【UFC327】展望 UFC世界LH級王座決定戦。混沌=イリー・プロハースカ×秩序=カーロス・アルバーグ
【写真】ストライカーでも、正反対なプロハースカとアルバーグ (C)Zuffa/UFC
11日(土・現地時間)、フロリダ州マイアミのカセヤ・センターにて、UFC327「 Procházka vs Ulberg」 が開催される。大会名が示すように、メインを飾るのはランキング2位のイリー・プロハースカと3位のカーロス・アルバーグによるライトヘビー級王座決定戦だ。
Text by Isamu Horiuchi
この試合は、昨年10月にマゴメド・アンカラエフを1RTKOに下しタイトル奪還に成功したアレックス・ポアタン・ペレイラが、ヘビー級転向を決意し王座返上したことにより実現したもの。
もともとコメインには、平良達郎が新王者ジョシュア・ヴァンに挑戦するフライ級タイトルマッチが予定されていた。が、ヴァンの負傷により試合は来月に延期。この試合が単独のメインイベントとして行われる。
プロハースカは、2015年末のRIZIN旗揚げ興行から2019年末まで同団体で活躍し、日本のファンにもお馴染みの選手だ。初代RIZINライトヘビー級王者として2度の防衛に成功した後、2020年よりUFCに転出。2022年6月にはグローバー・テイシェイラとの大激闘を制してチェコ人初のUFC王座に輝いた。が、初防衛を果たす前に肩の負傷により王座返上を余儀なくされると、その後は2度に渡ってペレイラの剛拳&ハイキックでマットに沈められ王座奪還に失敗している。
日本の武士道に傾倒し、数日間食事を摂らず光を遮断した場所に籠る等、独自の方法で精神世界を探究することで知られるプロハースカは、2024年秋に来日して沖縄で古流空手を学び、また極真10人組手を完遂する等研鑽を重ねた。昨年はジャマール・ヒルとカイル・ラウントリーの二人にKO勝利し、4度目のタイトル戦を迎えることとなった。
ラグビーの試合で、キック仕込みのヒザ蹴りを乱闘時に使い出場停止=アルバーグ
対するアルバーグは、ニュージーランド出身。イズラエル・アデサニャを擁し、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーやロバート・ウィティカーも練習場所とするシティキックボクシングジムの所属だ。幼少時からボクサーの父の手解きを受けて格闘技の基礎を作り、子供の頃からラグビーリーグ(13人制ラグビー)に励んだ。MMA界では前述のヴォルカノフスキーのバックグラウンドとしても知られるこのスポーツで、彼と同様セミプロレベルのチームの一員として活躍した。
が、テレビ中継されている試合中に乱闘が起き、そこで当時趣味として習っていたキックボクシング仕込みのヒザ蹴りを駆使していたことが耳目を集めてしまい(!)、6週間の出場停止に。それを機に格闘技に力を入れることにしたというアルバーグは、中国でキックボクサーとしてプロデビュー。
初陣では敗れたもののすぐに中国と祖国ニュージーランドで頭角を現し、2017年と19年には祖国のプロ大会――でアデサニャも活躍していた――King in the Ringでは100キロ以下級と92キロ以下級の2階級でトーナメント優勝を飾っている。
同時にMMAにも取り組み、プロ4戦目となる2020年11月のコンテンダーしルイーズにてブルーノ・オリヴェイラを1RKOに下してUFCとの契約を獲得。翌年3月のデビュー戦(対ケネディ・ンゼチェクウ)こそスタミナを浪費して2RKO負けを喫したものの、その後は精度の高い打撃を武器にKOの山を築き上げていった。
2024年11月にヴォルカン・オズテミアを、昨年3月にはヤン・ブラホヴィッチに3-0で勝利してランキング3位に。そして続く9月には地元といえるオーストラリアのパース大会でドミニク・レイエスと対戦。1Rレイエスが入ってくると同時に目にも止まらぬワンツーを当て、一瞬で仕留めてみせた。特に最後の右は斜め後ろにステップバックしてアングルを作りながらの見事な一撃で、強打者揃いのこの階級でも指折りのエリート・ストライカーであることを証明したアルバーグは、今回王座初挑戦の機会を得た。
断崖絶壁安全具を使わず昇り、「死の本質を体感」=プロハースカ
約3年半ぶりの王座返り咲きを目指すプロハースカと、初戴冠を目論むアルバーグは、それぞれの方法で万全を期して大舞台に臨まんとしている
まだこの試合が正式決定していなかった2月、プロハースカは標高の高いメキシコのUFC PIでキャンプを敢行した。キャンプ中にこの試合が決まったので「それ自体が既に小さな勝利だったよ」と笑う本人だが、当然彼の練習は単なる高地トレーニングにとどまらなかった。メキシコ入りすると早速、世界で三番目に大きい一枚岩であるペニャ・デ・ベルナルの断崖絶壁の部分に、安全具も使わずに登っていったプロハースカ。タイトル戦の前に「死の本質」を体感することが目的だったという。
さらにキャンプの合間には、古代マヤ・アステカ両文明で行われていたという浄化儀式テマスカル(アステカの言語で「熱い家」を意味する「テマスカリ」に由来)も体験。蒸し風呂状態にした窓のないドーム状の小屋に4時間以上籠り、体重10キロほど落としながら彼の地の先祖の魂を讃えつつ心身を清め、「バッドエナジー」の排出に成功したと語っている。
試合が正式決定した後は、故郷チェコで地元のコーチたちと最終調整に。ここではパートナーたちにアルバーグのスタイルを真似てもらい、具体的に戦略を練るという合理的なトレーニングを行なったようだ。ただし1週間に一度、36時間にわたる断食によって自己を見つめる時間を取ることは欠かさなかった。
「アルバーグは素晴らしい選手、危険で速いキックボクサーだ。でも私は彼をハントするよ。オクタゴンで個人的に彼と出会うことを楽しみにしている。私の観点から彼を感じ、攻撃する場所を見定めて、そして勝つのだよ」となんとも彼らしい言葉で今回の試合に臨むチェコの侍だ。
カオス×オーダー
対するアルバーグは、全幅の信頼を置くシティキックボクシングジムのコーチや仲間達と大一番に備えており、こちらも当然対戦相手のスタイルをチームで徹底研究した上で必勝を期している。同時に自然の中で瞑想を行なう等、──当然プロハースカほど極端なやり方ではないが──やはり試合で最高度の集中力を発揮するためのメンタルケアを行なっている。
「僕は子供の頃から大きな舞台に戦いたいと願ってきた。常に自分を信じてやってきて、今がある。イリーは僕をハントするというけど、殺すことができない人間をハントすることはできないよ」と、静かながら自信を覗かせる挑戦者だ。
試合の行方を占うと、互いに共に打撃でKOの山を築いてきた両者だが、そのスタイルは対照的だ。アルバーグはその違いを「イリーはカオス(混沌)を作り出す。でも僕はクリーンに戦う。この試合はカオスvsオーダー(秩序)だよ」と表現する。
プロハースカは超攻撃的にして変則的な打撃を最大の特徴とする。スイッチを繰り返しながら独特のステップを踏み、上半身や両手を絶えず動かし、予測が不可能な形でさまざまな種類のパンチや肘、前蹴り、飛び膝等を放つ。そして低いガードで平然と相手の危険な領域に入っていき、多少の被弾は無類の打たれ強さと目の良さで耐えて攻撃を繰り出し続け、やがて相手を強打の嵐に巻き込んで倒してしまうのが常套手段だ。アルバーグが語る通り、「混沌」状態に相手を引き摺り込み、比類なき生命力で相手を圧倒するのがイリー・プロハースカだ。
対するアルバーグは、オーソドックスに構え、前手のジャブ等で常に相手との距離を保ち、精度の高い打撃を当てることを身上とする。射程距離がきわめて長い伸びるジャブで牽制し、誘い出された相手が前に来た刹那に、横にズレて左フック(チェックフック)を叩き込むのが必殺パターンだ。長い腕を鞭の如く用いて叩き込む左拳の威力は抜群で、UFCにおいても数多くの重量級選手たちを一撃でマットに沈めている。また前戦でレイエスを一瞬で仕留めた時のように、出てきた相手に角度を変えて叩き込む右のスピードと威力も凄まじい。自分の制空権という「秩序」を決して崩さず突破させず、その内側で仕留めるのがカーロス・アルバーグだ。
いかにプロハースカがその予測不可能な動きをもってアルバーグの制空権を突破し距離を詰め、暴風雨の如きラッシュに巻き込むか。あるいは、いかにアルバーグが、プロハースカの入るタイミングを見切って必殺の左チェックフック、あるいは右ストレートを叩き込むか。
ここで一つ注意したいのは、プロハースカは相手の中に入って「混沌」を作り出す際、必ず──UFCにおける8戦全てにおいて!──相手の強烈なカウンターを顔面に被弾していることだ。それを恐るべき打たれ強さで耐えて攻撃を続け、勝利をもぎ取ってきた。そんな戦いができなかったのは、強靭な顎をも打ち砕く、まさに桁外れの威力の拳を持つ男=アレックス・ポアタン・ペレイラとの2戦のみ。そう考えるならば、注目は単にアルバーグが左右の拳を当てるかどうかではなく、それでプロハースカを倒せるかどうかとなる。ダメージの蓄積は考慮しないといけないものの、プロハースカをKOできればアルバーグの拳は、ペレイラのそれに匹敵する戦慄的な威力を秘めていると考えていいだろう。
その場合、アルバーグの言うorder(「秩序」)とは、対戦相手を問答無用で従わせるorder(「命令」)を秘めたもの、と捉えてもいいかもしれない。
予測不可能を生きる力と、事前に緻密に組み立てた計画を実行する力
蛇足ついでにもう一つ重ねるなら、この試合における混沌vs秩序という対立は、単なる戦闘スタイルではなく、その根元にある戦いへのアプローチの違いとも言える。プロハースカがもっとも得意とする混沌状態において必要なのは、凄まじいスピードで変わりゆく状況にその場で対応する力だ。それは、彼が常に大切にしている「always live in the present moment (常に現在に住まう)」という言葉そのものだ。彼が自分の身体を極限状態に追い込んで生と死の境界を見極めようとしたり、極端な方法で自分との対話と心身の浄化を試みるのは、理性的な判断が通用しない混沌状態で生き延びる力を養う行為と考えられる。
その状態に持ち込むための、プロハースカのさまざまな変則的な動きも、計算づくというよりは自らの直感力を信じてその場で生み出されるものだろう。アルバーグ対策を練り、またポアタン戦の2度の敗戦を経てヘッドムーブメントや腕を用いたガードを磨くという合理的かつ戦略的な練習も取り入れているプロハースカだが、彼が戦いに見出す究極の本質は、予測不可能な現在の中で生きることにある。
対するアルバーグの「秩序」は、予測不可能性ではなく、事前に綿密に組み立てた「計画」に相手を嵌めて倒すことだ。常に相手との距離を計算し、何度も研鑽を重ねた動きで相手を誘い、こちらの予測通りに動いてきたところに、あらかじめ用意し磨き抜いてきた必殺の左右の拳で仕留める。当然プロハースカの変則の動きへの準備も怠っていないというアルバーグだが、周到にして完璧な戦略とその実行にその強さがある。よって彼の行う瞑想等は、予定した計画を寸分の狂いなく完遂するために精神を整える作業と言えるだろう。同じ精神修養とは言え、プロハースカのそれとは根本的に異なる思想に基づくものだ。
予測不可能を生きる力と、事前に緻密に組み立てた計画を実行する力。どちらも格闘技に限らず、仕事や対人関係等、人生の様々な場面で我々全てが必要とするものなのは言うまでもない。世界最高峰の選手たちの戦いを観て考えることで、日々を生きるヒントが得られることもあるかもしれない。
■視聴方法(予定)
4月12日(日・日本時間)
午前6時30分~UFC FIGHT PASS
午前5時30分~U-NEXT
■UFC327対戦カード
<UFC世界ライトヘビー級王座決定戦/5分5R>
イリー・プロハースカ(チェコ)
カーロス・アルバーグ(ニュージーランド)
<ライトヘビー級/5分3R>
アザマット・ムルザカノフ(ロシア)
パウロ・コスタ(ブラジル)
<ヘビー級/5分3R>
カーティス・ブレイズ(米国)
ジョシュ・ホキット(米国)
<ライト級/5分3R>
ドリュー・ドパー(米国)
マイケル・ジョンソン(米国)
<ライトヘビー級/5分3R>
ドミニク・レイエス(米国)
ジョニー・ウォーカー(ブラジル)
<フェザー級/5分3R>
カブ・スワンソン(米国)
ネイト・ランドヴェール(米国)
<フェザー級/5分3R>
パトリシオ・フレイレ(ブラジル)
アーロン・ピコ(米国)
<ウェルター級/5分3R>
ケヴィン・ホランド(米国)
ランディ・ブラウン(ジャマイカ)
<ライト級/5分3R>
マテウス・ガムロ(ポーランド)
エステバン・リボビチ(アルゼンチン)
<女子ストロー級/5分3R>
タチアナ・スアレス(米国)
ルピタ・ゴディネス(メキシコ)
<ライト級/5分3R>
マルケル・メデロス(米国)
クリス・パディーリャ(米国)
<ミドル級/5分3R>
ケルヴィン・ガステラム(米国)
ヴィセンチ・ルケ(ブラジル)
<ウェルター級/5分3R>
チャールズ・ラドキー(米国)
フランシスコ・プラド(アルゼンチン)




















