【on this day in】2月28日──2013年
【写真】現役時代を知らない人達は、この顔を見ても怖さは感じないのだろうか。往時の姿や破天荒なエピソードを思い出し、非常に緊張したインタビューになった(C)MMAPLANET
Bob Schrijber in UFC 144
@東京都新宿区、ヒルトン東京
「声も顔つきも、迫力に満ちている。と、とにかく怖いイメージしかなかった。アーネスト・ホーストやロブ・カーマンという大物の影に隠れた感はあるが、オランダを代表するライトヘビー級のキックボクサーだったボブ・シュクライバ―。僕のなかで、ブラックなオランダキック界にあって、最も喧嘩が強いという雰囲気をまとっているのが彼だった。キックと並行して、1990年代中盤、オランダに持ち込まれたフリーファイトで暴れまくった。フリーファイトは、柔術やレスリングのバックグラウンドのないキックボクサーたちが繰り広げる壮絶、凄惨な殴り合い、あるいはヘッドロックが延々と続くというレベルの低いMMAだった。しかし、比較的大規模なイベントを開くことができた当時のオランダ格闘技界は、ブラジルや米国から選手を招聘することで、寝技のできない母国のファイターが次々と敗れる事態を巻き起こした。そんな時、シュクライバ―がルタリーブリの帝王ウゴ・デュアルチのテイクダウンを切り、スタミナを切らして背中を見せたところで、迫力満点のパンチでKOした。最後まで組技がマスターできたわけじゃない。いや、できなかったからこそ、指導に専念するようになったシュクライバ―はMMAを目指す教え子に徹底して寝技の重要性を説いた。結果、オランダ人なのにガードワークが得意な愛弟子ステファン・シュトルーフと共に日本に帰ってきた──彼をインタビューした。UFCが頂点になったMMAワールドでは日本格闘技界の全盛期を知る者は少なくない。しかし、シュクライバ―のように全盛期前夜を知る人間はほとんどいない。そんな彼が日本やオランダの現状を鑑みて、『チャンスが訪れるのは1度だけじゃない。ただし、2度目のチャンスを手にするには格闘技を尊敬する気持ちほど大切なモノはないんだ』と語った。しゃがれた声で暗い夜道に明かりを灯すような話をしてくれた、元・最も怖い男は静かに微笑を浮かべていた」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。