【ONE】青木真也<最終回>「やらされている感のある言動に、心は踊らない」
【写真】MMAPLANETの9年半の歴史で、最長だったインタビューもいよいよ終幕を迎える(C)MMAPLANET
青木真也ロングインタビュー最終回。MMAの楽しみ方、MMAについて考えることの楽しさを引き続き語る青木。
MMA界の内部にいる彼だからこそ知りえる情報もあるが、常にアンテナを張る姿勢こそ、好き嫌いはあってもプロフェッショナリズムの表われでもある。今後のMMAの市場展開として、中国の情勢に気にかける青木は自らの格闘技への想い=『愛』を偏愛と表現するが、その多角的な愛情の持ち方は博愛──そのものといえるのではないだろうか。
<青木真也インタビューPart.06はコチララから>
──試合を見て、その引っ掛かった部分、着眼点がファイターよりもファン目線ですよね。青木選手の場合は。
「それが去年の終わりごろでいえばライアン・ホール、クロン・グレイシー、今年に入ってからはマーチン・ヘルドだったんですよ。
そこは試合への取り組みでも、試合前の言動でも同じで。その人間の思考が現実になっているのか。どれだけ試合を煽る言動があっても、それに振付師がいてただ踊らされているんじゃ、何の魅力も感じない。
同じ突拍子もないことをするにしても、自分の考えでやっているのか。やらされているのか──はまるで違う。なら、振付師が出て来いよって。
北岡さんに魅力があるのは、あの狂気じみた入場は本当の北岡さんだからですよ。あの気でも触れたか──とでも思う状況、自分にはない状況を北岡さんが持っているから興奮する。でも、あれが創られて誰かにやらされているなら、魅力はないです」
──試合前の煽り、計量、入場、試合後のアピール、全てに当てはまるということですね。
「振付師がいると、茶番劇感が出てしまう。そこは選手に罪はなくて、振付師の問題。やらされている感のある言動に、心は踊らないですからね。
そんな茶番よりも、よほどライアン・ホールの試合の方が衝撃受けました。ただ、あの試合の勝ち負けはどうでも良いんです。あの裁定は歴史的な事案になるんじゃないかと。MMAの判定の歴史を語るうえで」
──歴史を語るには歴史の勉強が必要になります。
「いや、凄いことになったと思いました。皆、あんまり思っていないみたいだけど」
──MMAPLANETでいえば、あの記事へのリアクションは柔術界、柔術とMMAをやってきた人達からの反応が良かったです。
「そこは僕もそうだし、記事を書いた高島さんもそう。反応した人たちもそう。愛なんですよ。皆、それぞれの熱量をMMAに対して持っていて。自分の方がいくら熱量があっても、それを他人に理解させようとするとトラブルの元になる。そこが一番きついですよね」
──そして、段々と面倒になってくる(笑)。メディアとして、どこに向かってボールを投げるのか。海外で本当に大変な試合を戦っても、MMAPLANETのような格闘技メディアであってなおニッチなサイトでしか報じられないのと、大晦日にTVに出て皆に自分を認識してもらうのと、選手の将来は変ってきますからね。それは認識しています。
「選手サイドはそれぞれの事情があるし、その選手をどのように生かすのか。だから、主催者の方に目が行きますね。選手はオイシイ仕事をする。その選手の使い方を見て、しょっぱいなって感じたり。
格闘技として行われているものに関しても、見て楽しむもの──それは茶番であっても。それと中身に熱くなるもの。この2つに分かれてきています」
──報じる立場としては、青木選手のような格闘技ファンが増えるにはどうすれば良いのか。そこが問題になってきます。
「僕みたいなのは……もう無理でしょう。最近、色んな人と話が合わないし」
──自分が強くなる必要があるのに、練習以外でも他の試合や技術動画、トレーニング動画をよくチェックしている選手は格闘技にどっぷり浸かっている感があります。
「僕の場合はTitan FCとかRing of Combatまで楽しめちゃいますけどね。JZ・カバウカンチをブッ飛ばしたフレディ・アスンソンとか気になるし。あとは自分がMMA界に生きている一人として、中国と韓国の現状は気になります。どうなるのか、分からない怖さがあります。市場として韓国と中国がどうなっていくのか」
──中国はUFCが頂点にないMMA界をガラパゴスのような島でなく、大陸にできるだけの市場がある。それは確かです。
「国営のTVがついて。もう、すでにKunlunのキックはそういう域に入っていますよね。でも、昔のK-1後のキックはもともとMMAのようにUFCという頂点を持つヒエラルキーが存在しない。そんななかでもKunlunのMMAなんかは、UFCという頂点のないMMAを展開できそうで。ONEがやろうとしたのも、実はそこですよね」
──と同時に、どれだけその市場が大きくても試合に魅力を感じるかどうかは別問題ですし。
「中国だけは今のスポーツビジネスのひな型と違う形でビジネスを展開できる。自分の国で放送するTV中継だけを考えていれば良いから」
──中国の凄いところはBellatorでもイタリア大会やイスラエル大会の試合結果は、Spikeのディレイ中継が終了するまで発表しない。でも、やはりこちら側の社会なのでどうしても結果は漏れ伝わってきます。でも、Kunlunはそれがない。
「その統制ができるのは一番強いことだけど、TUFでもなんとなく伝わって来るじゃないですか。それを中国はできるというのは、やっぱりどうなるのか読めないし怖いですね。試合内容とかでなく、スポーツビジネスとして興味深いです。
現時点では中国の大会は、日本人ファイターとすれば出稼ぎとしては良いけど、キャリアになるのかは疑問。そこを考えずに選手をぶっこむエージェントとか出てきそうですけどね」
──青木選手はセルフマネージメントを続けていますが、交渉などは英語だし面倒ではないですか。
「う~ん、そもそもマネージメントをやっている人が格闘技の知識があるのか疑問ですし。ただ、選手に信念があればマネージメントは格闘技の人間じゃなくても良いでしょう。
ファイターとしてマネージメントに使われるのではなくて、使う立場にならないといけないですよね。家族が絡んでダメになる話も少なくないし。日本人選手は言葉の壁があるので、マネージメント関係は頭が痛い問題。僕も悩んでいます。
他のスポーツと違ってエージェントが巨万の富を稼げる業界ではないことは理解しています。だから、本業の片手間で良いので、書面の手続きだけでも代行してくれる人がいないかアンテナを張っています。5パーセントや10パーセントのフィーでしてくれないかと。
真面目な話、この面でも真っ当な人が増えないと業界は先細りしてしまいます」
──その代行業に立候補させてもらいます!!(笑)。ということで、色々な話を聞かせてもらいましたが、最後に現役MMAファイターとして、今後は?
「うん、まぁONEで組まれた試合を戦います。そうですね、3月のタイ、4月のフィリピンとビッグマッチが決まってきているので、その次のシンガポール辺りで──と少しだけ期待しています」
──そこは一気に返答が淡泊になる。やはり、今後は『月刊・青木真也のこの一番』という形で取材をさせてください(笑)。
「語りますか? マニアックというか、自己満足感で満たされたインタビュー。格闘技への偏愛を」