【Interview】リネケル戦後の漆谷康宏、「新しいことをやらなくては」
【写真】ジョン・リネケル戦の敗北を漆谷康宏はどのように受け止めているのか。負けて分かることもあるが、痛い敗北であることは間違いない (C) MMAPLANET
10日(土・現地時間)、中国のマカオ特別行政区のザ・ベネチアン・リゾート内コタイ・アリーナで開催されたUFC Macao「Franklin vs Le」。UFC2戦目で、絶対の自信を持って挑んだジョン・リネケル戦で、判定負けを喫してしまった漆谷康宏。
アウトボクシングを得意とする漆谷にとってボクシング&パンチ主体のリネケルは相性のいい相手だと思われていたが、結果的にはリネケルの圧力に押し負けた。今回の敗戦は漆谷にとってファイトスタイルを見直すきっかけの一戦となったという。
Text by Takumi Nakamura
――マカオ大会が終わって日本に戻ってきてからはどのように過ごされていますか。
「まだジムワークは再開していなくて、今は少しゆっくりしています」
――ご自身の試合映像はご覧になりましたか。
「はい。試合の感想は“ダメ”ですね。その一言です(苦笑)」
――では順を追って試合を振り返っていただきたいのですが、リネケルと対峙してどんなことを感じましたか。
「自分が思っていたリネケルとは違っていて、焦っちゃいましたね」
――映像を見ている限り、1Rは漆谷選手が足を使いながら上手く戦っていたように思えたのですが、漆谷選手自身はどうでしたか。
「う~ん…。当たると思っていた攻撃が当たらなくて『あれ? 違う』と感じたんです」
――試合後だから明かせる部分だと思うのですが、何を当てようと思っていたのですか。
「まずは左ストレートを当てて、そこから打撃を組み立てていこうと思いました。でも、その左ストレートが思うように当たらなくて。もっとリネケルは最初から前に出てくると思ったんですよ。でも最初は距離を取って、こっちの出方を見てきたんですよ。あれにはちょっと驚きました」
――漆谷選手としては序盤からリネケルが詰めてくる展開を想定していたのですね。
「はい。リネケルは目が良くてディフェンスが上手かったのも予想外でした」
――ただ、リネケルの入りに合わせて打っていた右フックや左のヒザ蹴りはタイミングよく当たっていましたよね。
「そうなんですよ。感触があった攻撃も幾つかあったのですが、リネケルが打たれ強かったです」
――2R以降の展開で印象的だったのが、漆谷選手が金網を背にして右ボディをもらっていた場面です。あれはリネケルの圧力が想像以上だったということですか。
「そう…なんですかね。過去の試合映像を見ても、顔面へのフックとボディが主で、ストレート系は打ってこないので、ボディを狙ってくるだろうとは思っていたんですけど」
――そのボディが効いているように見えたのですが、実際はどうだったのでしょうか。
「嫌な感じはありましたが、パンチでボディを効かされたのはなかったです。ボディが効いたのはバックスピンキックです。あれは受けた瞬間に『うっ!』となりました」
――3Rは自分が取らなければ勝ちはないという心境でしたか。
「はい。そのつもりで戦ったのですが、試合を通じてビッグヒットが多かったのはリネケルの方だし、判定を待っている間は(勝ちを)持っていかれたなと思っていました」
――パブリックビューイングで日沖発選手が「リネケルが漆谷選手のことを研究していたと思う」と言っていました。漆谷選手にはそういった感覚はありましたか。
「ああ…言われてみれば、そうかもしれないですね。リネケルの攻撃の出方は、今まで見た試合とどれも違っていて、パターンそのものを変えていたと思います」
――それも含めて、最初の話に戻ると、リネケルは漆谷選手が想定したものとはかなり違う試合をしてきたということですね。
「自分はそう感じました。あとはやっぱり自分が狙っていた攻撃が当たらなかったことですよね。改めて試合を映像で見て、打撃だけに集中してこだわりすぎていたというか、もっとMMAをしなきゃいけない。
そう思わされました。自分ではそういったMMAをやるための練習も積んできたはずなのに、なんでそれをしなかったんだろうっていう。ちょっと自分の打撃に自信を持ちすぎていて『何とかなるでしょう』と思っていた部分はあります。結局そういうところでミスが出てしまって、それを立て直せなかったことが敗因です」
――漆谷選手は相手がオーソドックスの場合、アウトサイドに回っての右フック、相手が入ってくるところへヒザ蹴りを合わせる攻撃が軸となっていますが、それ以外のオプションも必要だと感じましたか。
「はい。海外の選手はこっちのいい攻撃が一発や二発当たったくらいでは引かないんですよね。右フックもコメカミに『ガツン!』と手応えがあるくらい入っているのに、そこからリネケルは前に出てきた。ヒザ蹴りもそうですね」
――立ち技格闘技でも体が頑丈な外国人選手と試合をすると、ヒザ蹴りで相手の前進をストップ出来ずに押し負けることがあります。
「ああ……分かりますね。今の自分にもそういう部分はあると思います」
――漆谷選手は“ウルシスタイル”としてMMAにおけるアウトボクシングを主な戦い方としている選手だと思います。スタイル変更とまでは言わないですが、今後はそのファイトスタイルを見直す時期なのでしょうか。
「そうだと思います。自分よりも打撃が強い選手と戦うには引き出しの数も求められると思うんですよ。下がって打撃を当てているだけでポイント的にどうなんだろうというのもあるし、自分のスタイル的には新しいことをやらなければいけないと思います。例えば打撃をメインで戦っていても、そこから組みに切り替えることも必要だし、逆に組みでイニシアチブを取れば、今度は打撃も当たるようになると思うので」
――初戦は雰囲気など慣れないという部分もあっただけに、今回の試合に期するものがあったと思います。そこで出た判定負けという結果は真摯に受け止めて、次につなげればならないですね。
「はい。今後の契約がどうなるかはまだ分からないので、次の試合については何とも言えないのですが、もし契約が続くようであれば、リネケル戦で分かったことを踏まえて練習していくだけですね」