標かぁ……。ノーギは挑戦していきたいですね。前も少し出ていたんですけど、もうちょっとやりたいかなと」

――それは……。

「何でノーギをやりたいかですか? まあ……ノリで」

――言うと思いました(笑)。約3ヵ月後にはムンジアルも控えています。

「どの大会も一緒ですよ。やるだけです」

――昨年のムンジアルでは、強豪のルーカス・ピネイロ選手にアドバンテージ1差で惜敗を喫しました。

「あの日を忘れたことはないですよ。幸せなことですよね、その一日のことでここまで来られているわけですから。だから借りを返そうと思います」

――ピネイロ選手にというよりは……。

「自分ですね。試合内容に関しては納得がいっているんですけど、あれでは勝てんなとも思えました。でも終わったことなので、まあいろいろな思い出の中の一つですよ。全部が全部上手くはいかないし、それらの上に今、立っていますから。

もちろん、今回の試合も然りですね。たまたま勝ったから偉そうなこと言っていますけど、負けていたら落ち込んでいると思いますし。でも、負けても勝っても来年になったらたいした差じゃないんですよ」

――思い出になると。

「思い出の一つなので、そんなの覚えていないんですよ。僕が紫帯の時に優勝したとか、一回戦で負けてめっちゃヘコんだとか、そんなこと覚えていないんです。だから去年のことは確かにショックでしたけど、その上に立っているんで、それで良いんです」

――旅人の吉岡選手にとって、この旅の最終目的地はどこにあるのでしょうか。

「進んでいる中にムンジアル制覇というのはありますけど……最終というと、相当遠いところにあるからまだ分からないですね。だって、いつまで歯を磨き続けますか?というのと一緒じゃないですか。

途中で死ぬかも? うーん……そうなったらそれまでですよ」

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