【RIZIN54】ガジャマトフとの激闘を制し、いざ大晦日へ。伊藤裕樹「計量前日、買い物をした時に――」
【写真】計量時のコメント、そして入場の際の自信にあふれた表情も、計量前日の偶然があったから――というわけではない(C)RIZIN FF
11日(火・祝)に東京都江東区のTOYOTA ARENA TOKYOにて開催されたRIZIN54で、伊藤裕樹がアリベク・ガジャマトフにTKO勝ちを収めた。
Text by Shojiro Kameike
伊藤にとって今回のガジャマトフ戦は、今年3月のカルロス・モタ戦以来9カ月振りの試合であると同時に、RIZINフライ級次期挑戦者を目指すための戦いでもあった。セレモニアル計量でガジャマトフの計量オーバーとノーコンテストルールへの変更が発表されると、「僕がもう大晦日は確定で良いですよね?」とアピール。榊原信行CEOから「KOで勝て!」と返される場面も。
試合は初回からガジャマトフにテイクダウン&バックを奪われる苦しい展開となった。しかし2Rにアナコンダを極めかけ、スタンドに戻り連打でガジャマトフの心を折ってTKO勝利。当日のベストバウトの一つであり、その勝者となった伊藤に、ガジャマトフ戦の計量前日に起こった謎のエピソードと、試合前のインタビューで挙げていた「好きな人」について訊いた。
もちろんプロとして体重を守れないのはダメ。でも、だからといって体重オーバーぐらいで自分が試合をやらないとは言えない
――何といえば良いのか……、とにかくガジャマトフ戦は凄い試合でした。
「ありがとうございますっ!!」
――周囲からも、そういった声が多く聞かれるのではないでしょうか。
「皆、結構ビックリしていましたね(笑)。応援に来てくれた人たちも口を揃えて『あの日一番、会場が盛り上がってヤバかった』と言ってくれました」
――伊藤選手の試合は休憩前に行われましたが、休憩後の4試合を観ても自身の試合が一番だったと思いますか。
「僕としては後藤選手の試合(後藤丈治がアジズベク・テミロフをRNCで下す)がメチャクチャ盛り上がったなと思っていて。でも皆がそう言ってくれるので『あぁ、そんなに自分の試合も盛り上がったんだな』と」
――確かに後藤×テミロフをはじめ、印象に残る試合が多い大会でした。そんななか伊藤選手の試合については、まずガジャマトフの計量オーバーがありました。対戦相手が計量をクリアできなければ、ノーコンテストルールではなく、試合そのものを受けないという権利も伊藤選手にはあります。
「いやぁ、それはないです。皆がチケット買ってくれて、『この日のために仕事を頑張ってきた』『マジで楽しみにしとるわ』とか連絡をくれているわけですよ。もちろんプロとして体重を守れないのはダメ。でも、だからといって体重オーバーぐらいで自分が試合をやらないとは言えないので」
――ただ、ガジャマトフだけでなくパッチー・ミックスも計量をクリアできませんでした。その結果、伊藤選手の試合が後半から前半に繰り上がったことについては?
「まぁまぁまぁ(苦笑)。もちろん試合順は後半のほうが注目は集まるでしょうけど、どちらかというと僕はファン目線というか、自分の試合を終えて早く他の試合を観たい派で。やっぱり自分の前の試合は楽しめないじゃないですか。だから試合順が早くなったことについては何とも考えていなかったですね。むしろ休憩前って一番良いタイミングに変更されたのかな、と思って」
――まさにその点が神懸かっていたといいますか、伊藤×ガジャマトフが激闘であったおかげで、そこで起こった熱が休憩を経て後半も継続されていたように感じました。
「そういう運とかタイミングみたいなものを、全て自分の試合が持って行ったなと思いましたよ。応援に来てくれていた人とか、僕の試合の熱を帯びたままRIZINガールのパフォーマンスを釘づけで観ていたらしくて(笑)」
――明るく楽しく観るのではなく、ギラギラした気持ちのままで。
「アハハハ! そうなんですよ」
アナコンダではなく、スタンドでレフェリーストップになったから余計に盛り上がったような気はする
――それだけ皆が興奮する……つまり戦っている選手からすれば、ハードな内容でした。序盤からガジャマトフが、伊藤選手の打撃に右オーバーハンドを合わせるに来ることは想定していましたか。
「計量オーバーでノーコンテストルールだから、1Rからガンガン来るとは思っていました。それだけは警戒しようと考えていたところに、全部合わせに来ていたから『あぁ、こう来るんだな』というぐらいの感じでした。ただ自分がイメージしていたよりもシャープな打撃ではありましたね」
――自分から攻めるのではなく合わせに行くからこそ、これまでの試合と違いスッと右を伸ばしていたように思います。
「そうですね。映像で視返しても右はオーバーハンドで打っているけど、凄くシャープに打ってきていて。試合でもあのタイミングで打ってくるのは、少しヒヤッとしました」
――そのうち一発、ガジャマトフが右を放ったあと『ゴツン!!』という大きな音が響いたシーンがありました。直後、伊藤選手が少しフラついてすぐ体勢を立て直して。
「あれは僕がステップで体を下げるタイミングで、上から右が飛んできたんですよ。だからダメージはなかったです。普通の構えで食らっていたら効いていたかもしれないですけど、あの時は僕のヒザが抜けていたので」
――ヒザが抜けていた、とは?
「ヒザが止まっている状態でパンチを受けていたのではなく、ヒザを曲げている状態だったんですよね」
――ヒザがサスペンションのような役割を果たし、ダメージを殺すことができた、と。
「そうです、そうです。でも『パンチ重いな……』と思いました(苦笑)」
――右を合わせてくるとともに、カウンターでテイクダウンも合わせてきました。組まれた伊藤選手としては、これまでと組み手を変えていなかったですか。
「いや、組手はそんなに……でも1Rは、相手にやらせてやろうという気持ちがありましたね」
――過去の試合では組まれた時、両腕を差し上げられて押し込まれるか、バックエスケープすることが多かったように思います。しかし今回は、そういった状態になる前にガジャマトフの右腕を両腕でコントロールしていました。
「あぁ、そうです。練習だとあの体勢は得意で。ガジャマトフも勝ちに来るなら打撃だけじゃなく組みに来ると思っていたので、そこでポジションは取られないように練習していたんです。バックを見せてから逃げるのも得意ではありますけど、とにかくちゃんとしたポジションを相手には取らせない。試合中もそうやって落ち着いて対処できるぐらい、冷静に戦うことができていましたね。セコンドの声もしっかり聞こえていたし、最初にガジャマトフと組んだ瞬間も『これはいけるな』とは思いました。
グラップラーにも、いろんなタイプがあるじゃないですか。組んでくるけどタイトじゃない選手もいれば、アーセンみたいにビタッと離さない選手もいて」
――アーセン選手の場合、頭をおっつけたうえで胸も合わせてくるために、相手とのスペースが全くないですからね。
「そうそう、あれがまた嫌なんですよ(笑)。でもガジャマトフ戦はリストコントロールもできていたし、最後に回転系の技を出してくるのだけ気をつけて1Rは終えました」
――以前のRIZINと違い現在はデュアルマストシステムで、ラウンドごとの採点が行われます。そうなると1Rは取られたと思いましたか。
「セコンドともインターバル中に『1Rは取られたから、ここからギアを上げていこう』という話をしていました。もともと僕はそういうタイプなので、特に焦ってもいなかったですし。相手も1Rから少し打撃を嫌がっているような感じもあって。だからなのか、2R開始早々にガジャマトフがテイクダウンに来ましたけど(苦笑)」
――そこで背中を着かされたあと、試合中最大のピンチが訪れます。ガジャマトフがバックを奪取し、ボディトライアングルで組み、RNCを狙ってきました。とはいえ伊藤選手にとっても、あの状態から逃げるのは得意なわけで。
「そうです。その前に1R、最初のテイクダウンで下から相手の口を塞いだりして、息できんようにしながらトップを取らせとったら、そこで息も上がってきていたんですよね。それで2Rにバックを取ってきた時も、『ここで極めなアカン!』みたいな感じで、メチャクチャ力を入れてRNCで絞めてきて。だけどしっかりフィットしていないから、自分も大丈夫だと思って相手が疲れたところでエスケープしました」
――バックを奪った時点でガジャマトフも、すでに疲労していたのですね。その直後、伊藤選手が狙ったアナコンダで削れていったのかと思っていました。
「あのアナコンダもだいぶ効いていましたよ。ガジャマトフもRNCでだいぶ力を使っていたでしょうし、アナコンダの形になったらすぐ頭を上げるじゃないですか。でもガジャマトフも自分のお腹の下にいてくれて、おかげで僕もすぐ腕を回すことができました」
――しかし極め切ることなく伊藤選手のほうからクラッチを解いて、立ち上がったのは? スタンドで勝負を決めようとしたのでしょうか。
「あれは一回、ガジャマトフの体の力がフワッと抜けたんですよ。『落ちたかな?』と思って腕を離したら、相手が起き上がってきて『危ねぇっ!!』と思いましたね(笑)」
――……レフェリーが止める前に自分から離してはダメでしょう。
「アハハハ。自分の腕もパンパンになっていて、『もうエェやろう』とか思っちゃいました(苦笑)。ただ、起き上がってきても目は死んでいたので『これは殴ったら倒れるわ』と。絶対に3Rはやりたくなかったので、殴り続けてストップになりました。あそこでアナコンダではなく、スタンドでレフェリーストップになったから余計に盛り上がったような気はするんですけどね」
――それはあると思います。しかもバシッと倒したのではなく、計量オーバーのガジャマトフが諦めるように、体をくの字にして倒れていったからこそ。
「いやぁ、全てが神懸かっていましたね。アハハハ」
僕がどれだけ誠のことを好きなのかを分からせてやります!
――前日計量のあと、伊藤選手が「ノーコンテストルールだから大晦日のタイトルマッチは確定ですよね」とアピールしたあと、榊原CEOは「KOで勝て!」と返しました。あの返しの言葉については?
「当たり前だよな、と思いましたね。自分もフィニッシュしてお客さんが盛り上がる試合が大前提で。さらに今はずっと『大晦日に俺がベルトを獲る』とイメージしながら毎日を過ごしているから、榊原さんがそう言ってくれて全てが繋がっていったような感じです。
それこそ――計量前日、コンビニで買い物をした時に会計が777円。続けてスーパーに行くと1777円。『こんなに揃うことってあるのか』と思いながらホテルに戻っていて、帰り道に見つけたバーの名前が『会心の一撃』だったんですよ!」
――おぉっ!!
「これは明日の試合で、自分はとんでもないことをやるぞって思いました(笑)」
――それだけ別のところで運がついてくると、パチンコやパチスロで負けてしまうのではないですか。
「負けてもいいです。その分、スポンサーになってくれたら……」
――アハハハ。とはいえ最後に一つの疑問が残ります。試合前のインタビューで言っていた「好きな人」とは誰のことだったのか。
「アハハハ!! それはもう試合後のマイクでも名前を挙げた、誠君ですね」
――……、……匂わせるための発言に対し、誰かを当ててしまってスミマセン(苦笑)。
「本当ですよ! 当てられちゃった、と思いました(笑)」
――ちなみに試合の中で、好きな人の真似はできたのでしょうか。
「まだ成長段階ではありますけど、僕の好きな人も関節蹴りをよく使うじゃないですか。それは良いなと思ってガジャマトフ戦でも出しましたけど、もう少し練習が必要ですね」
――ファイターが誰かのスタイルや技術を取り入れることは多いです。しかし、それが戦う可能性がある相手だと相手も分かりやすくなってしまうのではないですか。
「自分の引き出しが増える分には良いと思うんです。実際の試合で武器がぶつかったら、その時は別の引き出しを開ければよいので。僕は一つの武器と一つの武器が繋がることで、また新しい武器になることが好きなんですよ。だから好きな人の真似をすることで、自分にとってプラスになると考えています」
――要は関節蹴りひとつ取ってみても、伊藤選手と神龍選手では関節蹴りで距離をつくった後の展開が違うでしょう。では神龍戦に向けて、関節蹴りの先もイメージできているということですね。
「はい、イメージはできています。関節蹴りがひとつ入ることで、その後の展開も大きく変わると思っていますね。大晦日の前に誠とトニー・ララミーのタイトルマッチがあるなら……いや、どうなってもいいです。自分はベルトを持っているほうと戦いたいので。どういう展開になってもいいように、自分は練習して強くなりますから。
ただ、どちらにしても誠とはもう一回やらなきゃいけないと思っています。誠を愛しているからこそもう一度戦って――僕がどれだけ誠のことを好きなのかを分からせてやります!」

























