【Special】月刊、青木真也のこの一番:2月編<その弐>エウベウ・バーンズ×モヴリッド・ハイブラエフ
【写真】ロシア×ブラジルは、MMA創世記より異次格闘文化のぶつかり合い──その双璧を成す存在だった(C)MMAPLANET
『月刊・青木真也のこの一番』、2月編<その壱>ではジョシュ・トムソン×パトリッキー・フレイレについて話した青木真也が、続いて気になった試合としてあげたのはエウベウ・バーンズ×モヴリッド・ハイブラエフ戦だった。
自らも契約するONEのフェザー級の一戦で、青木が着目したロシアの層、ブラジルの国民性とは。さら、エウベウ・バーンズ×モヴリッド・ハイブラエフ戦と語らおう。
<月刊、青木真也のこの一番:2月編<その壱>ジョシュ・トムソン×パトリッキー・フレイレはコチラから>
──ジョシュ・トムソン×パトリッキー・フレイレに続き、気になった試合はありましたか。
「ハーバート(エウベウ)・バーンズ×ロシア人……モヴリッド・ハイブラエフの試合ですね」
──2月10日、ONE51の一戦です。
「僕はハーバートの強さは身をもって知っているんです。本当にグラップリングは強い。話にならないぐらい強かったですよ。別次元で、半端なく強い。寝技が凄く強くて、もちろんMMAになって漬けるってことになると話は違ってきますが、ハーバートは下になってもMMAだろうがスイープを決める強さを持っています」
──寝技に賭けるという部分で、ナシューヒンを一度の組みでバックに回ってRNCを極めた試合は秀逸でした。
「そのハーバートをあのロシア人がボコボコにしてしまうとは……」
──これまでと比較して、バーンズは小さくなかったですか。
「新計量制度でリカバリーができなくなったのか……でも、それはあのロシア人もONE初出場だから、あの計量は初めてだったと思います。だから、そこはあまり関係ないのか、と。あとは、やっぱり以前のように練習ができていないんだと思います」
──練習ができていないというのは?
「イヴォルブを離れてしまったので……」
──それはゾロ・モレイラの下へ走ったということですか。
「いえ、ゾロと一緒にやっているわけでもないようです。転々としているみたいで」
──なぜ、あれほど良い待遇なのにイヴォルブを離れるのでしょうね。青木選手を始め、欧州&米国、そしてタイ人はそんな風にはあまりならないのに。
「ブラジル人気質なんじゃないでしょうか。ぶっちゃけた話。一つのところに居着かない人達、待遇がどうこうとか良くしてもらったとかではなくて、居着かない人達なんですよ。
プラス・マイナスを考えて、足し算をしてプラスになるから、そこに居るっていうのではなくて、『もうやだ、行こう』ってなっちゃう」
──おぉ、なるほど。分かるような気がします。
「嫌なことがあると、確かじゃないモノを自分で創っていく、求めていく文化。それがブラジル人の根底にあると、僕は思っています。ずっとBTTにいる選手、ずっとATTにいる選手がいない(笑)」
──もとはと言えばカーウソン・グレイシーだったのかBTTができ、そこから米国のATTができ……さらにブラックジリアンができて、今やコンバットクラブまで派生した。
「そうそう、そうなんですよ(笑)。居着かない、皆が転々としている。米国人もそういうところがあるけど、米国人はメリットのある移動をするのに、ブラジル人はそうじゃない(笑)。タイ人なんかは居着くんですよね。だから、ブラジル人って子供なんでしょうね、僕らの感覚からすると」
──バーンズが落ちたのか、ロシア人が強いのか分からない部分もありますね。
「それにしてもハーバートをああいう風にチンチンにしてしまうロシア人ファイターは単純にヤバイです。興行的にストーリー展開を持っているなら、アレをハーバートに当てたらダメ。
チャンピオンが同じロシア人でチームメイトでもあるマラット・ガフロフ。そこに復帰戦だから、2勝ぐらいすれば次期挑戦者になるハーバートを当てる……。今のONEからすればブラジル人がチャンピオンになっても意味がないようなところがあるけど、それでも当てるかなって。
強くて、値が張らない。マット・ヒューム好みの選手なんでしょうね。ロシア人、カザフスタン人とか、ONEには増えているし。
だから言ってみればハーバートに勝ったハイブラエフ云々ではなくて、ロシアは掘っちゃダメってことなんです」
──ロシアは掘っちゃダメ(笑)。名言です。
「分かりますよね?」
──まぁ、掘ると世界中ロシア人ばかりになってしまう可能性はあります。
「そう、ソレです(笑)。どんどん掘って、北米に連れてくると危ない。UFCはそこを理解していて、それほど掘らない。各階級で人数制限がある感じで契約しています。
対照的にスコット・コーカー前のビヨン・レブニー時代のBellatorは掘っちゃった(笑)」
──ハイ、ヘビー級でロシア人同士の世界戦があったり、ミドル級、ウェルター級にロシア人チャンピオンがいて、トーナメント・プラットフォームの頃は常に2人ぐらい強いロシア人が含まれていました。
「そんな風にロシア人だらけになっていたのが、スコット・コーカーになってどんどん少なくなった(笑)」
──ONEではロシアや中央アジア勢が増えている。
「ハイブラエフにしても、最後は寝技でハーバートに勝ってしまうぐらい、前段階で喧嘩が強い。北岡さんに勝ったラマザン・エセンバエフなんて、その後の戦績は特にこれといったもんじゃないんですよ。
それぐらいフレッシュな人材がいくらでもいる。国情もあってボクシング、レスリング、柔道、サンボ、空手、キック、全部強くて、コンバットサンボまである。ある意味……笑っちゃうぐらい強い、でも笑えないと言う……あの国は掘っちゃいけない国なんですよ。危ないところです」
──ロシアは層の厚さが違いますよね。
「違います。米国で整えたスポーツのインフラをロシア人が駆逐する。ボクシングとか、米国がビジネスにしたスポーツをソ連崩壊後はロシア人が征服するような(笑)。
MMAもそうなりそうで、怖いです。世界に発信するような大きなイベントはない。でも、篩い落としの大会がいくらでも存在する。それがお国柄なんでしょうね。怖いですね」
<この項、続く>