【POUNDOUT02】メインで山本琢也と対戦、葛西和希「カポエイラを学び始めて全てが繋がってきました」
【写真】柔道整復師の資格を持ち、マッハ道場で練習しながら併設されている「マッハ整骨院」にも勤務する葛西。「最高の環境を整えてくれているマッハさんに恩返しがしたい」と語る(C)SHOJIRO KAMEIKE
22日(日)、千葉市中央区のTKOガーデンシティホール千葉で開催されるPOUNDOUT02にて、葛西和希が山本琢也と対戦する。
Text by Shojiro Kameike
格闘技のベースである柔道にムエタイのテクニックを加えてパンクラスで4連勝していた葛西和希。昨年9月にライト級3位として、当時同級5位・天弥との次期挑戦者決定戦でKO負けを喫する。今年30歳になる葛西にとっては、この敗戦が一つの転機になるとも思われた。
そんななかで迎えるPOUNDOUTでの山本戦――練習仲間でもある山本との激突を前に、葛西は「最近ようやく胸を張って『自分はプロのファイターだ』と言えるようになった」と言う。これまで積み重ねてきたものと、新たに出会ったものが繋がったという、天弥戦以降の9カ月間について語ってくれた。
岡野さんが山本さんに負けた時『リベンジさせてください』と口が滑りました(笑)
――試合を2週間後に控える葛西選手です(※取材は6月9日に行われた)。まずは今回、POUNDOUT出場が決まった経緯から教えていただけますか。
「マッハ道場の先輩の岡野裕城さんが、前大会で山本琢也さんに負けたじゃないですか。大会が終わって髙谷裕之さんに挨拶させていただいた時、本当にその場の勢いで『山本さんにリベンジさせてください』と口が滑ってしまいました(笑)」
――口が滑った、とは……。
「山本さんとは3年間ぐらい、パラエストラ松戸(現THE BLACKBELT JAPAN)で一緒に練習させてもらっていた仲ですし、全然対戦したくなかったんですけどね。アハハハ」
――それでも先輩のKO負けを見ると、感情的になってしまいましたか。
「悔しい気持ちが、どんどん沸いてきてしまいました。試合までの過程も見ていましたから……。岡野さんも言い訳なんかしない人だから、代わりに僕が言いますけど、あの時はヒザを負傷していたんです」
――岡野選手の右ヒザにはサポーターが巻かれていましたね。
「その負傷のために練習は全くできていなくて。岡野さんはずっと打撃にこだわってやってきたのに、試合ではその打撃も出せずに――結果、岡野さんの良いところが出せずに終わってしまって。僕はそれがショックだったんです」
――そうだったのですか。岡野選手が山本選手の右を食らった時、ゆっくり垂直に右ヒザから崩れ落ちていたので「この倒れ方、何か変だな」と思っていたのですが……。しかもスクランブルで起き上がることもできず。
「そうなんですよ。もちろんプロだから、負傷したのも自分の責任だし、岡野さんも自分自身では絶対に公表しません。僕も『ヒザの負傷がなければ――』なんてことは言わないです。山本さんの右を食らって、大きなダメージがあったことは間違いないですしね。ただ、岡野さんのKO負けが本当に悔しくて。
特に岡野さん、ここ最近の練習での動きは本当に良いんですよ。今回同じPOUNDOUTに出る宇土冬真君がマッハ道場へ練習に来ていて。岡野さんと宇土君のスパーが、本当に良い内容でした。ずっとそれぐらいのコンディションではあったので、ヒザの負傷もあって負けことが悔しかったです」
――その気持ちが爆発して、練習仲間との対戦を直訴してしまったということですね。一方、葛西選手が最近カポエイラに取り組んでいると聞きました。
「習い始めたのは、本当に直感で。2年前から定期的に、カポエイラに興味が出て来る時期があるんです(笑)」
――アハハハ、カポエイラ熱が定期的に。
「その時期に検索して探してみるんですけど、周りに習うことができる場所がなくて。それが今年3月ぐらいですかね。またカポエイラを始めたい衝動が来た時に検索してみたら、柏市にトレーニングスタジオ ナヴィーオというのが出来ていました。そこでトレーニングを開始したのが2週間前ぐらいです。
僕が教わっているのは山崎大輔先生という方で、大輔先生は体の使い方を言語化する能力が凄いんですよ。カポエイラの動きって一見大きく見えるけど、その動きを小さくしていったらボクシングの動きになるとか。そうやって今まで教わったことは、全てが繋がっていくんだと思いました」
――全てが繋がっていく、というのは……。
「大きい動きというのは、大きく筋肉を使っているということですよね。大きく使えると、自分の調整次第で小さくも使えることになります。逆に小さい範囲でしか筋肉を使っている人は、大きく使えることを知らない。まず大きく使えることを認識したうえで、この場面にはコレを使う、この時はこう――たとえば相手との距離が遠い場合はこう動く、近い時はこう動くという感じで。僕にとっては、また新しい別の世界を知ることができたような感覚です。
今は週に1回カポエイラを教わったあと、同じ場所で子供たちのクラスが始まります。それを見ているとカポエイラって子供から高齢者まで、先生と同じ動きを学び、できるようになる。それは同じブラジル発祥だからか、ブラジリアン柔術と同じように感じました。ということは、カポエイラを学ぶことでMMAにも生きるんじゃないかと思って」
ようやく自分のスタイルが完成に近づいています。今から試合まで、もう二回りぐらい成長しますよ
――葛西選手が諏訪部トレーナーとのボクシング練習で、ドラムミットを使っている動画を視たことがあります。加えてSNSで投稿されているカポエイラ・トレーニングの動画も視ましたが、共通しているのはしっかり体幹を使って動いている点ですね。
「はい。自分はこんなにか細い腕で、体全体も特に大きくはない。なのに試合で勝つことができているのは、そういう体幹の強さにあるんだろうと思っています。ただ、今までは形だけで、最近は質も伴ってきました。体幹が強くなったら全体が繋がってくるし、技術的にも全てが繋がってくるんですよ」
――葛西選手のファイトスタイルといえば、やはりジャブ、ロー、ヒザです。ただ、それも今までは完全に繋がってはいなかったですか。
「今はもう以前の3倍ぐらい強いと思いますよ。去年9月、天弥君に負けたあと自分に足りないものは何かと考えて――この9カ月は本当に濃い期間でした。試合間隔が怪我もあったんですけど、それだけの時間がなかったら、つくり上げることもできませんでした。まだまだ発展途上ではあります。でもようやく自分のスタイルが完成に近づいていますね。今から試合まで、もう二回りぐらい成長しますよ。アハハハ」
――ものすごく手応えを感じていることは、話に熱がこもっているので理解できます。
「あと格闘技とは関係ない話ですけど……最近、犬の世話をお手伝いすることがあって。外で犬を散歩していると、気持ちもリラックスしてくる。そのなかで諏訪部さんに教わった内容を振り返っていると、新たに気づくことが出てくるんですよ。
もう一つはキッズクラスで指導していて、子供たちにどう教えたら良いかを考えますよね。どうすれば子供たちに伝わりやすくなるか――キッズクラスでアウトプットすることにより、自分の中でも理解度が増していく。そうやって気づいたことが、今ちょうど噛み合ってきているように感じますね」
――なるほど。
「自分も29歳になりましたけど……、同じジムの山崎蒼空のように若くて7連勝するファイターもいます。自分の場合は勝ったり負けたりでも、しっかりそれが身になってきていて。今はそれが自信に繋がっています。今ちょうど自分が伸びてきて、やっていて楽しいです」
――正直なところ天弥戦で負けて、今後はどうするのかと思っていました。4連勝後に松本光史戦と粕谷優介戦で敗れた。そしてまた3連勝したあと天弥選手にKO負けを喫して、30歳を迎える。そうなると今後について一度考える時期になると思います。
「いやぁ、あんなの連勝だと思っていないですよ」
――えっ!?
「ただ競技として勝っていただけで、自分としては『格闘技ができた』とは思っていませんね。最近ようやく胸を張って『自分はプロのファイターだ』と言えるようになったというか。
みんな高いお金と時間を割いて試合を見に来てくれる。今まで自分がそのお金と時間に見合うものを提供できていたかといえば、それはできていなかったと思うんです。もちろん試合だから、結果としてそうならない時もあります。でも今は、そのお金と時間に見合うものを提供できる自信があるので。葛西和希、30歳を前にして本当のプロになりました」
――かっこいい、シビれる言葉です。
「アハハハ。先ほど天弥戦の話がありましたけど、あれも僕にとっては一つの敗北でしかなくて。『自分にはコレが足りなかった』と気づくことができました。周りの人も『天弥のパンチが後頭部に当たっていた』『あと2秒あれば1Rが終わって、2Rから3Rは組み伏せることができたんじゃないか』とか言ってくれるんですよ。もちろん自分も、その『たられば』を考えなかったわけじゃないです。ただ、それも今はどうでもいいですね。
自分は天弥のことが大好きで、応援しています。タイトルマッチで負けた時も本当に悔しかった。だけど天弥も絶対あの負けで気づくことがあるでしょうし、また強くなると思います。その強くなった天弥と試合できれば最高です」
――天弥選手との再戦に向けて負けられない一戦、相手の山本琢也選手の印象をお願いします。
「とにかく前に出て殴る、殴る、殴る。組み伏せて殴る、殴る、殴る。相手を殺しに行くスタイルじゃないですか。生物として強いと思います」
――確かに。
「メチャクチャ強いですよ。特にライト級の山本さんは強い。いちファンとしては、ライト級なら海外の強豪との対戦も楽しみなファイターです。というのも出ている大会が違っていたし、練習仲間でもあったので、そういう目で見ていました。でもやっぱり、心の隅には『いつか対戦するんじゃないか』って気持ちもありましたね。
練習なら僕がやられることのほうが多かったです。でも試合は――特に今の自分は120パーセントの力を出せるようになっているので。しっかりコンディションをつくって、試合当日に爆発させます」
■POUNDOUT02 対戦カード
<ライト級/5分2R+ExR>
山本琢也(日本)
葛西和希(日本)
<フェザー級/5分2R+ExR>
岡田達磨(日本)
大搗汰晟(日本)
<バンタム級/5分2R+ExR>
松井涼(日本)
武田勇輝(日本)
<フライ級/5分2R+ExR>
小林大介(日本)
能坂陸哉(日本)
<フライ級/5分2R+ExR>
八木敬志(日本)
藤村健悟(日本)
<ウェルター級/5分2R+ExR>
岩倉優晟(日本)
宇土冬真(日本)
<フライ級/5分2R+ExR>
椎名渉(日本)
後藤浩希(日本)
<ストロー級<フライ級/5分2R+ExR>
樋口幹太(日本)
工藤善哉(日本)
<バンタム級/5分2R+ExR>
内山国光(日本)
渡部大斗(日本)
<キック 67キロ契約/3分3R>
RYUMA(日本)
倉津カムイ(日本)
<チャレンジマッチ バンタム級/5分2R>
今井大暢(日本)
竹内正樹(日本)
<チャレンジマッチ フェザー級/5分2R>
立川フミヤ(日本)
金子尚史(日本)