【Special】「今をいきよ」──CARPE DIEMブラジリアン柔術・石川祐樹のWay of the Jiu-Jitsu<04>
【写真】最終回は私服姿のスタッフ達。カルペディエム以外だと、こうはしない……ということで(C)CARPE DIEM
Carpe Diem(カルペディエム)ブラジリアン柔術を率いる石川祐樹インタビュー最終回。
今回は禁断の女子禁制について、石川氏に尋ねた。その返答からも氏の人間性が伝わってくる。柔術──それは人間性が表れる格闘技。カルペディエムの柔術とは、その総まとめをご覧ください。
<石川祐樹インタビューPart.01はコチラから>
<石川祐樹インタビューPart.02はコチラから>
<石川祐樹インタビューPart.03はコチラから>
──プライベートで15万円、もちろん固定給があってのことですよね。
「Hはみるみる生活が派手になっていますよ(笑)。でも、基本給は安いです。だからHも最初は本当に苦しかったと思います。今じゃ僕が着ている服を見て、『結構良い服ですね。いくらですか?』とか言ってきて……。『この野郎』って思いますよ(笑)」
──貯金しとけよって(笑)。
「本当に(笑)。プライベートも最初は強ばっかりで、しんどかったと思います。でも市場は正直です。Hが勝ち始めるとプライベートでも強の需要が下がる」
──その玉木選手は欧州で指導するようになると聞いています。
「ハイ。強は白帯から僕の下でやっていて7、8年になります。本当の本当のことをいえば、カルペディエムのビジネスが物凄く上手くいっていて、僕の資金で道場を出し、『お前、渋谷でやってみろ』と言ってあげられればベストです。『俺が金は出すから六本木でやれよ』と言うことができれば──でも、そこには至っていないです。
これまでも海外で道場をという話はもらっていました。ただし、東アジアや東南アジアです。全く知らない人だったので断らしてもらいました」
──海外支部ができても、給与はその国の物価に通じるので、日本に戻ってきた時のことを考えると指導者も派遣しづらいですよね。
「日本との差額はあきらかです。今回の話は茶帯の英国人の生徒さんが2016年の夏前にロンドンに帰国する。その彼がカルペディエムの道場を出したいと言ってきました。ただし、僕的にはカルペディエムの名前で道場を出すまでには至っていない。仕事をしながら柔術の稽古し、本職でやってきたわけではないので。
その時、強なら──って思ったんです。強はもう33歳、これから試合でどれだけ結果を残せるのか。僕は現実派なので、『よくやった』と思っています。試合で勝てる連中って、スコーンと突き抜けるんです。そこがあるから、苦しい生活を強いることになっても繋ぎ留めている。その突き抜ける時が、繋ぎ留める核なんです。
だからといって強がこのままずっと僕の下で指導を続けるのか。それは僕にとっては良いことです。ただ、彼の人生にとって良いことじゃない。それは絶対です。そこでロンドンの話と合致したんです」
──ロンドンで玉木選手を指導者に、と。
「カルペディエムの名前で道場を出しても大丈夫。でも、強を連れていって、と。そうじゃないと無理だと正直に伝えました。そうしたら喜んでくれて。『向こうで人を雇おうと思っていたから、それは心強い』って。ただし、現時点でソレしか決まっていません。
物件も決まっていないし、おジャンになるかもしれない。ただし、強にも『帰って来ても、もうお前の場所はないぞ』と伝えています。6月からはロンドン、それまでに新しく雇うインストラクターに全てを伝え、引き継ぎを済ませてもらいます。それが新陳代謝です。
……5年ですね。5年以上いてもしょうがないから、その間は全てを捧げてくれとスタッフには伝えています」
──それが終われば、自分で自分の道を進めということですね。
「ハイ。それだけの力は持っているはずです。白帯からここに来てくれている人は別ですよ。でも岩崎とか、5年間ここにいて30歳になったら、自分でやればいい。生まれ故郷の神戸に戻って、自分の道場を持つことができれば最高です。カルペディエムでも、別の名前にしても、こっちに残るにしても自分でやればいい」
──こうやって石川さんの柔術論、柔術のある生活の話を聞いていても、やはり柔術とはそれぞれの人にそれぞれの柔術があると実感させられます。そのなかで、最後にこのテーマを持っていきたいと思います。
「エッ、何ですか?」
──女子禁制についてです。これは本当に思い切った。また、影で何を言われるか分からない決断です。
「そこは僕の性格を顕著に表していると思います。きれいごとじゃやっていけない。日々の道場の運営にはトラブルがあってはいけない。人それぞれですけど、僕は教え子と男女の仲になることには──色々と考えることがありました」
──そのケースは結婚という結論に結びつく、そうでない場合にしても往々にあります。う~ん、自分でもこれを活字にするのかと思うと、ビビってきますね(苦笑)。
「それだけトラブルといって良い事例が存在したということなんです。先生ですから、男として5割増しですよ。でも、経営者としてトラブルは回避したい。だからといって女性が柔術をすることを反対しているわけでもなんでもないんです。
柔術に性別は関係ないです。ただ経営者として、男女混合のクラスが無理なんです。ホント、いずれ女性だけの柔術道場を出したいですよ」
──それが一番、石川さんらしいと思います。
「それは機が熟せば、必ずやりたい。僕が女性をカルペディエムに入門させないのは、女性を守りたいから。それで女性が柔術を習う権利を無視しているのかと反論もあるでしょう。でも、こんな事例もあるんです。ある女性が体験に行ったら、『僕はマゾです。あなたの三角で絞め落とされたい』というメールがあったと」
──……。言葉を失ってしまいますね。柔術の存在、コンタクトスポーツを否定しています。
「彼女の指導者は何も動けず、彼女は道場を辞めてしまいました。柔術を習いたい女性を、こんな理由で柔術から遠ざけてしまって良いのでしょうか。そこで彼女を守れないなら、入り口を開けているのはおかしいのではないかと。
こういうことが起こると、自分だってどうすれば良いのかって悩みます。普段は何でもない教え子が、女性に対してそんな風に鎌首をもたげて待っているなんて。人間の悲しい部分が出てくる。男女間の問題なんて絶対に起こらないなんて言える道場はどこにもないはず。このことで女性から誹りを受けます。でもカルペディエムは公的機関じゃないから、そこは開き直っています」
──女子だけのフィットネス、女性車両の逆パターンというわけですね。
「ずっと頭の片隅にあった問題が現実になりました。キッズは女の子もいます。そして、僕の中では中学生からは大人です。だから大人のクラスで練習してもらっています。ついにキッズクラスの女の子が一人が、中学生になってしまったんです。
ここは避けては通れない問題です。で、親御さんと話をしてトライフォースに移籍してもらいました。新明(祐介)ゼネラルマネージャーに連絡して、一度見学をさせてもらった」
──それは……。辛いですね。そして、そこで石川さんが新明君に連絡を取ったということにホッとさせられます。
「……。いや、本当に辛かったですよ……。ずっとカルペディエムに通っていてくれたのに。それがケジメというか。僕は理想を持った現実主義なんだと思います。本当に道場内で、そういうトラブルは見たくない。土曜日に女性だけのクラスというのはあります。でも、それは女性蔑視でないポーズのようなものです。それでも来て下さる方には申し訳ないし、感謝の気持ちだけです」
──カルペディエム女性版の誕生が待たれます。
「本当にやりたいです。でも、そこのインストラクターは男でなく女性にしたい。それには女性の優秀なインストラクターが必要で……。そこが解決すべき点です。生徒がいないのに、どうやってインストラクターを養成するのか」
──そこは新明君に黒帯になり、指導者レベルになったら、返してもらうから──と話をつけておかないと(笑)。いや、今回は反論必至の話題の数々、しっかりと答えていただきありがとうございました。カルペディエムの柔術とは何なのか。少しでも世に伝わればと思います。
「こちらこそ、ありがとうございました。僕の下にいるスタッフは薄給です。けど、バイトをしなくて柔術に没頭できる。一度しかない青春時代を僕は奪っています。預かっているので、柔術だけは思い切りやらせたい。そこだけは保証するので、そういう若者の応援がしたい。そのためにもスタッフ制度をしっかりとこれからも続けていきます。
彼らがカルペディエムの原動力になるので。彼らの充実度のバロメーターは、結果を残すこと。ポディウム、メダルです。何を言われようが結果を残さないと。そしてスタッフがハッピーだったら、生徒さんもハッピーになれる。それを信じて、これからもやっていきます。改めてありがとうございました」