【LFA & RIZIN】AKA所属、覚醒中ブラックパンサー・ベイノア「AKAにも本当の押忍がありました」
【写真】コーチ、練習仲間、練習内容を信じ切ることで着実に力をつけている(C)TAKUMI NAKAMURA
昨年12月に所属していた極真会館を退会し、年明けからAKAを拠点に練習を続けていた“ブラックパンサー”ベイノア。RIZINでの試合を調整しつつ、5月&7月とLFAに参戦して2連勝を収めている。
text by Takumi Nakamura
しかも5月のコール・ラーレン戦は合計3度のダウンを奪われてからの逆転勝利、7月のセドリック・マヌーフ戦はテイクダウンを織り交ぜた試合運びでのTKO勝利とMMAファイターとして大きな成長を感じさせるものだった。
MMAPLANETでは一時帰国中だったベイノアをキャッチし、LFAでの2連戦、そしてAKAでのトレーニングについて話を訊いた。
あまりにキツすぎて1 秒でも早くケージを出て休みたかった
──現在はAKA所属で一時帰国中のベイノア選手です。今年は2試合とも米国=LFAでの試合ですが、空手時代に海外で試合したことはあったのですか。
「空手の時も海外ではやってないですね。AKAで練習するようになって柔術の大会に出たことはありますが、MMAの試合は今年5月のコール・ラーレン戦が初めてです」
――もともとどういった経緯で、LFAで試合をすることになったのですか。
「昨年大晦日の舞台裏で桜庭大世選手に絡んだりして(笑)、今年もRIZINで試合をする予定でAKAで練習を続けていたんですが、なかなか試合がまとまらなくて。それで試合間隔が空きそうだったら米国で試合をしたいということをRIZINサイドに伝えて、AKAの方でLFAにアプローチしてもらって試合が決まった感じですね」
――LFAデビュー戦となったラーレン戦はベイノア選手にとってもキャリアベストと言えるタフファイトでした。
「あれは今までで一番キツい試合でしたね。あまりにキツすぎて1 秒でも早くケージを出て休みたかったです(苦笑)。そのくらい体力も使って出し切った試合でしたね。あの試合はファイト・オブ・ザ・ナイトにも選ばれて、ものすごく評価してもらったんですよ。それで引き続きLFAからオファーをもらって、7月のLFA参戦につながったと思います」
──試合展開としては初回に2度、2R序盤に1度、合計3回ダウンを奪われてから盛り返すという展開でした。あの苦しい展開で挽回できた要因は何だったと思いますか。
「まずは気持ちです。それこそ極真でずっと培ってきたものが出たのかなと思います。あとはもちろん気持ちだけじゃなくて、組みを混ぜて2~3Rに削っていけたこと。MMAの引き出しが増えたこと、AKAでやってきたトレーニングが活きたと思いますね」
──7月のセドリック・マヌーフ戦も打撃と組みをミックスした動きが出ていたと思います。AKAではその部分を常に意識して練習するように指導されているのですか。
「そうですね。AKAで練習するようになって、試合が決まるとそういう作戦を立てていたので、やっとそれが試合で出せるようになってきたなって感じですね。AKAに来てすぐの頃(井上雄策戦)はサークリングしかできなかったですけど(苦笑)」
──いきなり自虐ネタですね…。マヌーフは打撃が武器の選手ですが、やはり組みを混ぜた方が楽に試合を進めやすいという部分もありましたか。
「はい。やっぱり自分の手札や引き出しが多い方が有利というか、ラーレン戦のようなキツい展開になったら絶対に選択肢が多い方が勝つと思っているので。僕自身も前からスタミナには自信があるので、相手を削る作業という意味では組みを混ぜた方がやりやすい面があります。相手に対して組みがあると思わせるだけでも気持ち的に削れると思うし、それ(組みがある)でだいぶ変わってきているのかなと思います」
──テイクダウンしてグラウンドゲームまで持ち込めるかどうかもありますが、相手に組みがあると意識させるだけで試合展開は変わりますよね。
「AKAには色んなタイプがいるから感じることですけど、結局全部できるヤツが強いんですよ。レスラーでも打撃がヤバいヤツが強いし、ストライカーでも組んでくるヤツが強い。目指すべきところはそこかなと思っていますね」
何かに特化した練習は試合がない時期やオフの時期にやるもので、試合が決まってファイトキャンプに入ったらMMAだけ
──SNSでダニエル・コーミエがAKAでケージレスリングを指導している動画を目にしたのですが、基本的にAKAはレスリングの練習そのものが長いのですか。
「そうですね。レスリングだけをやる日もありますし、かなりガッツリやります」
──プロ練そのもののは、どのようなスケジュールなのですか。
「プロ練は月から金まで朝9時から2時間、午後はそれぞれ選手がコーチとマンツーで練習したり、試合前の選手が同じ時間に集まってフィジカルやバイクを使ったトレーニングをやったり、一般の会員に混じってグラップリングをやったり。午前中に全員が集まるプロ練をやって。午後は選手それぞれで練習メニューを考えて、ですね」
──プロ練も曜日によってメニューが分かれているのですか。
「基本的に月水金がスパーリングの日ですね。試合前の選手はケージに入って、コーチが対戦相手に近い選手を何人かピックアップするんですよ。それで5分3Rもしくは5Rで、コーチが選んだ相手を順番に相手にするスタイルですね。試合がない選手はケージ以外のスペースでライトスパーをグルグル回す感じです。火曜日と木曜日はスパーリング前にドリル系の練習があって、火曜日はレスリングのみ、木曜日はレスリングも含めたMMAグラップリングのドリルをやります」
――コーチがミットを持つようなストライキングの練習は少ないのでしょうか。
「それは午後の練習で各々がやる感じです。ライトスパーのなかで打撃の練習もやりますし、ドリルの中に打撃のディフェンスやコンビネーションを混ぜたものもやるんですけど、基本的に合同のプロ練=MMAの練習というイメージです」
――プロ練習は打撃・レスリング・寝技を分けずに、最初から最後までMMAとして練習するようですね。
「はい。午後にストライキング、レスリング、柔術のクラスがあって、そこに個人個人で参加するし、試合前はプロ練以外のことはやらなくていいと言われますね。『翌日にケージのスパーリングを控えているんだったら、そこにベストなコンディションを作って来い』、『試合前にギの練習をやる必要はない』って。何かに特化した練習は試合がない時期やオフの時期にやるもので、試合が決まってファイトキャンプに入ったらMMAだけ、試合のためだけの練習に特化するイメージです。
例えばファイトキャンプ中に打撃のスパーリングはほとんどやらなくて、打撃のスパーリングは常に組みあり、グラップリングは常にパウンドあり…そんな感じでやります」
――なるほど。そういった練習を続けていると必然的にMMAへの意識も高まりますよね。
「そうですね。ストライカーだからタックルを切ることに集中してストライキングだけ練習するとか、そういう発想は一切ないです。全員しっかり穴を補強しろということで、むしろストライカーこそレスリングやグラップリングをやらされて、グラップラーやレスラーこそストライキングをやらされます。そういう指導スタイルなのでバックボーンがバラバラでも、みんなファイトスタイルが似てきますね」
――AKAの場合はそれが打撃と組みのミックスですね。
「はい。そのなかでもレスリングが大事だという考え方ですね。あとは意外とAKAの練習は根性系なんですよ。もちろんテクニックもしっかりやるんですけど、最後は気合いと根性みたいな。コーミエやケイン(・ヴェラスケス)もどちらかというとスタミナ系のファイターだし、AKAに来ているダゲスタン勢もそうじゃないですか。
練習も日本っぽいというか自重トレーニングで息を上げて追い込む感じなんですよ。おそらくコーミエやケインたちがやってきたレスリングの練習がベースになっていると思うんですけど、レスリングの延長のスタミナ稽古みたいなことをやりますね。ひたすらテイクダウンを仕掛け続けたり、クリンチしたところからのテイクダウンを繰り返したり。もちろんシチュエーションを分割して技術的な練習もやりますが、絶対にそういった息を上げるレスリングのしんどい系の練習はメニューに入っています」
──井上雄策戦前の公開練習でAKAのことを聞かれたベイノア選手が「一言で言うと押忍です」と答えて、みんな笑っていたじゃないですか。こうして話を聞いているとベイノア選手の言葉の真意が分かります。
「ありがとうございます。AKAでやる根性系の練習を日本語で表すとしたら“押忍”以外ないんですよ。コーミエから『ひたすらテイクダウンに行け!』と言われたら『押忍!』と言って行くしかないですからね。まさか米国でMMAの練習をしていて、押忍の精神に出会うことになるとは思っていなかったです。AKAにも本当の押忍がありました(笑)」
『日本に帰ったら色んなジムで練習したくなるかもしれないけど必要ない』って
──でもMMAを席巻しているダゲスタン勢もそういった練習をやっているわけで、それが一つの正解であることは確かですよね。
「AKAに来てよかったのは世界のトップ選手たちの練習を間近で見られたことですね。肌で感じることもそうなんですけど、どういう姿勢で練習と向き合っているのか。それを近くで見ることが一番刺激になります。ちょうどファイトキャンプに来ていたウスマン・ヌルマゴメドフの練習を見たんですけど、やる時はしっかり集中する。キツい練習をする分、ただ量を多くやる感じでもないんですよ。ギュッと量と質を詰めて練習するから、そこに100パーセント持っていくために休むのも練習というか。『2時間ぐらい昼寝しろ』とか『万全で練習に来るためにしっかり休め』とか、そういう考えなんですよね」
――ただ時間や本数をこなすのではなくて、100パーセントでやれという方針なんですね。
「はい。集中できずにダラダラやるくらいだったら、今日はしっかり休んでいいと。その分、明日までに体調を万全にして100パーセントでやれって感じです。カビブ・ヌルマゴメドフのチームは所属選手も増えていて、ダゲスタンにもジムがあるから、全員が全員AKAに来るわけじゃないんですよ。米国で試合をする選手がファイトキャンプで来ることが多いのですが、彼らがジムに来ると雰囲気がガラッと変わりますね」
──練習も休息も全力でやるというのは、それだけMMAのために生きているといっても過言ではないですね。
「逆に自分は日本では(MMAで)どこか一つのジムに所属するのではなくて、幾つかジムを回って練習していたので、一カ所に腰を据えてMMAを練習するというのはAKAが初めてなんです。AKAではジェレミー・メンデスがメイントレーナーなんですけど、日本のそういう状況も把握しているみたいで、僕が日本に戻る時に『日本に帰ったら色んなジムで練習したくなるかもしれないけど必要ない』って言われたんです。『米国に戻ってきた時にファイトキャンプでしっかりスパーリングをやるんだから、日本では簡単なドリルとかフィジカルをキープする練習をしておけばいい』と」
──なるほど。AKAのコーチ陣からすると、他のジムの指導やテクニックが入ってきて、ファイトスタイルが崩れるのが嫌なんでしょうね。
「そんな感じがしますね。だから日本では河川敷を走ったりしてます(笑)」
──改めてですが色んな選択肢がある中で、なぜベイノア選手はAKAを選んだのですか。
「なんですかね。それこそカビブもそうですし、イスラム・マカチェフ、ウスマン・ヌルマゴメドフ、UFCとBellatorのライト級のトップ中のトップ、チャンピオンが練習しているジムがAKAだったんで、そこにいけば同階級の世界一を感じられると思ったからですね。あと空手時代に当時の先生がたまたまAKAに行ったことがあったんですよ。旅行がてら行ってみたジムがAKAで『米国にすごいジムがあるぞ』という話を聞いたことがあって、それも頭に残っていたのかもしれないです」
──階級的なところに始まり、レスリング中心の練習スタイル、いい意味で古き良き日本式の練習スタイルなど、AKAはベイノア選手にとって最適なジムだったのではないですか。
「僕もそう思います。僕にとって一番いいジムだったと思います」
自分の居場所が見つかった
──ラーレン戦は打撃を効かされてからの逆転勝ちで、マヌーフ戦はストライカー相手にテイクダウンを織り交ぜて試合を進めた上での勝利。この2連戦はベイノア選手にとって大きな経験だったのではないですか。
「本当にいい経験でしたね。AKAに行って1年は地盤を固める感じで、とにかく強いヤツとスパーリングして彼らの強さを知る。そこで作った土台をこの2試合で出せるようになりましたね。試合に向けた準備の仕方もすごく勉強になって、例えば選手がトレーニングキャンプに入ると、試合を控えている選手のパートナーにはあえて少しイージーな相手を選ぶんですよ。最初はなんでそういう相手と練習するんだろう?と疑問に思っていたのですが、いざ自分が試合する側になって分かったことがあって。
ファイトキャンプで強い相手と練習しても、やられないように頑張るだけの練習になるんですよね。それよりもある程度自分と競った攻防が出来て、最終的には自分が優勢で終えられる相手と練習しておくと、試合に向かってどんどん自信がついてくるんです。だからファイトキャンプが終わる頃には打撃もレスリングも自信を持ってやれるようになっているんですよね」
──それもまた興味深いですね。ただハードに強い相手と練習して追い込むのではなく、ポジティブなメンタルを作りながら練習していくという。そういった試合に向けた調整のノウハウもあるんでしょうね。
「そう思います。ファイトキャンプに入ったら強い相手とは練習しなくてもいいって感じでした。ファイトキャンプ以外で強い相手と手合わせして、自分に必要なパーツの技術を練習しておく。そしてファイトキャンプに入ったら試合に勝つための練習をする。そういうシステムが確立されているんだなと思います」
──さてベイノア選手としては今後もRIZINとLFAで試合をやっていくことになりそうですか。
「そうですね。引き続きRIZINと試合の話をしつつ、海外の試合に関してはAKAのコーチに任せて、年内にはもう1試合やりたいと思っています」
──ベイノア選手は昨年12月に極真を離れて、まさに今はAKAの選手という感じですね。
「僕自身、極真を離れてどうするんだろう?なみたいな感じではあったんですけど、自分の居場所が見つかった感じです。ラーレン戦の前にAKAで練習していて、コーチに『俺ってAKA所属でいいの?』みたいに聞いたら『何言ってんだ!お前はもうすでにAKA所属だろ?』と言ってくれて、あっ!そうだったんだ!みたいな(笑)」
──AKAはダゲスタン勢がいたり、国際色豊かなチームなのでベイノア選手のことも温かく迎えて入れてくれたんですね。
「そうですね。ただちゃんと練習をやる選手は誰でも受け入れてくれる反面、真面目にやらない選手は放置されていますね」
──そこは米国っぽいですね。自分で意思を持ってやりなさいっていう。
「はい。今後はもっとレスリングのレベルを上げたいし、寝技もサブミッションを極めるレベルまで持っていきたい。それこそゴリゴリのグラップラーになっちゃうんじゃないか?っていうぐらい組みのレベルを上げたいです。もちろんストライキングも今が限界じゃないと思うし、MMAファイターとして自分の円グラフを満遍なく伸ばして大きいものしていきたいです」
――今日はありがとうございました。ベイノア選手の次戦を楽しみにしています!